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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 改正育休法で「男性の育休制度」はどう変わる?全企業に課せられた新たな義務とは
男性の育休

改正育休法で「男性の育休制度」はどう変わる?全企業に課せられた新たな義務とは

2021.08.27

男性の育休が少しずつ注目されているなか、実際に男性従業員から育休の申し出があり、対応に悩んだという経営者の方もいるのではないでしょうか?

2021年6月に育児介護休業法*の改正法案が可決されました。今回の法改正の最大のポイントは、企業に課された新たな義務。企業は新制度および現行の育休制度を従業員に知らせ、育休取得の意向を確認することが義務化されました。違反する企業が勧告にも従わない場合、国は社名を公表することもできます。

大企業だけと思いがちですが中小企業も対象となります。したがって全ての企業は、今までより一層、育休制度についてきちんと理解し、従業員に説明できるようにしておく必要があります。

本記事では、男性従業員の育休という視点から、現行の制度と育休中の収入を支える制度を概観し、法改正で何が変わるのかについて解説していきます。

* 正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う従業員の福祉に関する法律

男性が取得する育休の基礎知識

まずは、現行の男性が取得できる育休制度について説明しましょう。基本的な部分になりますので、経営者の方にはぜひ把握いただきたい内容になります。

そもそも「育休」とは?

育休とは正式には“育児休業”のことで、これは法に定められた従業員の権利です。1歳未満の子を育てる従業員であれば、女性も男性も取得できます。男性の場合は、妻が専業主婦や育休中でも、あるいは、夫婦で同時期にでも取得することもできます。ただ、有期契約の従業員には取得要件があります。

なお、労使協定があれば、企業は、“継続勤務期間が1年未満の従業員”、“1年以内に退職する従業員”、“1週間の勤務日が2日以下の従業員”に育休を取得させないということもできます。

ところで、“育児休暇”という言葉を聞いたことがあるかもしれません。実は法律の中に“育児休暇”という文言は出てきません。企業ごとの判断で実施するいわば社内制度を指すことが多く、法的な保障はないのです。

男性の育休期間は?

男性はいつからいつまで育休を取得できるのでしょうか? 原則、開始可能日は出産予定日、終了日は1歳の誕生日前日になります。希望するひとまとまりの期間を、同一の子につき1回限り取得できるのです。

なお、1歳の誕生日前日までに育休を開始している場合、1歳の誕生日時点で子どもを保育園に預けられない事情があれば、6か月ずつ2回までの延長が可能です。つまり、要件に該当すれば最長で子どもの2歳の誕生日前日まで、育休を延長することができるのです。

「パパ休暇」や「パパ・ママ育休プラス」とは?

育休の取得は原則1回ですが、男性には2回に分けて取得できる“パパ休暇”と呼ばれる特例があります。具体的には、1回目の育休を子どもの出生日(原則は出産予定日)以降に開始し、8週間経過日の翌日までに終了していることが条件になります。該当すれば子どもが1歳になるまでの間に2回目の育休を取ることができます。

また、“パパ・ママ育休プラス”という制度もあります。ふたり同時に、あるいは交代で、夫婦がともに育休を取得する場合には、育休期間の最終日となる日を、子どもが1歳ではなく1歳2か月になる日の前日まで延ばすことができます。この場合も、夫婦それぞれが取得できる最大日数は(女性は産後休業を含めて)1年間ずつである点は変わりません。

育休中の収入を支える制度

育休を予定している従業員の懸念として最も大きいのが、休業中の収入かと思います。ご存じの通り、企業は育休中に給与を支払う義務はありません。ただし、雇用保険から育児休業給付金が支給され、社会保険料が免除されるため、従業員は手取り額のおおむね8割が補償されます。この点は従業員の不安を解消するためにも、正しく理解して説明できるようにしたいです。

雇用保険の育児休業給付金

育児休業給付金は、従業員が育児休業中に申請することでもらえる給付金のことです。育休開始前2年間に、月11日以上勤務した月が12か月以上(原則)ある雇用保険の被保険者に支給されます。出生日以降、育休開始から180日目までは育休開始前賃金の67%、その後は50%を受給することができます。ただし支給月額には上限があります。

なお、育児休業給付金は非課税なので、無給となった分に応じて所得税と翌年の住民税負担が軽くなります。

社会保険料免除

従業員負担分・企業側負担分ともに、育休開始月から“終了日の翌日が属する月の前月まで”の健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。育休中も資格は継続するので健康保険も使えますし、将来の公的年金額にも保険料を納めた期間として反映されます。ここで、“終了日の翌日が属する月の前月まで”という、法律上の言いまわしに注目してください。

法律上は、月末の1日を含む期間を育休とすれば、その月の保険料が免除される仕組みとなっています。極端ですが、月末のたった1日だけでも育休を取得すれば、その月の保険料が免除されるということです。それが賞与支給月であれば賞与にかかる保険料も免除されます。一方で、育休の取得期間が月末にかからなければ、その月の保険料は免除されません。

なお、この仕組みは、保険料免除を目的に、月末1日だけ、あるいは賞与月の月末に偏って、男性が育休を取得する例を多発させているともいわれています。そのため、見直しが進められており、詳細はのちほど説明します。

法改正で変わる男性の育休

ここまで、現行の育休と育休中の収入を支える制度について説明しました。では、2021年6月可決の改正法により、どのような点が変わるのでしょうか? 改正法は2022年4月から段階的に施行されていくので、施行時期の順に法改正のポイントを紹介していきます。

(1)2022年4月から施行

・企業の新たな義務1:個別の従業員に向け、周知と意向確認の義務化

全ての企業には、子どもが生まれることを申し出た従業員に向けて新制度と現行の育休制度を周知し、育休取得の意向を確認することが義務付けられます。具体的な周知方法は、個別に制度説明の面談を実施する、書面で制度の情報提供を行う、などの複数の選択肢から選ぶことになる予定です。

新たな義務と同時に企業は、申し出を理由として従業員に不利益となるような取扱いを行うことが禁じられます。つまり、従業員が自発的に申し出やすいような職場環境を整えることが重要、ということになります。

・企業の新たな義務2:従業員全体に向け、育休を取得しやすい雇用環境整備の義務化

全ての企業には、育休をとりづらい職場の雰囲気を解消するよう、雇用環境を整備することが義務付けられます。具体的には、従業員全体に向けて育休に関する研修を実施する、育休に関する相談窓口を設置する、などの複数の選択肢から選ぶことになる予定です。

以上、企業の新たな2つの義務について、より具体的な内容や実施方法は今後、厚生労働省の省令や指針に示されるので情報収集が必要です。

(2)2022年秋から施行

・男性向けに出生時育休制度を創設:いわゆる「男性版産休」

男性従業員に向けて、“出生時育休制度”が新たに創設されます。この制度を利用すれば男性従業員は、出産予定日から8週間経過する日の翌日までの間に、4週間以内の育休を取ることができます。この出生時育休は2回に分割して取得することができます。

なお、改正によって2022年秋からは従来の育休についても2回までの分割取得が可能となるので、男性従業員は最大で4回の育休を、短期長期に組み合わせて柔軟に利用できるようになります。

注目したいのは、就業可能な育休であるという点。現行制度では育休中の就業は原則不可ですが、創設された出生時育休中は従業員の希望で就業できることが法定されました。ただし、就業する場合は、労使協定の締結が必要となります。今後、省令で就業可能日の上限が設けられる見込みですが、男性が出生時育休をとりながらも堂々と働くことが可能とされる点には注目です。

(3)2023年4月施行

・大企業の新たな義務:育休取得率の公表

従業員数1,000人超の大企業には、育休取得の状況について毎年公表することが義務付けられます。

今回の改正では、中小企業には育休取得状況公表の義務は課されません。中小企業にとって従業員の育休取得は代替要員の確保など課題も多くあるでしょう。

ただ、高い育休取得率の企業は従業員の働きやすさにもつながります。公表が義務付けられていなくても、よい人材を確保し、定着させるために、育休取得率の向上にはぜひ前向きに取り組んでいただきたいです。

育休中の保険料免除の見直し

さきほど保険料免除を目的とした育休の取得が増えている点についてふれました。これについて国会では、健康保険法等の一部改正法案が可決され、育休中の保険料免除要件が見直されました。改正法が施行される2022年10月以降、賞与の保険料は1か月を超える育休でないと免除されなくなります。一方で、月途中の2週間以上の育休は、月末にかからなくても免除されるようになります。

これにより、育休を取得するタイミングとして月末を含むか否かが保険料免除の有り無しの差を生む不公平感が解消されていくでしょう。なお、月末1日のみの育休が保険料免除の対象となる点は改正後も変わりません。

社会や地域で子育てを支える

男性の育休は徐々に注目されてきてはいますが、2019年時点で男性の育休取得率は7.48%と大変低い水準です。充実した育休制度にもかかわらず、男性の育休取得が進まない理由の一つは、育休取得に対する職場の雰囲気や収入減への不安にあるのではないでしょうか。となると、企業は風土の改善を促し、育休や育休中の収入を支える制度について従業員に知ってもらう取り組みが重要です。

しかし筆者は、問題はもっと根深い所にあると考えています。日本人にとっての子育ては、「自分で、あるいは自分達夫婦や家族だけで、社会から期待される責任を果たさなければいけない」という認識と結びついているように感じます。仕事と私生活の両立が難しい社会の中で、孤軍奮闘しなければならない子育ては、経済的、体力的、精神的な負担感につながってしまいます。

少子化対策が求められるなか、自助を越えて社会や地域で子育てを支えていくことが求められているのではないでしょうか。

 

本記事では男性従業員の育休が法改正でどう変わるかについてお伝えしました。法改正の最大のポイントである新たな義務については、今後発表となる厚生労働省の省令や指針に具体的な内容が示される予定です。女性従業員はもちろん、男性従業員も育休制度を利用しやすい環境を整えるために、まずは社内での育休制度の周知から始めてみてはいかがでしょうか?

【参考】
育児・介護休業法について』 / 厚生労働省
令和元年度雇用均等基本調査』 / 厚生労働省

* mits / PIXTA(ピクスタ)

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