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株式譲渡

リスク対策は大丈夫…?中小企業で社員に株式譲渡をするメリット・デメリット

2021.08.03

ある建設会社の社員のランチタイムの一幕です。

「社長が、社員に会社の株を持たせるために社員持ち株会をつくるらしいよ」
「会社の株を持つと、どんなメリットがあるの?」
「株主配当や株主優待がでるのかも!」
「モノ言う株主とか聞くから、株をもつと社長に強気に意見が言えるのかも!」

上場企業の場合、株主のメリットは“株主総会に参加できる”、“株主優待を受け取ることができる”、“配当を受け取ることができる”、“株式売却して売却益を得ることができる”などはっきりしています。逆に、株価が下落する、企業の倒産などのデメリットもあります。企業側も上場して株式公開することで、多様な資金調達を可能になります。

しかし、非公開企業の株式譲渡には、わかりにくい部分も多いのではないでしょうか? そこで本記事では、社会保険労務士の筆者がその点も含めて株式譲渡をわかりやすくご紹介していきます。

そもそも株式譲渡とは?

株式譲渡とは、株主が保有株式を対価と引き換えに、法人または個人に譲渡する手続きのことをいいます。所有と経営の分離がなされている株式会社においては、株主としての地位において経営することがないため、株主の個性は重要ではありません。

また、会社組織・運営の基礎となる会社法の第127条で、“株主は、その有する株式を譲渡することができる”と定められているとおり、原則、株式会社では株式を自由に譲渡できるとされています。

ただ、実際には親族だけを株主とするなど、株式が自由に譲渡されることを望まない場合、“譲渡制限株式”を発行することが認められています。“譲渡制限株式”とは普通株式の権利内容とは異なる”種類株式”の一つで、株式を譲渡するにあたって会社の承認を必要とする株式のことをといいます。会社法の定める譲渡制限のほか、株主間の契約によって譲渡を制限することもできます。

株式譲渡の目的と注意点は?

社外への株式譲渡を制限する中小企業では、次のような目的で自社社員への株式譲渡を行うケースが多くあります。

(1)事業承継のため

信頼できる社員を後継者として事業承継することがあります。現在の経営者の親族に後継者となる者がいないことや、親族が拒んでいる場合には、従業員承継となる場合があります。その際に、基本的に中小企業では株式譲渡によって事業継承が行われます。なお、注意点としては、中小企業では金融機関の借り入れ時に経営者が連帯保証をしていることが多いですが、事業承継をする場合は後継者が連帯保証も引き継ぎます。その後継者が保証能力不足のため、連帯保証を引き継げないケースもあります。

(2)社員のモチベーションアップのため

株式譲渡を行うことで、社員の経営参画意識が芽生え、モチベーションの向上が期待できます。福利厚生の一環として行うこともあります。注意点は、退職時の自社株の取り扱いについて考えなければなりません。例えば、元社員が死亡すると株式は資産という扱いになるので相続トラブルの原因になる場合もあります。

自社社員へ株式譲渡の方法は?

企業が自社社員に自社株を譲渡する手段として挙げられるのは、一般的な現金を対価とした株式譲渡以外にも“株式報酬制度の採用”と“従業員持株会の設置”の2つがあります。

(1)株式報酬制度

株式報酬制度とは、社員に自社株を報酬として渡す方法です。採用する企業が多い制度がストックオプションです。ストックオプションとは、会社が事前に定めた価格で、社員に対して自社の株式を取得する権利を供与する制度のことです。ストックオプションの付与は、優秀な人材の確保・維持や、役員や従業員の業績向上へのインセンティブを高めることができます。

(2)従業員持株会の設置

従業員持株会は民法第667条の民法上の組合として設立されます。法人格がないため法人税の課税対象とならず、持株会の会員に直接課税がされます。保有株式は共有となり、会員は自社株を直接保有することなく、持分という形で間接的に保有します。株式の管理は理事長名義となり議決権も一括行使しますが、議決権の不統一行使も認められています。

中小企業における株主譲渡のリスクは?

2016年の調査では日本の企業数は359万社あり、そのうち大企業が1万社で、残りの358万社が中小企業です。上場企業は、2021年1月末で3,860社となっており、大多数が未上場会社といえます。

会社法で会社は、”株式会社”と”持分会社”に分かれており、さらに株式会社は”公開会社”と”非公開会社(株式譲渡制限会社)”に分かれています。

中小企業に多い非公開会社は、公開会社に比べて要件が緩和されていて、より柔軟な経営が可能になっていますが、以下に挙げるようなリスクも潜んでいます。

(1)経営権喪失のリスク

経営権をめぐる騒動は、上場企業に限ったことではありません。中小企業でも同様のことが起きるリスクがあります。相続税など税金面を優先しすぎて自社株を分散した結果、経営権を喪失する場合があります。

(2)資金流失のリスク

儲かっている会社は株価が何百倍になっている可能性があり、莫大な相続税などが発生する可能性があります。また、相続で自社株が分散すると、親族等から自社株の買取請求を受ける可能性があります。

(3)会社の情報流出のリスク

株主には決算書類など、株主名簿、株主総会議事録、会計帳簿などを閲覧請求する権利があります。これらの権利を行使されると、社内外に会社の情報がオープンになり、商取引の条件悪化、売上減少などリスクにつながります。

非公開会社の中小企業の経営者は、自社株の株式譲渡など取り扱いについて知っておくことで、リスク回避を行うことが必要となります。

【参考】『平成24年、28年経済センサス‐活動調査』 / 総務省・経済産業省

トラブル回避のために定款を見直そう

会社を設立するとき、会社の憲法といわれる定款を作成します。定款は、法的な効力がある書類であり、公証人役場で認証を受ける必要があります。

この定款には、発行可能株式総数(発行限度)、事業内容、取締役、取締役会、監査役、決算期等の最低限必要な事項や会社に将来起こりうるトラブル防止に役立つ条件などを記載します。

そのため、これから説明する点において定款の見直すことが株式譲渡におけるトラブル回避のための一つの策となります。

(1)株券不発行会社にする

株券発行会社の場合、譲渡人あるいは譲受人が単独で会社に対して譲渡承認請求、名義書換請求ができます。譲渡承認請求とは前述したとおり、譲渡時に必要な会社の承認を請求すること。名義書換請求とは、株式を取得後に会社の株主名簿に名前の記載を請求することです。株券不発行会社の場合は、これらの請求を譲渡人と譲受人が連名で行う必要があるため、会社の承認なしに売却することへの歯止め効果が期待できます。

(2)単元株制度の導入で単元未満株主の権利を制限できる

株式が多くの株主に分散している場合、株主総会招集通知作成等の事務負担が大きくなります。単元株制度を導入することで、1単元未満の株主は株主総会に出席する権利を失いますので、招集通知の発送は不要になり、事務の軽減になります。1単元の株式数は上限1,000株と発行済株式総数の200分の1のいずれか低い方を上限として自由に決められます。

(3)相続人等に対する売渡請求権を確保する

株式に譲渡制限が付与されていても、原則として相続はこの制限の対象になりません。そのため、株式保有者が亡くなった場合、その株式は遺族に承継されてしまいます。遺族が自社株の買取に応じない場合には強制買取はできませんが、定款で売渡請求権を定めておけば、相続された株式を会社が自己株式として強制的に買い取ることができます。

(4)売主追加請求権の排除をしておく

会社が特定の株主から自己株式を取得する場合、株主総会の特別決議が必要です。その際に、他の株主も平等となるように”売主追加請求権”が認められるので、特定の親族などに限定した買取が困難になります。そこで売主追加請求権を排除することで、特定の株主に限定した高い株価での買取が可能になります。

株主の持株比率に注意!保有数でできること

会社法では、会社の基礎的な重要事項(例えば定款変更、組織変更、取締役など)の選任などを株主総会で決定するとしています。株主総会には、年1度の定時株主総会(決算書類の承認と剰余金の配当に関する決議)と、それ以外の臨時株主総会があります。

株主総会の決議は、原則として議決権の過半数で可決となります。議決権は1株(1単元)当たり1個です。なお、合併などの会社の状態を変える重要な課題には、議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。

そして、総株主総数の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き持つ株主は、取締役に対して株主総会の招集を請求できます。また、一定の条件を満たす株主は株主総会において議題や議案を提案できる”株主提案権”を行使できるとされています(公開会社で取締役設置会社では、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を6か月前から有する株主)。

株式を一定以上保有することで、株主が会社にもたらす影響力も変わってきます。経営者の方はぜひ念頭においておきましょう。

 

リスクや注意点とともに、中小企業における株式譲渡について説明してきました。

旧商法では、“会社とは商行為をなすこと業とすることを目的に設立された社団”と規定しています。会社は営利法人と解されていました。ここでの“営利”とはお金儲けのことですが、儲かったお金を山分けすることまで含むといえるでしょう。また、“業とする”とは、“反復継続性”を意味します。そして、“社団”とは人が集まってできた団体のことをいい、ここでいう“人”とは出資した人を指します。

このように、会社には“継続性と山分け”の仕組みが求められています。そのためには、社員への株式譲渡は有益な手段といえるでしょう。

* nonpii / PIXTA(ピクスタ)