優秀な若手社員の採用・定着に向けて ~「入社後フォロー」での3つのポイント~
~中堅ハウスメーカーのとあるマーケティング部長のつぶやき~
「活躍が期待できそうな若手がようやく入社してくれた。」
中途入社のAさんが職場で自己紹介をした3か月前を、部長は満足感とともに思い出していた。
Aさんは面接で思った通り、前向きで積極的な人柄だ。ベテランの先輩社員にも物おじせず質問し、前職で自分が取り組んでいたアイデアを会議の場で快活に発言してくれた。
しかし3か月経過した最近、どことなくAさんに元気がないように感じる。
朝の挨拶に覇気がなくなっただけでなく、外回りから戻った際も静かに自席に戻っている。入社直後は、周囲に外回りの感想をあれこれと話していたというのに。
フォローをしたいものの、自部署に中途入社者が来るのは久しぶりすぎて、部長にはなすべき術が思い浮かばない……。
大きな期待を担って、自部署に入社してきた若手の中途入社者。本人にとっても大きな決断をしているため、良い転機となるよう気合も入るでしょう。
頑張っているようなので一安心していると、いつの間にかやる気を失っている、下手をすると、すぐに他社へ転職するようなケースも少なくはありません。
今回は全3回シリーズで、大手企業などの採用ブランド力が高い企業でなくても、工夫次第で優秀な若手社員を採用でき、生き生きと活躍できるまでに職場に定着する方法を解説しています。
第3回目となる本記事は、『入社後フォロー編』です。
せっかく縁あって入社してきた若手を折れさせないために、職場ぐるみでフォローする方法をお伝えします。
➤第1回記事:優秀な若手社員の採用・定着に向けて ~「採用準備」ですべき4つのこと~
➤第2回記事:優秀な若手社員の採用・定着に向けて~「採用選考」と「面接」3つのポイント~
中途入社者の定着に関する現実
会社の新たな戦力として活躍してほしい中途社員ですが、残念ながら定着率には課題を抱えているのが各社の現状です。ある調査では、企業の4割が「中途社員の定着率が悪い」と課題を感じているようです。※
せっかく採用した入社者が辞めてしまうと、再度採用活動をするためのコストや労力が発生してしまいます。育成に関わった職場メンバーの労力も無駄になるだけではなく「せっかく入社したのに、もう辞めてしまった」というネガティブな雰囲気が職場全体に蔓延しかねません。
「良い若手を採用するぞー!」と、採用するまでにパワーを投入しがちですが、むしろ採用後の定着にパワーを投入する必要があるのです。
逆の見方をすると、採用までにパワーをかけた度合いと反比例して、入社者が定着しなかった徒労感にも襲われてしまうのです。
中途入社者の定着を左右する3つのフォロー
“即戦力”という言葉を聞くと、入社者が自力でダイナミックに活躍する姿を思い描いてしまいがちですが、そんなケースはなかなかありません。
本人が“自力のみで”バリバリと活躍するほど職場に定着するためには、3つのフォローポイントを押さえる必要があります。
1.足元をフォローする
前述の中途社員の定着に関する調査では、「入社後半年以内が退職につながりやすい」と感じている企業が多いようです。それほどに、入社後の導入時期は非常に重要なポイントといえます。
入社後の育成メニューは多くの企業で準備すると思います。「最初の1週間でこの知識を覚えてもらって」「1ヶ月目には先輩と外回りをスタートして」などのメニューが一般的でしょう。
この際、定期的にフォロー面談をする機会を意図的に設定してください。入社後の1~2週間は、毎日帰宅前に10分会話をする機会を設ける程度でもいいです。
きっちりとした報告の場ではなく、「今日はどうだった? 分からない用語はなかった?」など、カジュアルな場のほうが良いでしょう。本人もリラックスして、本音を出しやすくなります。
余談ですが、入社直後の帰宅前フォロー面談は、本人に退社タイミングを促す効果もあります。中途入社者は、入社直後はそれほどやることがないケースが多いです。
しかし、職場の他の社員が忙しそうに働いていると、帰りにくいと思う人が多いようです。血気盛んな若手であれば、なおのこと先輩より先の帰社は気後れするでしょう。フォロー面談を設けることで“本日は終了”という、本人が帰宅しやすい合図にもなるのです。
また、上司が直接フォローできない場合などは、職場のDB(データベース)に日誌などを書かせる方法も有効です。上司以外の職場メンバーも閲覧・コメントができるため、職場全体で入社者のフォローができるようになります。
2.横のつながりをフォローする
入社後の配属部署が固定されている中途入社者は、部署以外の社員との横のつながりができにくい特徴があります。特に若手社員は、前職が新卒入社で“入社同期”という横並びの仲間がいたため、なおさら孤独感を感じやすくなってしまいます。
いくら職場メンバーが熱心に声掛けをしても、今の職場の不満や愚痴は言うことはできません。ちょっとしたガス抜きをするために、他職場の同年代社員とのネットワークを作ってあげると良いでしょう。
仕事のついでに他部署へ一緒に行き「今度うちの部署に入社した〇〇さんです。同世代だから、何かと目にかけてあげて。」程度の紹介で大丈夫です。
どの部署でも中途社員同士の横のネットワーク作りは喜ばれると思うので、ぜひ率先して行ってください。
3.先々をフォローする
リスクゾーンである“半年間”を超えたといっても、安心は禁物です。
志の高い若手社員の場合は「この会社にいて、自分の求めているものは手に入るのか」や「1年後に、自分の望む成長は見込めるのか」など、さらに貪欲に先々の目線で考えます。むしろ職場の仕事に一通り慣れて来た半年後頃こそが「この転職は果たして自分にとって成功だったのか」と、息を整えて考えるタイミングといえます。
半年間程度は「やってみてどうだったか」と、振り返り目線のフォローでしたが、このタイミングから「先々やっていけそうか」という、未来に向けてのフォローに目線を切り替えていってください。“一部署の中途入社者”から“会社としての戦力”に視野を広げるイメージです。
「先々やってみたい仕事は?」「今の部署で独り立ちした先のキャリアパスが描けるか?」など、中長期でのフォローを行っていけば、本人も“会社への貢献”という自我が芽生えるでしょう。
まとめ
今回は3シリーズで「優秀な若手社員の採用~定着」というテーマでお伝えしてきました。入社後の早期離職は“振り出しに戻る”ようなものなので、今回の定着編は最も重要な場面といえます。
入社後ギャップはどんな人、どんな職場でも起こるものです。他社での経験がある中途入社者であれば、なおのことギャップを感じやすいでしょう。どうにもならないギャップもあるでしょうが、カルチャーギャップなど当然のように生じる壁は、フォローをすることで解消できることが多いです。
本人にとっても、会社にとっても、中途採用は「これを良いきっかけにしたい」という前向きな機会です。そこを台無しにしないように、定着まで丁寧に伴走することを心がけてください。
優秀な若手社員が定着してくれれば、職場の活性化はもちろんのこと、その人がきっかけとなり、次の若手社員の採用にもつながるかもしれません。
【参考】※ 【『中途入社者の定着」実態調査定着率の調査』エン・ジャパン株式会社】
*Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)