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新規事業推進における要諦

「新規事業なんて…」と諦めないで!自社ならではの新規事業の見つけ方

2022.02.21

現在、大企業・中小企業問わず、新規事業に取り組む企業が増えていますが、やはり「下請けのウチが新規事業なんて……」と諦めている経営者の方々は少なくないのではないでしょうか?

もちろん、既存事業より不確実性(リスク)の高い新規事業は、全ての企業におすすめするものではありません。しかし、現業でどのような施策を打っても十分な収益が確保できない場合、既存事業の市場縮小が明確に予想されている場合など、新規事業を一つの経営オプションとして検討すべき場面はあります。

このようなケースでは、「自社には新規事業の種など何もない」と諦めるのではなく、自社と外部環境を見つめ直すプロセスを踏むことをおすすめします。

現在事業を営んでいる会社であれば、何の強みもないことはありません。世界一でないかもしれませんが、何らかのニッチな領域で一定の競争力があるため事業を継続できているはずです。

例えば、「顧客と昔からの付き合いがあるだけで……」ということであれば、顧客との深い関係性、顧客のビジネスへの精通という重要な強みを有しているということではないでしょうか? 顧客側のバリューチェーンの一部を取り込むような新規事業は有力な候補となるでしょう。

本記事では、中小企業診断士で戦略コンサルタントの筆者が、「新規事業をやるべきか、なぜやるのか」を吟味した上で、自社の新規事業の検討に必要なステップをご紹介します。

新規事業に重要な2つの視点とは?

まず前提として、新規事業の検討にあたって、“リソース・ベースド・ビュー”(企業内部に蓄積された経営資源の活用により、競争優位性を作り上げようとする考え方)と“ポジショニング・ビュー”(企業を取り巻く外部環境に重点を置いて経営戦略を展開する考え方)の双方を掛け合わせるべきという考え方に立っています。

自社内部の強みだけを重視して事業を構想すれば、一人よがりの製品・サービスとなったり、有力な競合に気付かず負け戦を挑んでしまうおそれもあります。一方で、外部環境だけを見てホワイトスペースに踏み込んだとしても、自社らしさがないため、誰がやっても同じ事業となってしまい、早々にコモディティの波にのまれる可能性が考えられます。

そのため、自社の強みと、外部環境要因を掛け合わせることで、未充足ニーズに応えつつ自社ならではの差別化された事業を構想すべきなのです。これは、リソース/ポジショニングどちらかのみ考慮するより深い検討が求められるでしょう。

双方の考え方を踏まえ事業アイデアを構想することで、3C(自社、市場、競合)それぞれの問いである「なぜ自社がやるのか」「売れるのか」「他社に勝てるのか」に応えることになるのです。

新規事業検討の検討プロセス

ステップ0:まず、新規事業に取り組む意義を定義しよう

まず自社の経営課題を改めて整理した上、既存事業について顧客拡大、販売数増、機能向上による単価アップなど、まだ取り組む余地のある課題があるのか、それとも既存事業の拡大が望めない/テコ入れに過大なコストが想定されるため、新たな収益源が必要なのか等、現状を正確に認識する必要があります。

もちろん、既存事業が順調な場合であっても、「収益を更に拡大したい」「コロナ禍のような突発要因への耐性を高めるために事業の柱を増やしたい」「チャレンジ精神のある社員を獲得するため旧態依然とした企業イメージを変革したい」「社長/社員が事業により解決したい社会課題がある」など、財務的な余裕に応じて、新規事業に取り組む意義は多く考えられるでしょう。

ここで必要な財務分析などについて詳述しませんが、重要なことは、自社の状況を踏まえた上で新規事業に取り組む意義を定義するということです。これは、新規事業を検討・推進する基盤となるものであり、新規事業アイデアが複数ある場合も、この目的が明確になっていることで明確な判断が可能な場合もあります。

ぜひ「新規事業、何でやるんだっけ?」と思ったときに立ち返るスタートラインを引く作業として、この“ステップ0”を飛ばさないよう注意してください。

ステップ1:自社が持つ有形/無形の「強み」を棚卸ししよう

自社の強みを漏れなく棚卸しする上で有用なフレームワークとして、『国際統合報告フレームワーク(国際統合報告評議会/IIRC)』で示されている6つの資本分類をご紹介します。各項目に該当するものが何かないか、ぜひ管理部門から生産部門まで幅広くディスカッションをしてみてください。営業担当者、工場担当者などから思いもよらない強みに気づかされることも多くあります。

このとき、会社の規模等にもよりますが、社長や社員の個人的な(事業に直接関係のない)スキル・知見を含めても結構です。建設事業で培った施設施工・管理ノウハウと、社長のニッチな知見を組み合わせて高付加価値の宿泊施設運営事業に踏み出したような例もあります。このステップでは、普段あまり直接関わらない社員とも議論を重ね、一見使い道のなさそうな強みも含め、総ざらいしてください。

ステップ2:市場の未充足ニーズを捉えよう

新規事業に繋がるニーズを探索する上で、『アンゾフの成長マトリクス』*のどこを狙うのかをまず検討する場合がありますが、初めからどこかの象限を狙うことに絞ることはあまりおすすめしません。既存市場と新規市場、新製品と既存製品の切り分けは明確ではなく、当初よりスコープを狭めることで有望なニーズを排除してしまうことにもなりかねません。ステップ2では、まず広くニーズを捉えることを意識しましょう。

*下図のような2×2のマトリクスを指し、市場で有利に事業を展開できる可能性を検討する際に使用します

一方、PEST(「Politics」政治、「Economy」経済、「Society」社会、「Technology」技術)分析などを行い市場トレンドやニーズを網羅的に分析することは非常に手間がかかるため、リソースが限られ、これまで新規事業に取り組んだ経験の少ない企業にとってはハードルが高いと考えます。

ここでは、取り組みやすいニーズ調査・分析手法を2つお伝えします。

手法1:バリューチェーンの上流・下流から取り込める種を見つけよう
すぐに顧客に対してニーズヒアリングを行いがちですが、基本的に顧客はサプライヤーに新規事業など求めてはおらず「より良いものを、より安く」を要求しています。このため、事業モデルを検証する段階までは、顧客に対し直接的にニーズを尋ねることはあまり効果的ではありません。

その代わり、自社製品・サービスが属するバリューチェーンを細かく整理した上で、上流および下流に取り込める部分がないか探ることはとても有効です。たとえば、下記のバリューチェーンのように、顧客が部品の表面処理・加工を行っている場合には、部品の性能や耐久性等を向上させる表面処理・加工サービス、または表面処理が不要な部品のニーズがあるかもしれません(下流のニーズ)。一方、調達元が原料を点検・保管しているのであれば、点検代行や保管管理サービスのニーズも考えられます(上流のニーズ)。

手法2:顧客の顧客に尋ねよう
上述した通り、直接の顧客に尋ねる既存事業を越えるようなコミュニケーションは容易ではありません。しかし、顧客の顧客に尋ねることで、業界における最新ニーズを把握できる場合もあります。

例えば、電気製品の部品に使用する素材を製造しているA社があったとします。A社は部品メーカーB社を介して、完成品メーカーに部品を納品しています。

ここで、完成品メーカーが新製品開発のため新たな部品を求めている場合、一次的に依頼を受けるのは一次サプライヤーであるB社です。そして、B社はA社との取引を前提に新部品を開発するわけではなく、また、A社の能力を全て把握しているわけではないため、A社の技術で貢献可能性があるにも関わらず声がかかっていない場合もあります。

このようなとき、A社が完成品メーカーとコミュニケーションをとることで新部品のニーズを把握することができれば、自社の技術で新部品に必要な素材を開発して売り込んだり、さらには新部品自体を開発できる可能性もあります。既存の取引先に限らず、他の部品メーカーや完成品メーカーに販売できる可能性も広がるでしょう。

また、完成品メーカーにおける長期的な展望や構想は、なかなか二次・三次サプライヤーには伝わってきません。ここで、どうにか完成品メーカーなど“顧客の顧客”と対話することで、長期的な業界動向を捉えることができ、先回りして新製品開発に着手することが可能となります。

ステップ3:「自社の強み×未充足ニーズ」から自社ならではの提供価値を定義し、ビジネスモデルを構想しよう

ステップ1で整理した自社の強みと、ステップ2で把握したニーズの掛け合わせでビジネスモデルを検討します。そして、当該ビジネスモデルにおける“自社ならではの提供価値”を定義することが極めて重要です。このステップを踏まなければ、どの会社も同じような製品を作ってしまい、早々にレッドオーシャン化するおそれがあります。

このため、自社の強みを活用してニーズに応える“自社ならではの提供価値”を定義し、「なぜ自社がやるのか」の問いに応えることが重要なのです。

例えば、既存の製品・サービス、または自社ネットワークを活用することで、複雑な製品やサービスを“ワンストップ”で提供できることは一つの提供価値となります。また、既存技術と組み合わせて必要部品の種類/数を減らすことができれば“省パーツ化、工程削減”の価値を提供することができるでしょう。他にも、高耐久性や小型化、デザイン性のほか、充実したアフターケアや付随サービスを主な提供価値とする例もあります。

加えて、近年では、生産時のCO2排出や廃棄物削減、原料調達における人権確保など、SDGsやESG視点での付加価値も重視されるようになっています。

一つの未充足ニーズを狙う企業は無数にあるという意識の下、自社ならでは製品・サービスを構想するため検討を重ねることが重要です。

【こちらの記事も】自社が注力する社会課題(マテリアリティ)を特定しよう

ステップ4:「誰が、現在何に使っているコストを代替するのか」を明確化しよう

企業・消費者の財布の紐が固い現状を考慮すると、基本的に“新たな支出を生み出す”ことはできないという前提に立つ必要があります。そのため、ビジネスモデルを検討する際には、新製品・サービスは「誰が、現在何に使っているコストを代替するのか」を明確化することが不可欠です。

代替するコストは、既存製品等の購入に充てられている費用の場合もあれば、顧客自身が一定の作業を行うための人件費などさまざまです。

また、顧客の完成品を高付加価値化することで、間接的に最終消費者へコスト転嫁する場合もあります。この場合も、最終消費者が現状何に対して支払っているコストを代替するのか、整理しておくことが理想的でしょう。

新規事業推進における要諦

スモールに・素早く立ち上げよう

冒頭で述べたように、新規事業にはリスクが付きものであるため、スモールに立ち上げる観点が必須です。スモールというのは、“量”と“質”いずれにもいえます。

“量”に関していえば、いきなり製造ラインを追加するのではなく、当初は売上や利益率を欲張らずに、極力既存のアセットを活用して生産する方法を模索しましょう。これはサービスの場合も同様です。まずは既存の体制で提供できる範囲で事業を開始し、顧客の反応を見ながら徐々に拡大していきましょう。

“質”についても、当初からフルスペックである必要はありません。それよりも、まずは最低限顧客の要望を満たすプロトタイプで迅速に提供を始めることが効果的です。顧客の要望に応じてブラッシュアップすれば良いため無駄な作り込みが生じにくく、少しずつ方向転換することでリスクを最小限に抑えられます。

新規事業は何が何でも思い切った投資が必要という考えは捨て、量・質ともに“小さく”“早く”を意識しましょう。初期コストがかからず素早く導入できるクラウドサービス、自社の強みと直接関係のない工程のアウトソースなどもぜひ検討するとよいでしょう。

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推進する担当者/部門には自由度を与えよう

新規事業は収益化に時間がかかり、顧客が求める内容も異なります。既存事業と同じ考え方で新規事業を管理した場合、無理に黒字化を急ぎ中途半端な製品となったり、提供価値が曖昧になってしまったり、無理が生じることが多くあります。

そのため、新規事業を推進する担当者や部門には、可能な限り広い裁量を与えることが重要です。当然定期的な状況把握は必要ですが、事細かに報告・決裁を求めずに、機動的に意思決定できるように権限移譲することで、製品・サービスのブラッシュアップが格段に速くなり、成功確率も上がることとなります。

最後に:断固たる「意思」が新規事業成功のキーファクター

ここまで、新規事業における検討ステップやポイントについて述べましたが、全ての根底となるのは、経営者・担当者の「必ず新規事業を成功させる」という強い意志です。

新規事業が当初の構想通りに実行できることは少なく、長い期間小さな修正を繰り返す気の長い作業となります。これを支えるのは断固たる「意思」に外なりません。もちろん経営者や担当者だけに依拠せず組織として支える体制は必要ですが、やはり最後は人です。

新規事業に対し全面的にコミットする経営者、そして同じ熱量をもった担当者が一丸となり、ぜひ新規事業を成功に導いてほしいと考えています。

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*bee、kikuo、takeuchi masato、マハロ、Rhetorica / PIXTA(ピクスタ)