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この指止まれ営業とは?

「この指止まれ型営業」とは?顧客を自らリードする経営者の営業手法を紹介

2021.12.16

企業に求められる社会的役割が変容する中で、経営者の営業に求められることも変わってきています。

近頃、営業のなかで増えていると感じているのは、捉えどころのない“すれ違い”です。例えば、「得意先の社長に新たな提案をしても、良くも悪くも言われないが提案も通らず、何が足りないのか分からない」「新規開拓の企業トップに提案しても“聞きたいのはそういう話じゃない”と言われてしまい……。だからといって、どういう話が聞きたいのかもはっきりしない」という経営者の方からの悩みを耳にします。

これまで、多くの企業は、品質、コスト、納期(QCD:Quality、Cost、Delivery)といった従来の競争軸に沿って提案を判断していたため、良し悪しのフィードバックも明確でした。しかし、ビジネスにおけるモノサシが多様化しつつある現在、営業先の経営者自身が、そもそも何を良しとすべきか判断軸を見出せず、“答え”を持たないまま営業を受けざるを得ないことも多くなっています。そして、これが、上記のようなすれ違いが増えている一因です。

本記事では、自社の核として社会課題解決を位置付け、あるべき未来に向け顧客をリードしていく新しい営業スタイル“この指止まれ型営業”を紹介したいと思います。

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 御用聞き営業の時代は終わった

営業においては、相手が経営者・担当者を問わず、顧客の考えていること、欲しいものを敏感に察知し、機を逃さず提案・提供することが長く求められてきました。既存ビジネスの延長線上で戦うためには、言葉を選ばずに言えば優秀な“御用聞き”であることが重要な要素でした。

【こちらもチェック】顧客ニーズの捉え方とは?BtoBの「御用聞き営業」から抜け出す方法【ノウハウまとめ】

ビジネスにおける競争軸の変化とは

当然、現在もまだそのような面もありますが、ビジネスにおける競争軸は、従来の品質、コスト、納期(QCD)を超えて、大きな変化を迎えています。“社会にどのような価値を提供しているか”ということが重要になってきているのです。

企業におけるSDGs*(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)への取り組みも社会に与える価値の一つです。SDGsというと、大企業のものというイメージがあるかもしれません。しかし、経済産業省では中小企業にもSDGsの取り組みを促しています。後述しますが、中小企業でもSDGsに取り組むことで、他社の差別化を図ることに成功している事例も少なくないのです。

また、消費者の嗜好も、“良いものを安く”一辺倒ではなく、製品・サービスの社会的なストーリー・サステナブルな価値も重視するようになり、多様化しています。

金融に目を向ければ、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)も考慮した投資を行うESG投資は、2020年の世界総額35.3兆ドル(約3,900兆円)、全運用資産の3分の1以上を占めるまでに拡大しています。このため、資金調達の面で、大企業等は環境・社会等の課題解決を意識した経営を迫られています。そして、大企業の取引先となる中小企業等に対しても対応が求められているのです。

変化に対応できない企業は疲弊していく

このような変化の中で、顧客となる企業も、新たなモノサシ、羅針盤がないままに「自社はこのままでいいのか」「社会課題解決と言われても、自社に何ができるのか」と悩んでいるように見受けられます。

その状況下で、従来のように“御用聞き営業”を続けても、ビジネスの方向性を見いだせていない顧客との間では、冒頭で挙げたようなすれ違いが生じやすいのです。さらには、顧客に響く言葉が“コスト削減”しか見つからず、コスト勝負の営業に陥りがちです。

『法人企業統計年報』(財務省)をもとに作成した下記の図のように、日本産業は、飽くなきコスト削減により、この10年売上が伸びない中で利益を約5倍にも増大させてきました。

その結果、OECD(経済協力開発機構)で唯一、過去20年で賃金が低下している日本の現状があるように、さらなるコスト削減を続ければ、企業、従業員ともに疲弊してしまう状態にあります。

今、営業が目指すべきは、顧客の要望を機敏に察知する“御用聞き”ではなく、不確かな未来において目指すべき方向を明示し、ともに歩んでいこうと促す“同志”、“先導者”ではないでしょうか。業界ピラミッドを前提に上位企業に追随するのではなく、中小企業も自らあるべき未来に向け顧客をリードすることが求められています。

*SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなる持続可能な開発のための国際的な開発目標です。
*OECDとは、Organisation for Economic Co-operation and Developmentの略。ヨーロッパ諸国を中心に、日本やアメリカが加入している国際機関です。

今中小企業に必要なのは「この指止まれ型営業」

ビジネスの方向性を見いだせていない顧客が増える中、企業に必要なのは、自ら目指す目標に向け走りながら、仲間(顧客)を巻き込む営業スタイルです。筆者は“この指止まれ型営業”と呼んでいます。

例えば、「我々の部品を、御社の製品に搭載すれば、御社は社会に○○の価値を提供できる。一緒に○○な社会を目指しましょう」「深刻化する温暖化抑制に貢献していきませんか? 当社サービスと一体となって御社のビジネスを○○に転換していきましょう」といった営業文句です(詳細は後述しますが、〇〇には社会課題が入ります)。

従来の営業と異なるのは、顧客とともに実現したい将来ビジョンを自社起点で語る点です。これまでは、社是などで社会貢献について述べていても、営業でその内容を語ることは少なかったのではないでしょうか。“この指止まれ型営業”では、どのような社会課題を解決し、いかなる未来を目指すのか、をまず自分事として語った上で、顧客が自社と連携した先に待っているストーリー、社会に確たる価値を提供しながら成長していく道筋を明示することが重要です。

“この指止まれ型営業”は、経営者にこそ取り組んでいただきたい営業スタイルです。なぜなら、経営者は、自社が目指すビジョンについて、最も高い熱量をもって語れる立場にあり、それが顧客を巻き込む最大の原動力となるからです。また、経営者であれば、顧客との対話の中で、ともに描くビジョンを自らの責任で柔軟にアレンジできるため、顧客の経営トップと目線を同じくする“同志”、“先導者”として関係性を構築しやすいのです。

「この指止まれ型営業」を自社で進めるには?

 STEP1:自社が注力する社会課題(マテリアリティ)を特定しよう

“この指止まれ型営業”のために、まずやるべきことは、“自社が注力する社会課題”(これを“マテリアリティ”と呼びます)の特定です。社会課題をベースに自社事業の核を定義することは、全ての企業にとって重要な取り組みですが、“この指止まれ型営業”には必須の前提となります。なぜなら、社会課題解決を掲げ、顧客に提案する上で、まずは“なぜ自社がこの課題に取り組むのか”について説得力をもって語る必要があるためです。

マテリアリティを特定するために、まず、経済・社会・環境的な側面から、自社への影響度や関連性が強い社会課題を洗い出しましょう。社会課題の例としては、以下のような事項が挙げられます。なお、SDGsの目標として掲げられている17の項目も、社会課題を洗い出す際のヒントになると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

・生物多様性・資源の保護
・循環型社会の実現
・健康長寿社会の実現
・差別防止
・ダイバーシティ促進
・途上国等における貧困・格差是正

その上で、洗い出した社会課題について優先付けを行います。優先付けは、自社にとっての重要性と、自社と関係性を有するステークホルダー(顧客・調達先・従業員・株主等)にとっての重要性の双方の視点から行います。

広く社会課題を洗い出した上で、自社・ステークホルダーにとっての重要性を一覧化して優先付けする作業には、一定のノウハウと工数が必要です。自社でワークショップ等を企画し、社員参加のもとマテリアリティを特定している企業もあり、後述の雪ヶ谷化学工業はその好事例です。あるいは、コンサルティングファームを活用することも有効です。

日常的な経営課題に追われる中で、網羅的な社会課題の検討などできないという企業もあるでしょう。その場合は、まずは一度社員とディスカッションした上、経営者の“決め”で第一版のマテリアリティを策定することも一案です。マテリアリティは自社事業の核となるものですが、一度決めたら変えられないというものではなく、外部環境や自社の変化に応じて見直すものです。

何より大切なことは、定めたマテリアリティに対して“本気”で取り組むこと。そうすれば、必要な軌道修正は自ずと見えてきます。また、その本気度合いが、顧客を巻き込む求心力に直結するのです。

 STEP2:顧客の成長ストーリーを描こう

マテリアリティ(自社が注力する社会課題)を特定したら、営業を行う前に、自社の製品・サービスとともに、顧客が発展する成長ストーリーを事前に描きましょう。顧客に“同志”、“先導者”として一目を置かれるためには、ブツ切りの情報では響きません。自社との取引を開始したら、顧客は将来に向けどのようなステップでビジネスを発展させていくことができるのか、一連のストーリーとして語ることが重要です。

営業前の段階では、情報も限定的なので、想像(仮説)を交えてストーリーを構築することが必要だと思います。ここは、多いに想像力を働かせるべきポイントです。そして、営業を始めてから、実際に顧客と対話する中で、具体化・精緻(せいち)化していけばよいのです。

なじみの薄い社会課題や向かうべき将来像について顧客に理解を促し、腹落ちさせ、更に巻き込んでいくためには、何よりも顧客の頭と心の双方に映像が浮かぶほどのリアルなストーリーが必要不可欠です。

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事例:「この指止まれ型営業」を実施している中小企業

“この指止まれ型営業”に取り組んでいる中小企業をご紹介しましょう。化粧用スポンジで世界トップシェアを誇る雪ヶ谷化学工業は、“人を美しく”“社会を美しく”“地球を美しく”を掲げ、世界的に重視されている“CO2排出量削減、再生可能原材料の開発・採用”や“奴隷労働・児童労働の廃絶、公正な取引”などを注力課題としています。

具体的には、下記のような取り組みを行っています。
・従来の合成ゴムに天然ゴムを配合することにより脱石油化するとともに、強制労働・児童労働のない公正な取引(フェアトレード)により生産・調達された天然ゴムを使用した『サステナブルスポンジ』を展開
・賛同する企業と連携し、『フェアトレード天然ゴム』製品を認証する枠組みの立ち上げ

同社の坂本社長は、強制労働・児童労働のない公正な社会の実現を掲げて“この指止まれ型営業”を行い、着実に顧客を巻き込んでいます。実際、原料であるゴムについて、強制労働などの深刻な社会課題が存在することを認識していない企業も多い中、課題の深刻さや課題の構造を伝え、“サステナブルスポンジ”を採用することで、課題解決にどのように貢献できるのかを丁寧に語ることで、想いを共有する同志を増やしています。

当然、顧客の目下の関心事である収益面のメリット、リスク対策の側面も含め説明する必要があり、一筋縄ではいかないようです。ただ、長期的な目線で顧客のビジネス発展を支えるという点で、他社と明確に差別化されたポジションを得ることができています。

その他にも、SDGsにおける社会課題に取り組んでいる中小企業の事例は、経済産業省関東経済産業局ホームページの『SDGsに取り組む中小企業等の先進事例の紹介』でも紹介されているので、ぜひ参考にしてみてください。

差別化しづらい商材こそ「この指止まれ型営業」を

最後に、差別化が困難な製品・サービスを扱う企業こそ“この指止まれ型営業”に取り組んでいただきたいと筆者は考えています。品質で差がつきにくい製品・サービスであるほど、大企業は少々の価格差よりも、取引先の経営方針やサステナビリティへの取り組み姿勢を重視する傾向が強まっているためです。

コストで勝負しなければと自社を絞り続けるよりも、顧客を巻き込む魅力的なストーリーのために社員と頭をひねり、自社の持続的な発展と社員のハピネスを実現する新たな経営、新たな営業スタイルに踏み出してはいかがでしょうか。

* takeuchi masato、EKAKI、マハロ、Kikuo / PIXTA(ピクスタ)
【参考】
経済産業省委託事業  戦略的国際標準化加速事業:ルール形成の普及に向けた評価指標とその活用方法の開発に関する調査 最終報告書 』 / オウルズコンサルティンググループ