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弁護士が伝えたい契約書のチェックポイント6つ

自社に不利になってない?弁護士が伝えたい「契約書で確認すべき項目」6つと注意点

2022.03.01

“契約”は、法的に保護される当事者間の約束事です。そのため、自社に有利な内容はもちろん、不利な内容の契約であっても、その契約内容に拘束されるのが原則です。

仮に「そんな内容だとは知らなかった」、「そんな意味のある条項だとは説明されなかった」と主張しても、企業間の契約で、双方の署名押印のある契約書が存在している場合には、その契約内容を覆すことは容易ではありません。

そのため、契約書を作る場合には、自社に一方的に不利な内容がないか、自社が獲得したい利益が得られ、守るべき利益等が毀損される内容となっていないかをしっかりとチェックすることが重要となります。

そこで、本稿では、弁護士の筆者が契約書をチェックする際の視点や要注意な条項について説明します。弁護士にリーガルチェックを依頼する場合の注意点も参考にしてみてください。

「その取引」で起こり得るリスクをシミュレーションする

契約書が効果を発揮するのは、主に取引に関してトラブルが起きた時です。

取引上のトラブルは、一般的に言えば、以下のようなトラブルが挙げられます。

・契約の目的物・サービスが提供されない
・代金が支払われない
・契約違反により損害が生じた
・相手方の経済状況が悪化している

もっとも、取引トラブルは、取引ごとにさまざまです。そのため、契約書をチェックする際には、あらかじめこれから始まるその取引で起こり得るリスクを具体的にシミュレーションし、「もし“この取引”でトラブルが起きた時に、契約書によるとどう処理されるか」という視点を持ってチェックしましょう。

具体的なチェック項目と条項例

想定されるリスクは、取引によってさまざまですが、上記のような一般的なリスクに備えるため、次のような点についてはチェックしておきましょう。

1:当該取引の目的物・サービス等の履行に関する定め

企業間で何らかの取引を開始する以上は、一方は製品やサービス等の提供を受けることを、他方はその代金・報酬を獲得することを目的としています。

そのため、これらの目的物・サービスの提供、代金等の履行についてはしっかりと定められていることが必要となります。

例えば、以下のような点が明確に定められているかをチェックしましょう。

□契約の目的物・サービス等
□契約の目的物・サービス等の履行時期、履行方法
□契約の目的物・サービス等の対価の額、計算方法、支払時期、支払方法

2:損害賠償に関する定め

企業間の取引において最も典型的なリスクは、契約違反が発生し、一方に損害が発生した場合でしょう。

このような場合、相手方の責めに帰すべき事由(概ね「故意又は過失」と捉えてください)により契約違反をされた側は、契約に特別な定めがなくとも、それによって生じた「社会通念上相当な範囲」の損害の賠償を請求することができます(民法415条、416条)。

もっとも、帰責事由の有無や、その損害が「社会通念上相当な範囲」の損害であるか等について、しばしば争いとなることから、契約書で責任の範囲を制限する等の条項が定められることがあります。また、あらかじめ損害賠償額を設定しておくことや、一定額に限定する定めが置かれることもあります(民法420条)。

損害賠償に関しては、次のような条項をチェックしましょう。

□債務者の帰責事由を限定(又は拡大)する定め

例:甲が、本契約に定める義務に違反して乙に損害を与えた場合、故意又は重過失のある場合に限り、その損害を賠償する責任を負う。

□損害の範囲を限定(又は拡大)する定め

例:甲又は乙が、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、直接かつ現実に生じた通常の損害につき賠償する責任を負う。

□過度に高額(又は少額)な損害賠償額の定め

例:甲が本契約に関して乙に対して負う損害賠償の額は、●●万円とする。
例:甲が本契約に関して乙に対して負う損害賠償の額は、第●条に基づき甲が乙に対して支払う報酬額を限度とする。

3:契約の解除に関する事項

冒頭述べたとおり、契約は当事者間の法的な約束事であるので、一度契約が締結されると、一方的に変更、解除はできず、その内容に拘束されるのが原則です。

契約を解除することができるのは、①債務不履行など法律に定められた事由がある場合②契約に定められた事由がある場合③合意による場合(合意解除)になります。

契約書のチェックにあたり重要となるのは、②として、契約においてどのような解除事由が定められているかです。

仮に、相手方との関係が薄く、債務の履行に不安があるような相手の場合は、予め契約を解除しやすくする条項を入れておくなどしておくとよいでしょう。他方で、自社にとって重要な取引で長く取引を続けたい場合には、解除を容易にするような条項には注意する必要があります。

契約の解除については、以下のような条項をチェックしましょう。

□ 一方当事者のみの中途解約の定め

例:甲は、1か月前に書面により通知することで、いつでも本契約を解除することができる

□無催告解除の定め

例:甲及び乙は、相手方が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる。

□その他、監督官庁による営業許可の取消し、支払停止・支払不能、手形等の不渡り等、倒産手続の申立等の信用不安、会社分割、合併、事業譲渡等の決議を行う等の組織の変更があった場合等が解除事由の定め

4:信用不安が生じた場合の損失拡大の防止

取引トラブルには、契約違反だけでなく、一方当事者の経営状況が悪化し、取引の存続が危ぶまれる事態が発生することがあります。特に、代金や報酬が支払われないという事態は、目的物・サービス等の提供側として避けたい事態でしょう。

このような事態を完全に避けるということは難しいといえますが、契約書で工夫することで自らの経済的損失をいたずらに拡大させないようにすることは可能です。

信用不安が生じた場合の条項としては、次のような条項をチェックしましょう。

□期限の利益喪失条項

例:当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

□目的物の所有権移転時期の特約

例:商品に係る所有権は、甲が検収した時点をもって、乙から甲に移転する。ただし、代金の支払が完了するまで商品の所有権が移転しない旨の特約がある場合には、その特約による。

□信用不安が生じた場合の納品拒絶

例:第●条にかかわらず、乙が債権の保全上必要と認めるときは、甲から適切な保証を受けるまで、商品の全部又は一部の引渡しを拒絶することができる。この場合、乙は、甲の損害について、何ら責任を負わない。

5:その他定めがあるか確認すべき条項

上記の他、次のような条項の有無を確認しておきましょう。

□秘密保持に関する条項
□裁判管轄に関する条項
□契約上の権利・義務、契約上の地位の譲渡禁止条項
□暴力団排除条項
□不可抗力条項

6:重要な事項について曖昧な表現に注意

契約書は、取引上のトラブルが発生した場合の解決指針を示しておく意味があります。そのため、契約書において、契約の目的物・サービス、代金、履行時期、履行方法等の重要な事項について曖昧なままであると、結局紛争の解決指針として機能しないこととなります。

もちろん、全てを一義的に定めることは難しいですが、上記のような重要な点については、できる限り明確に定めましょう。

例えば、次のような表現には注意しましょう。

□「…等」

対応例:確実なところは明記したり、できる限り例示する。

□「速やかに」、「直ちに」

対応例:「●●後、5営業日以内に」

□「●●は協議により定める」

対応例:「●●は協議により定める。協議がまとまらない場合には、●●とする(又は甲が定めるものとする。)」

弁護士にリーガルチェックを依頼する場合の注意点

上記で挙げた例は、概ねあらゆる契約類型に共通する項目を挙げています。

実際には、売買契約、賃貸借契約、業務委託契約等の類型によってチェックすべき条項が出てくるため、不安であれば、企業間の取引に精通している弁護士にリーガルチェックを依頼することが安全でしょう。

ただし、弁護士は、法律の専門家ではありますが、当然ながら、どのような相手方とどのような取引をし、何を獲得したいか、どういうリスクがあり得るか等の“その取引”に関する事情についてまで知っているわけではありません。

「契約書をチェックしてください」とだけ依頼されるケースがよくありますが、それだけでは一般的なチェックしかできず、“その取引”に即したチェックは難しいため、上記のような事情も併せて伝えておくと良いでしょう。

ひな形利用には要注意

最近では無料で契約書のひな形が手に入るようになり、ひな形を使って契約されている例が見られます。

もちろん、こうした契約書のひな形を活用することも良いですが、ひな形は、一般的な内容になっているにすぎず、特定の取引におけるリスクを想定したものとなっていないことが通常です。

そのため、特に重要な取引については、ひな形をそのまま利用するのではなく、弁護士にリーガルチェックを依頼することが安全でしょう。

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*Pangaea、Graphs、years / PIXTA(ピクスタ)