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中小企業だから関係ない…じゃない!労働時間を「管理しない」リスクとは

中小企業だから関係ない…じゃない!労働時間を「管理しない」リスクとは

2021.07.27

今から40年以前、筆者の実家が長距離配送の運送業を営んでいました。学校の夏休みの時期に実家の手伝いで、大阪から鳥取まで父親の隣で中型トラックに乗せて行ってもらっている時のことでした。後ろから、白バイが近づいてきて、サイレンとともに言いました。「前のトラック、左の路肩に止めるように!」運転免許証とタコグラフの提示を求められたのです。

タコグラフとは、運転席の速度メーターの裏に装着する時間と速度が丸い用紙に記録されるアナログなシステムです。目的は、正しい労務管理や運行管理がされているかどうかの記録をグラフ用紙にとり確認すること。“デジタコ搭載”とステッカーを張っているトラックを見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。

このように運送業では、ひとり一人のドライバーに運行管理を行い、運転中においても時間管理を行っています。経営者の方から「当社は、営業社員ばかりで、会社を出たら出っ放しで、時間管理は無理」との話を聞きますが、本当にそうでしょうか。

休日の研修会は労働時間になる?

労働時間とは「労働者が使用者に労務を提供し使用者の指揮命令に服している時間」とされています。作業の手待ち時間は労働時間にあたり、一方、労務の提供から開放されている休憩時間、通勤時間などは、労働時間にあたりません。

「日曜日(休日)の研修会・イベントは、労働時間になりますか?」といった質問を社員から受けたことはないですか? 強制参加であれば、労働時間になります。自主参加であれば、労働時間になりません。しかし、自主参加といいながら、参加をしないことで、不利益を被るようであれば、労働時間になります。

法定労働時間「原則1日8時間・週40時間」を超えて労働者を働かせる場合には、36協定「時間外労働・休日労働に関する協定」を締結しなければなりません。そして、これを労働基準監督署に届け出た後でなければ、労働時間を延長したり、休日に労働をさせたりすることができません。労働基準法は刑罰法規であり、36協定を締結していないなど違反行為があった場合には、罰則に処されることがあります。

働き方改革で何が変わったの?

以前の限度基準告知では、時間外労働の限度を定め、臨時的な特別の事情がある場合に、例外として特別条項付き36協定を結ぶことにより、限度時間を超えて労働させることが認められていました。

しかし、長時間労働の是正という観点から、現行の限度基準告知を法律に格上げして、違反に対しては罰則の対象とするとともに、臨時的な特別の事情がある場合であっても、上回ることのできない上限を以下のように設定しています。

特例の場合

1年720時間(時間外のみ)まで、この場合でも下記の要件を満たさなければなりません。

単月100時間未満(時間外労働+休日労働)
2~6ヶ月平均で80時間以内(時間外労働+休日労働)

原則の場合

1ヶ月45時間、1年360時間です。

時間外・休日労働協定(36協定)で協定する項目

・時間外または休日の労働をさせる必要のある具体的な事由
・対象期間における1日、1ヶ月および1年のそれぞれの労働させる時間または休日の時間

・休日労働を行う日とその始業・終業時間
・対象期間

などです。

現行の適用除外等への上限規制の適用猶予・特例業務

・自動車運転業務
・建設事業
・医師
・新技術・新商品等の研究開発業務
・鹿児島及び沖縄における砂糖製造業

上記の業種は2024年3月31日までの間、上限規制の適用が猶予されています。しかし、2024年4月1日以降は、労働時間管理が必須となります。

労働基準監督署の調査に対応するために

労働基準法第101条第1項により、「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の付随建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定されています。立ち入り調査は、重大な労災事故が発生した場合や労働者からの申告があったときなどに、立ち入り調査が行われます。主に下記の項目について、調査を受けます。

(1)労働条件のうち、賃金に関する事項について文書を交付しているか
(2)36協定が提出されているか
(3)時間外・休日労働に対する割増賃金が正しく支払われているか
(4)就業規則が提出されているか、また周知されているか
(5)定期健康診断が実施されているか
(6)労働災害防止のための必要な措置が講じられているか など

2年間の賃金台帳、タイムカード、雇用契約書などの提出が求められます。労働時間管理を行って記録を管理して、法令通りに割増賃金の支払いをしていて、36協定の範囲内で働いていることが必要です。

36協定の提出や割増賃金の支払いなどに対応している企業は多いのですが、「長時間労働者に対する面接指導等に関する改正」については、対応できていない企業がまだまだあるといえます。この点は、指導があると考えて対応の制度設計の策定をおすすめいたします。ポイントは次の3つです。

ポイント1:労働時間の状況の把握

企業(厳密には「事業者」)は、労働安全衛生法(安衛法)の規定による面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、社員の労働時間の状況を把握しなければなりません。

また、企業はこれらの方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません。

(改正により5年間に変更予定)2023年4月1日施行

ポイント2:労働者への労働時間に関する情報の通知

企業は、時間外・休日労働時間の算定を行ったときは、当該超えた時間が1ヶ月当たり80時間を超えた社員本人に対して、速やかに当該超えた時間に関する情報を通知しなければなりません。

※当該通知については、高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、管理監督者、事業場外労働のみなし労働間制の適用者などを含めた全ての社員に適用されます。

昨年度から、一定時間の36協定の残業時間が超えた時や超えそうな時にアラート機能のある勤怠システムを導入している企業が多く見受けられます。

ポイント3:長時間労働に対する医師の面接指導

時間外・休日労働時間が1ヶ月当たり80時間を超える労働者が申し出をした場合には、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。そして、面接指導を実施した医師から意見を聞き、就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮、深夜業の回数削減など適切な措置を講じなければならないとなりました。

まだあるリスク…外部の労働組合から突然の団体交渉

労働時間を管理しないことによるリスクは他にもあります。

ある会社では、突然1通の内容証明郵便が届きました。内容は、「貴社従業員A氏は、当ユニオンに加入した組合員である。A氏の時間外労働賃金の支払いについて嫌疑があるので、団体交渉を持ちたい」というものでした。

労働組合法では“労働組合”を「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを目的として組織する団体又はその連合団体をいう」と定めています。その構成員を自社単一の社員に限るという定めがないので、加入員が自社の社員であっても“労働組合法で設立された労働組合”として、会社と団体交渉を行うことができます。

外部組合には、合同労組、一人でも加入できる労組、ユニオンと名乗っているケースがあります。外部組合が労働組合法の要件を満たしている場合、団体交渉を申し入れしてきた場合、会社はその申し入れを拒否できません。面談にすぐに応じる必要があるわけではありませんが、要求に対して、法的に対応する旨と資料準備に時間がかかることの回答書を出しておく必要があります。

交渉のポイントは下記の通りです。

・できるだけ面談は避けて、ランディング地点が定めるまで文章で対応すること
・法令上に問題ない点で事前準備を十分に行った上で、妥結すること
・不当労働行為や外部労働の批判などは行わないこと
・すべての記録を保管すること
・都道府県のあっせん申請など検討すること

【もっと詳しく】いきなり労働組合から団体交渉の申し入れが…どう応じるべき?【経営者の基礎知識】

 

労働時間を管理していないと、外部から未払い残業などの請求が来た場合、まったくノーガードでリングに上がるようなものです。

対策として

・労働時間管理を行うことと、そのための手段(勤怠システムなど)検討を行うこと
・誰が見ても労働基準法など違反がない状態で、賃金の支払いを行うこと
・雇用契約書、就業規則、36協定などの諸規程や労使協定などを整備しておくこと

をおすすめします。

* Graphs / PIXTA(ピクスタ)