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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 違反には刑罰もある!年5日の年次有給休暇の指定義務への対応【弁護士が解説】
有給休暇取得義務

違反には刑罰もある!年5日の年次有給休暇の指定義務への対応【弁護士が解説】

2022.06.01

働き方改革実行計画に基づいて改正された労働基準法により、会社からの年5日の年次有給休暇指定義務が創設され、中小企業含めすでに施行されています。

日本の年次有給休暇取得率が低い要因の一つとして、仕事の状況や組織風土等によって従業員から有給休暇を申請しづらい状況が挙げられていました。そこで、従業員からの申請がなくとも、会社側から年次有給休暇を与える義務を創設したのが今回の労働基準法改正となります。

会社がこの指定義務に違反した場合には、原則は該当する従業員1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性もあります。そこで、本稿では企業経営者が知るべき、年5日の年次有給休暇の指定義務の対応について解説します。

年次有給休暇の取得が進まない会社の特徴

上記のとおり、今回導入された会社からの年5日の年次有給休暇の指定義務は、日本の年次有給休暇取得率が低い状況を改善するために設けられたものです。

年次有給休暇の取得率が低い会社の特徴としては、以下のような特徴が挙げられるでしょう。

・長時間労働を是とする組織風土がある
・人手が足りておらず業務量が多い
・仕事が属人的で休むことができない
・(法令違反であるが)そもそも上司が認めない

上記のような特徴がある会社では、従業員から年次有給休暇が申請しづらかったり、業務の状況から事実上申請できなかったりします。また、法律上拒絶することはできないにもかかわらず、上司が認めない違法行為がみられることもあります。

今回の改正は、会社側から年次有給休暇を指定しなければならないため、上記のような状況が見られる会社においては改善が求められるといえます。

年5日の年次有給休暇指定義務の内容は?

今回導入された年5日の年次有給休暇の指定義務は、年次有給休暇が付与された日を“基準日”とし、基準日から1年以内に、会社から5日間の年次有給休暇を指定しなければならないとするものです。

基本的な例で説明すると、例えば4月1日入社の場合、出勤要件を満たせば10月1日に10日の年次有給休暇が付与されます。そのため、基準日は10月1日となり、翌年の9月末までに5日間の年次有給休暇を会社から指定しなければならないことになります。

法改正前の年次有給休暇の基本的な取得の流れは、6か月以上継続的に勤務し一定の出勤日数を満たした従業員から年次有給休暇の取得の申請(法的には「時季指定」)がされた場合に、これを付与されるものとなっていました。

会社は、従業員から申請された時季に休みを取られると事業の正常な運営を妨げる場合には、申請された時季を変更することができますが(労働基準法39条第5項)、年次有給休暇の指定は従業員に主導権があるのが基本的な考え方でした。

今回の改正によって導入されて年5日の年次有給休暇指定義務は、上記のような従業員からの申請がなくとも、会社側から年次有給休暇の時季を指定するというものとなっています。

【こちらの記事も】「有給休暇」正しく理解できてる?取得義務の解説&よくある誤解と正解まとめ

年5日の年次有給休暇指定義務の対象となる従業員は?

年5日の年次有給休暇指定義務の対象となるのは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者です。管理監督者やパート、アルバイト等であっても要件を満たす限りにおいて対象となります。

ただし、以下の場合には、指定する義務はありません。

(1)既に5日以上の年次有給休暇を請求し、これを取得している従業員
(2)既に計画年休(労働基準法39条6項)により年5日以上の年次有給休暇を取得している従業員

つまり、会社からの指定義務によらずに既に5日以上の年次有給休暇が取得されている場合には、会社からの年次有給休暇の指定は不要となります。

会社からの年次有給休暇の与の手順は?

年次有給休暇の指定にあたっては、予め対象の従業員から、取得時季について意見を聴かなければなりません(労働基準法施行規則第24条の6)。

企業は従業員の意見を踏まえて、年次有給休暇を与えることになります。この際、企業は従業員の意見を「尊重するよう努めなければならない」とされていますが、これは努力義務であるので、従業員の希望する時季に指定しなければならないわけではありません。

年5日の年次有給休暇指定義務の注意点

制度の概要は上記のとおりですが、特に注意すべき点としては、以下の点が挙げられます。

注意点1:半日単位はカウントされるが時間単位はカウントされない

年次有給休暇の取得単位は、原則として1日単位ですが、半日単位(通達によって認められています)や時間単位(労働基準法39条4項)で指定することも認められています。

この場合、半日単位での年次有給休暇の取得については、指定義務との関係で、「0.5日」指定したものとしてカウントされますが、時間単位の場合には、このようなカウントは認められていません(改正労働基準法Q&A3‐3)。

注意点2:一度指定した時季を事後的に変更する場合も意見聴取が必要

一度指定した年次有給休暇の時季を事後的に変更することも許容されています。

ただし、その場合も、最初に指定したのと同様に、当該従業員の意見聴取手続を経る必要があります。

注意点3:会社からの時季指定についても就業規則等に記載が必要

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的記載事項です(労働基準法89条1号)。

したがって、会社からの時季指定についても、対象となる従業員の範囲や指定の方法等について、就業規則に記載しておく必要があります。

会社の年次有給休暇指定義務への対策は?

上記のとおり、会社からの年次有給休暇の指定義務の違反に対しては、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法120条)。

そのため、会社としてはしっかりと対策を講じておく必要があります。考えられる対策としては、以下のようなものが考えられます。

対策1:年次有給休暇管理簿でしっかりと管理する

年次有給休暇取得の促進のため、会社には年次有給休暇管理簿の作成、保存(3年間)が義務付けられました。

具体的には、従業員ごとに年次有給休暇の時季、日数及び基準日等を明らかにした書類を作成しなければならないとされています。

これは法的義務であるため、作成しなければならなりません。しかし、うまく活用することで、年次有給休暇指定義務の漏れを無くすことにつながるでしょう。

下記のURLより書式(テンプレート)が無料でダウンロードできます。どのように管理すればよいのかわからない……という方は、ぜひご活用ください。

【無料書式ダウンロード】
年次有給休暇取得計画表
有給休暇管理表(取得累計あり)

対策2:基準日を統一し管理を簡素化する

会社からの年次有給休暇の指定は、10日以上の年次有給休暇が付与された日を基準日として、1年以内に5日間付与しなければなりません。

上記のとおり、例えば、4月1日入社の場合、6か月経過後のその年の10月1日に10日の年次有給休暇が付与されることになりますので、10月1日が基準日となります。

しかし、中途採用が多い中小企業では、入社日によって基準日が不統一となり、管理が煩雑となり、指定漏れが発生するリスクが高まります。

そのため、対策の一つとしては、基準日を統一する方法が考えられます。

例えば、4月1日から9月末までに入社した従業員については、6か月の勤続期間にかかわらず、10月1日に一律に10日の年次有給休暇を付与することなどが考えられます。

この場合、会社の指定義務は、法定の基準日ではなく前倒しした基準日を基に考えることとなるため、指定義務も前倒しになりますが、管理の負担は軽減されるでしょう。

対策3:計画年休の活用

さらに考えられるのは、計画年休制度の活用です。

年5日の指定義務は、既に従業員側から5日の申請があった場合や計画年休で5日を指定している場合には、会社からの指定は不要です。そのため、予め計画年休制度を用いて5日間の年休を付与しておくことが対策として考えられます。

計画年休は、予め労使協定で定めることによって、年次有給休暇の取得日を決めておくことができるというものです(ただし、従業員からの申請によって取得できる年次有給休暇を5日以上残しておく必要があります)。

例えば、大型連休や、お盆休み、年末年始などに計画年休を定めておくことによって、従業員のリフレッシュを図ることができます。

指定義務の遵守とともに休みを取りやすい組織風土を作りましょう

年5日の年次有給休暇の指定義務は法律により義務化されているものであり、遵守しなければならないものですが、これを機に従業員の休暇取得に前向きに取り組むことで、従業員のリフレッシュが図られ、人材の定着にもつながるでしょう。

【こちらの記事も】複雑化した有給休暇管理…管理のポイントと効率化のコツを解説!

【参考情報】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 / 厚生労働省

*CORA、hiro、たえたえ、umaruchan4678、nonpii / PIXTA(ピクスタ)