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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 顧客のハラスメントから従業員を守る!カスタマーハラスメント対策のポイント
カスタマーハラスメント

顧客のハラスメントから従業員を守る!カスタマーハラスメント対策のポイント

2022.06.16

2022年4月1日から、いわゆるパワハラ防止法が中小企業にも施行され、セクハラ、パワハラなど、企業は職場における様々なハラスメントを防止する措置を講じなければならなくなりました。

こうしたハラスメントへの関心の高まりから、世の中には、(法的な意味合いはともかく)「●●ハラスメント」という言葉が溢れかえっています。

なかでも最近よく耳にし、実際に専門家への相談が増えているものとして「カスタマーハラスメント」(略して「カスハラ」とも呼ばれます)と呼ばれる類型があります。

後述するとおり、カスタマーハラスメントを防止する措置を講じることは法律上の義務ではないものの、大事な従業員を守り、職場環境を良好に保つために対策の重要性が高まっていることから、厚生労働省は2022年2月、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を公表しました。

そこで、本稿ではカスタマーハラスメントについて解説します。

【参考資料 / 厚生労働省】
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスタマーハラスメント対策リーフレット

パワハラ指針にカスタマーハラスメント対策が明記

「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」(以下「パワハラ指針」といいます)では、「事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮」を行うことが“望ましい”としてされています。

パワハラ指針においては、法律上の義務ではないものの、”望ましい”行為として、カスタマーハラスメント対策を講じておくことが明記されています。

カスタマーハラスメントの被害状況

厚生労働省の調査では、過去3年間でハラスメントの相談があった企業のうち、カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)に該当する事案があったとする企業が増加傾向だとわかりました。

(図)過去3年間にハラスメント相談件数の傾向(ハラスメントの種類別)

実際にどのような迷惑行為を受けているかについては、最も多いものが、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)、次いで「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」(46.9%)という状況となっています。

(図)受けた顧客等からの著しい迷惑行為の内容

どういう行為が「カスタマーハラスメント」になる?

どういう行為が「著しい迷惑行為」となるかについて、対策マニュアルでは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されること」を指すとしています。

上記の定義から、顧客等の行為が「カスタマーハラスメント」に当たるか否かは、大きく以下の2点から判断されます。

(1)取引先や顧客の要求の内容が妥当なものか

例えば、企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合、要求の内容が企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合等には、そもそも要求内容の妥当性がないとされています。

(2)要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当であるか

要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされるものとして、身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動、土下座の要求、継続的で執拗な言動、差別的な言動、性的な言動、従業員個人への攻撃等が挙げられています。

他方で、要求内容の妥当性によっては相当性が認められるものとして、商品交換の要求、金銭保証の要求等が挙げられています。

基本的には、(1)の内容の妥当性を欠くものについては、(2)手段・態様の相当性も基本的に認められず、カスタマーハラスメントに該当することが多いと考えられています。

カスタマーハラスメントが発生したら?企業がとるべき対応

カスタマーハラスメントが発生した場合の基本的な流れとしては、①その場での対応、②事実関係の確認、③顧客等への対応、④従業員への対応といった流れになります。

各段階で対応する従業員、部署が異なってくるため、部署間での連携も重要です。

対応1:その場での対応

対従業員のように継続的な関係にない場合が多いカスタマーハラスメントでは、特に初動での対応が重要となります。上手く対応すれば、その場でトラブルが解決することもあります。

特段の事実確認をせずとも顧客等の要求が正当であり明白に従業員や企業に落ち度がある場合には、謝罪(場合によっては補償)を行うことが適切でしょう。他方で、顧客等の要求が正当なものであるか否かがその場では明らかでなく調査を要する場合には、その場で要求内容を認めながらも謝罪までする必要はないでしょう。

この点、厚生労働省の対策マニュアルでは、事実関係を確認すると伝えつつ、「不快な思いをさせたこと」に対して謝罪をする方法が挙げられています。確かに、こうした対応がとられることは多いですが、これもまた状況によっては顧客等の要求がエスカレートする場合もあり、実際にはケースバイケースというほかないでしょう。

現場での対応は、現場や店舗の従業員が対応せざるを得ません。しかし、一人の従業員で対応させず複数人で対応すること、そして現場・店舗の責任者が対応することがポイントとなります。

対応2:事実関係の確認

次に、事実関係の確認を行います。事実関係の確認は、まず初めに顧客等の言い分を聞くことになります(上記のその場での対応の延長でもあります)。顧客等の言い分を確認する場合には、録音やメモの作成などの記録化を忘れずに行いましょう。

その後、関係する従業員からもヒアリングを行い、事実関係を正確に確認し事実認定を行います。

事実関係の確認については、別途“相談窓口”の部署やヘルプライン部門などで対応することもありますが、中業企業では総務部門や人事部門が行うことが多いでしょう。

対応3:顧客等への対応

確認できた事実関係に基づき、上記の「カスタマーハラスメント」に当たるかを判断します。顧客等の主張が不当なものであり「カスタマーハラスメント」に当たるようであれば、毅然と対応しましょう。

ここで、相手の行動が会社の営業に損害を与えるような場合には営業妨害であること等を通告し、そうした行動をやめるように求めます。場合によっては、警察の協力が必要となることもあります。

顧客等への対応にあたっては、総務部門、人事部門だけでなく法務部門が連携が必要となることが多いです。社内に法務部門をもたない場合には外部の顧問弁護士等と連携することも考えられます。

対応4:従業員への配慮

企業としては、顧客等への対応に加えて従業員に対する配慮も必要です。例えば、継続して顧客等からのカスタマーハラスメントが続くようであれば、配置の転換や対応者を上長に交代する等の配慮が考えられます。従業員への配慮については、総務部門、人事部門が対応を行うことが多いでしょう。

カスタマーハラスメントは事前の取組が重要

カスタマーハラスメントは、従業員としても会社に相談しづらく、一人で抱え込んでしまうことがあります。そのため、予め会社としてカスタマーハラスメントに対する対応を検討しておくことが重要です。厚労省のパワハラ指針では、以下のような取組が“望ましい”としています。

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

例:
・組織のトップが、カスタマーハラスメント対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示す
・カスタマーハラスメントから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育する

(2)被害者への配慮のための取組

例:被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、カスタマーハラスメントに一人で対応させない等

(3)カスタマーハラスメントによる被害を防止するための取組

例:マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組

基本方針の例などの具体例が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』に掲載されているので、参考にしてみてください。

カスタマーハラスメント対策の企業の責任

これらの取組は、直ちに法的義務を生じさせるものではありませんが、こうした取組を行っているか否かがカスタマーハラスメントが発生した際の従業員に対する企業の責任の有無に影響します。

カスタマーハラスメントに関する裁判例はまだ多くないものの、買い物客とトラブルになった従業員が会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事案があります。顧客対応について入社時にテキストを配布し初期対応を指導していたこと、サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにしていたこと、深夜においても2名体制としていたこと等によって顧客とのトラブルが生じた場合の相談体制が整備されていたことを理由に、企業の責任は認められませんでした(東京地裁平成30年11月2日)。

こうした裁判例を踏まえると、法的義務が課されずとも一定の対応を講じておくことが、従業員にとっても、企業の法的責任を回避するためにも重要でしょう。

売上だけでなく大切な従業員も守りましょう

顧客等の要求の中には、正当性のあるものあり、それは商品やサービスの向上につながります。

企業としては、顧客等の要求が正当なものであるかカスタマーハラスメントであるかを見極め、不当な要求に対しては毅然として対応し従業員を守りましょう。

また、対策マニュアルでも述べられているとおり、カスタマーハラスメントへの対応は、各業界、企業に応じて様々なものがあり得ます。自社におけるカスタマーハラスメントの現状を把握し、自社にあった対策を検討しましょう。

【こちらもチェック】パワハラ・セクハラ・モラハラ…きわどい裁判例や企業がとるべき対策とは

*metamorworks、RichR / PIXTA(ピクスタ)