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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > どこからがパワハラ?判断のきわどい裁判例3選【弁護士が解説】
パワハラ

どこからがパワハラ?判断のきわどい裁判例3選【弁護士が解説】

2022.05.13

2019年5月、「改正労働施策総合推進法」が成立しました。パワーハラスメント(以下、パワハラ)防止に重きを置いたこの法律は別名「パワハラ防止法」とも呼ばれています。「パワハラ防止法」は、大企業では2020年6月1日から適用されており、そしてこの2022年4月1日より、ついに中小企業においても適用されました。

「パワハラ防止法」の大きな特徴は、社内でパワハラ問題が発生することを防止するため、事業主が必要な措置を講じる義務があることです。もはや事業主や経営陣にとって、「知らなかった」では済まされません。あらためてパワハラ対策について学ぶ必要があるでしょう。

そこで『経営ノウハウの泉』では中小企業経営者向けウェビナーを開催。牛島総合法律事務所パートナー弁護士・猿倉健司さんにご登壇いただき、どんな指導や言動がパワハラとみなされてしまうのか、実際にパワハラの申告を受けた場合にはどのような調査や対処が必要なのか、その留意点などについて解説していただきました。

ここでは、その模様を4回に分けて連載していきます。本記事では第2回として、「パワハラ判断のポイントと裁判例」について解説します。

第1回:パワハラ防止法の概要とパワハラの定義
第2回:パワハラ判断のポイントと裁判例
第3回:企業が知るべきパワハラ予防策
第4回:パワハラ申告対応時の留意点

資料動画のダウンロードはこちらから

【登壇者】

猿倉 健司(さるくら・けんじ)
牛島総合法律事務所パートナー弁護士

国内外の企業間の紛争(訴訟等)のほか、役員等の不正・経営判断の失敗に関する不祥事・危機管理・訴訟対応等を中心に扱う。その他、企業買収・事業承継や、新規事業等の法的リスクの分析も数多く担当するなど、経営者に対する様々なアドバイスを行う。

契約条項や、不祥事・危機管理対応、役員責任、不動産・M&A取引、汚染廃棄物紛争等に関する記事を数多く執筆、講演も多数行う。近時の著書には、『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年)などがある。

パワハラと判断する基準はある?

前回はパワハラの定義や類型について解説しましたが、それでもまだ具体的にどのようにいかせばよいかわからないと感じた人も少なくないと思います。そこで今回は、パワハラ判断のポイントとして、実際の裁判例事例として紹介しながら理解を深めていきましょう。

事例を紹介する前に、まずはパワハラ判断のポイントを解説します。

実際のところ、パワハラと判断するための具体的な基準は存在しません。前回の解説で定義や類型を紹介したように、ある程度の目安はありますが「これがパワハラだ」という判断は、個別かつ具体的に検討する必要があります。もちろん、暴行行為があれば刑事事件であり、もはやパワハラかどうか論じるまでもありません。
よく問題となるのは、客観的に見ても「怒られても仕方がないよね」という従業員が、上司や同僚などから注意・指導されたときに「それはやり過ぎ、パワハラでは?」と言い出す場合。その判断の中で重要視されるのは“行きすぎた指導かどうか”です。

行き過ぎた指導か否かということは、
①業務に必要な言動か
②言動が過剰でないか
③言動が感情的でないか
といった3つの視点で判断することができます。とはいえ、線引きは難しく、過去の裁判例や事例を参考とすることが重要になります。

判断のきわどい裁判例3選

通常は20ほどの裁判例を紹介していますが、今回は最近の判例の中から3つ紹介します。なお、細かい事案については適宜省略しています。ここで紹介するのは“部下にかなり落ち度がある状況”において、“上司の指導方法が微妙”な事案です。

●S社の事例

この事案は、結果としてパワハラと判断されました。図で示した状況を見るに被害者である部下にもかなり問題があるように思えますが、上司の「新入社員以下だ」「おまえは馬鹿」といった言動について、裁判所は“行きすぎ”と判断しました。
この事例を見て、「これぐらい酷い部下なら強く言うことはあり得ること」「これがパワハラになるの?」と思う人も少なくないでしょう。しかし裁判所が「パワハラだ」と判断すればパワハラと認められるのです。
この事例でのポイントは、業務上部下に注意することは必要ですが、注意の仕方が「過剰・不相当ではないか」「感情的ではないか」と判断されたことにあります。注意の言動によってパワハラに認定されることがあるということを理解しておきましょう。

●I産業団体の事例

この事例では、ミスを繰り返す部下に対しての指導、注意方法がパワハラと判断されました。上司による強い口調での叱責が繰り返されるなか、部下も反省しながら業務を継続したものの、結局ミスが減ることはありませんでした。
裁判所は、この部下の業務が改善しなかったのは上司による感情的な叱責が「部下の心理的負荷(プレッシャー)を蓄積させた」とし、パワハラであると判断しました。継続的、頻繁な叱責によって一方的に威圧感や恐怖心を与えたという判断です。
この事例のポイントは“繰り返される指導”が問題になるということです。何度もミスを繰り返す部下に、その都度注意、指導することはよくあります。特に新人や新入社員へ繰り返し指導することは珍しくないと考えるかもしれません。ただ、それが部下のプレッシャーになり、結果を悪くしていると裁判所に判断されることもあるのです。

●T社の事例

この事例では、製造業において利用する機器を適切に扱わなかったり、就業時間を守らなかったりと、さまざまな問題のある部下に対し、上司が改善を求めて行った指導がパワハラと判断されました。
機器の使い方を再三注意したものの改善が見られなかったため反省書の提出を求めたことについては、合理性が認められパワハラとは判断されませんでした。しかし、反省書を渋る部下に対して「休暇を取る際の電話のかけ方がけしからん」と反省書を書かせようとしたり、業務の不備について再現させ時間を計る行為をしたりしたことがパワハラと判断されました。
上司の指導に関わらず、誠意のない部下に対していらだつ感情もわからないではないが、「いささか感情的に走りすぎた」というのが裁判所の判断です。この事例のポイントは、指導監督権を行使する場合でも、裁量の範囲を逸脱すれば違法になる、ということです。

具体的な事例を知ると、「これがパワハラになるの?」という驚きとともに、パワハラ回避のヒントも得られたのではないでしょうか。次回は今回ご紹介した事例を踏まえ、パワハラ予防のポイントについて解説していきましょう。

*天空のジュピター / PIXTA(ピクスタ)

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