【パワハラ事例集】そのやり方、パワハラかも!? パワハラの定義・具体例・対策
昨今、企業内で起こる深刻な労使間の問題として取り上げられることの多い“パワハラ”。誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。
パワハラは、行政が開設している相談窓口へ寄せられる労働問題の中でも、非常に多くの割合を締めるテーマです。なかにはパワハラを苦にした社員が命を絶つケースや、裁判で激しく争われるケースなども見られることから、深刻な社会問題として認識されて久しい状況となっています。
目次
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パワハラ防止には経営者の意識改革が必要
パワハラは、パワハラを行う社員、パワハラを受ける社員双方の問題だと思われがちですが、実は問題は当事者同士ではなく、パワハラが横行する職場環境、ひいては経営者側に問題があるといっても過言ではありません。
なかには、事態が深刻化するまで経営者自身がパワハラの実態を知らなかったというケースもあり、パワハラ防止には経営者側の根本的な意識改革が求められています。
特に社員の相対数が少ない中小企業の場合、貴重な戦力となる社員同士のもめ事は非常に大きな打撃となることから、対策は必須でしょう。
今回は、パワハラの定義とパワハラとみなされる具体的な事例、そして対応法について順を追って解説をしていきます。コロナ禍でストレスの多い生活を続ける中、社員が安心して働くことができるような環境を整えていきましょう。
パワハラの定義とは
パワハラは、正式名を“パワーハラスメント”と呼び、厚生労働省では次の3つの基準すべてを満たす職場内での行為として定義づけています。
1:職場内での立場が上であることを盾に取った行為
社内で優位な立場にある者が、抵抗や拒絶をすることが難しい下の立場の者に対して強いる行為です。優位な立場というのは、年齢や地位の上下に加え、持っているスキルの高さを笠に着た態度も含まれます。また、集団行為で威圧をすることも同様です。
2:業務上で必要とされる適正範囲を超えた行為
仕事上で全く必要のない行為や、業務の目的を大きく外れた、社内で行われるものとしてはまったく不適切な行為がこれにあたります。また、社会通念上で「OK」とされる許容範囲を超えた頻度や回数で行われる行為も含まれます。
3:相手の身体・精神に圧力を加え、苦痛を与える、もしくは職場環境を悪化させる行為
暴力行為や身体の拘束、暴言や侮辱により相手の名誉を傷つけること、相手のプライバシーを侵害する行為などがこれにあたります。
上記の内容がパワハラの判断基準とされていますが、パワハラは職場環境や双方の関係性、行為を受けた相手の苦痛度合いに応じて一つずつ事例が異なるため“ここまでは許容範囲で、ここからはパワハラ”というようなはっきりとした定義はありません。
パワハラには、裁判で争われる深刻なケースもみられますが、このような場合には業務を遂行するために必要かどうかの合理性や、職務権限として適切な行為か否かというようなポイントから総合的に判断した上で、パワハラかどうかが決定されることになります。
ケース別パワハラ事例
パワハラの定義を理解いただけたところで、ここからは具体的なパワハラ行為の事例について述べていきましょう。
パワハラ行為は、主に次の6種類のケースに分類されます。
1:身体的な攻撃行為
直接、相手の体に向けて攻撃をしてしまう行為で、次の内容が挙げられます。
・後輩の指導に熱心になるあまり、相手を叩いてしまう
・ミスが絶えない部下に対して、物を投げつける
・飲み会の際に後輩の態度をめぐって暴力をふるう
2:精神的な攻撃行為
相手の精神、気持ちを傷つける・不快にさせる行為で、次の内容が挙げられます。
・「バカじゃないのか」「いっぺん死んでこい」などの暴言を吐きかける
・会社の朝礼や会議など、大勢の社員の前で説教をする
・他の社員も含めた一斉送信メールで、特定の部下を叱責する
・相手の人格を否定するような言動をとる
3:人間関係からの切り離し
特定の社員を仲間外れにしたり、無視したりするような、一般的に“いじめ”や“嫌がらせ”などと表現されるような行為で、次の内容が挙げられます。
・集団で特定の社員を、直接・SNS上などで無視する
・出席が必要となる会議の日時等を教えず、孤立させる
・別室へ隔離させる
4:過大となる要求を強いる
社員の能力や許容範囲を大きく超えたレベル・量の仕事を与えるなどの行為で、次の内容が挙げられます。
・指導・教育をしないまま、まったく畑違いとなる別部門の業務をさせる
・他の者が担当するはずの業務を大量に特定の社員に割り振る
・外国語に疎い部下を海外赴任させる
5:過小な要求
社員の能力や許容範囲を大きく超えた程度の低いレベル・量の仕事を与えるなどの行為で、次の内容が挙げられます。
・専門職として雇用された社員に雑務のみを与える
・終日勤務の部下に対して、午前中で終わるような仕事のみを与え、放置する
6:個の侵害
社員のプライバシーに触れるような私的行為に立ち入る行為で、次の内容が挙げられます。
・部下を叱責する際に、パートナーの有無など、プライベートの生活を引き合いに出す
・職場外でGPSを用いた位置確認をするなど、退社後の社員を監視する
・個人面談で打ち明けたプライベートの内容を、部下の了解を得ずに外部へ漏らす
ここで重要となるのが、もともと暴力をふるうつもりはなくても、ついカッとなって手を出してしまったなどの行為もパワハラと扱われる点です。逆に、誤って接触してしまったなどの行為はパワハラには該当しません。
また、他人にはパワハラ行為とみられる行動でも、言われた本人が妥当と感じ了承している場合などは、パワハラと扱われない可能性もあります。
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パワハラを防ぐための対策
『パワハラ防止法』の改正により、これまでは大企業に対して求められていたパワハラ防止策の実施が、2022年4月以降は中小企業に対しても義務化されることになります。つまり、規模の小さい中小企業であっても、パワハラを見過ごすことは法律違反になるということです。また、この改正にあわせ精神障害の労災認定基準にパワーハラスメントが明示されるようになりました。
ここからは具体的に、どのような対策を取っていけば良いのか見ていきましょう。
1:パワハラと扱われる内容と対処内容の社内周知・啓発
パワハラ防止の第一歩として、まずは経営者、管理職などの上層部が、パワハラに該当する内容とこれらの行為が禁止されていること、実際にパワハラ行為を行った際の対処内容を熟知しておく必要があります。
2:相談窓口の整備
社員が「パワハラでは」と感じた際にすぐに相談できるような窓口を社内に設置します。パワハラかどうかが曖昧な行為であっても、安心して相談できるような体制を整備することが重要です。
3:パワハラが起こってしまった際の対応法確認
防止対策を取っているにもかかわらず、実際にパワハラが起こってしまった場合の対処法をシミュレーションしておきます。具体的には、事実関係の確認や双方への措置、行為者への対応策などを決定します。
4:パワハラ当事者である双方の社員を守るための併用策を講じる
パワハラを行った者、受けた者のプライバシー保護対策や、相談や行政への訴えかけを理由に社内で不利益な取り扱いをしないなどの対策を取り、パワハラ当事者が安全な立場に置かれるよう心がけます。
パワハラの認定基準には、行為を受けた者が被った苦痛の度合いに左右されます。企業側としては、日頃から社員一人ひとりの適正や性格、行動パターンを把握し、パワハラが横行しないような職番環境を整えていく必要があるでしょう。
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・対処できる?義務化された「パワハラの懲戒処分」実務ステップ
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【参考】
パワーハラスメントの定義について(平成30年10月17日) / 雇用環境・均等局
* kai / PIXTA(ピクスタ)