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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 退職者が情報漏洩する「手土産転職」どう対策する?リスクを最小化する方法
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退職者が情報漏洩する「手土産転職」どう対策する?リスクを最小化する方法

2024.02.21

中小企業において、退職者が情報を持ち出し組織外に持ち込む「手土産転職」は、まさに情報漏洩リスクの温床となります。キャリアアップを求め、転職が当たり前となった昨今、リスクマネジメントの一環として、手土産転職をどう防ぐかは重要な課題となっています。

そこで、今回は「手土産転職」を未然に防ぐ方法に焦点を当て、リスクの最小化を目指す方法について解説します。

手土産転職とは

退職者が、退職前に所属していた企業の企業秘密を転職先に持ち込むといった、いわゆる「手土産転職」を行うケースがみられます。これには、はたしてどのようなリスクがあるのでしょうか。

手土産転職のリスク

手土産転職が発生すると企業の取引先の情報や財務情報、技術情報といった重要な経営情報が転職先に漏れてしまい、自社の競争力を低下させてしまうリスクがあります。

「情報漏洩は大企業の問題」と思われているかもしれませんが、中小企業でも問題になります。むしろ、ジョブローテーションが行われておらず、また知財戦略も十分ではないことが多い中小企業では、取引先の情報や重要なノウハウが属人的に帰属していることが多く、転職とともにこれらの情報が転職先に漏れてしまうことが多いのです。

たとえば、従業員の給与に関する情報を退職者が持ち出し、転職先に渡したことによって、転職先がよりよい待遇を他の従業員に提示し、引き抜かれるといったことが起きるケースがあります。

また、典型的には取引先の奪取が問題になりやすいです。ジョブローテーションが行われない中小企業では、取引先との関係が担当者に属人的になりやすく、その担当者が転職してしまうと、重要な取引先の情報も同時に持ち出され、取引先が転職先に奪われてしまうというケースがあります。

そのほか、知的財産として保護されないノウハウもまた、会社の財産としてではなく、特定の従業員の頭の中にだけ存在していることがあります。その結果、その従業員が転職することで自社がノウハウを失うだけでなく、転職先にノウハウが漏れてしまうといったケースもみられます。

それでは、このような情報漏洩を防ぐためにはどのような対策が求められるのでしょうか。

やっておくべき手土産転職対策

前提として、従業員には「辞職の自由」がある以上、転職自体を止めることはできません。したがって、重要であるのは情報をいかに守るかという点です。

具体的には、

  • 就業規則、労働契約、誓約書などで守秘義務を課す
  • 不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるように情報を管理する
  • 可能なものについては、商標や特許などを取得しておく

といった方法で、情報を守ることになります。以下で各項目を詳しくみていきます。

1. 就業規則、労働契約、誓約書などによる対応

従業員との関係で、基本的な対応となるのは、就業規則、労働契約、入社・退社時の誓約書で“秘密保持義務”を課しておくことです。

次の2で述べる不正競争防止法上の「営業秘密」は、法律に定義のある概念であるため、一定の規制力をもっています。

他方で、就業規則などで課す「秘密保持義務」の対象となる情報の範囲は、就業規則などで定めることができますので、不正競争防止法上の「営業秘密」ではない場合であっても、保護の対象とできます。

特に注意が必要であるのは、退職後の秘密保持義務については、就業規則などで明記しておいたり、誓約書をもって義務付けておかなければ、これを課すことができないという点です。この点は、在職中であればこれらの明文がない場合でも(内容は不明確になるものの)当然に秘密保持義務を負うことになるとされているのと異なります。

就業規則などで定められた秘密保持義務違反に対しては、情報利用の差止めや、損害賠償請求がありうるほか、仮に退職金を支給していない段階であれば、退職金の減額、不支給といった対応が可能です。

2. 不正競争防止法の「営業秘密」としての保護

上記のとおり、退職後の情報漏洩については、就業規則などや誓約書をもって退職後の秘密保持義務を明確に定めておく必要があります。

そのため、就業規則などに退職後の秘密保持義務が課されていない場合や、誓約書を提出してくれないような場合には、不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を検討します。

不正競争防止法上では、「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」とされています。

【参考】不正競争防止法第2条第6項 /e-gov法令検索

この定義上、ある情報が「営業秘密」として保護されるためには、以下の3要件を満たす必要があるとされています。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

①の秘密管理性との関係では、たとえば当該情報を誰でも見ることができない場所やフォルダに保存し、パスワードを設定していることや、書類に「対外秘」などと明記しておくことが必要とされています。

3. 商標権、特許権による保護

企業に存在している情報のうち、商標権や特許権などの対象になるものについては、費用対効果も見極めつつ、これらの知的財産法による保護を受けられるようにしておきましょう。

もっとも、知的財産法ではいわゆる「ノウハウ」は保護の対象にならないと考えられているため、ノウハウについては、①就業規則、労働契約、誓約書などによる対応か、②不正競争防止法の「営業秘密」としての保護が基本になります。

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最も重要な平時からの対応

上記のとおり、法的観点から企業秘密を守る方法はいくつかありますが、「情報」という見えないものの持ち出しは、損害賠償などを請求する側にとって、立証が容易ではないことが多く、また、その損害の立証も難しいことがあります。

したがって、事後的な救済は難しいケースが多く、やはり平時からの対策が必要になります。

1. 情報の適切な管理

まず、平時からの対策としては、まず情報の適切な管理が重要です。

「わが社の社員に限ってそんなことはない」と思われる方も多いですが、残念ながら人を雇用する以上は情報漏洩のリスクは常に存在します。退職の段階では、特に情報漏洩のリスクが高まるということを理解しておく必要があります。

当然、重要な企業秘密にあたるような情報は、企業にとっても重要であり、ずっと金庫にしまっておくということはできず、「情報を利用する」という必要性があります。ただ、これまで述べてきたような給与情報や取引先情報、自社のノウハウといった情報などの漏洩リスクもあるため、「情報の重要性」と「情報の利用の必要性」の両方を十分に考慮しながら情報の管理を行いましょう。

たとえば、情報の重要性はあるものの、さほど高くなく、利用の必要性が高い場合には、あまりコストをかけず、管理することが考えられます。一方、情報の重要性が極めて高い場合には、情報利用の必要性が高くとも、一部の社員でしか見ることができないようにパスワードを設定するなどして保管しておくことが考えられます。

2. 情報管理に関する教育

また、情報管理に関する教育を徹底しておくことも重要です。

情報漏洩は、自社の競争力を削いでしまうだけでなく、手土産転職を行った社員に対しては、損害賠償請求や退職金の不支給・減額などがされることをしっかりと理解してもらうことが重要でしょう。

情報漏洩のリスクは、中小企業にとって容赦ない脅威となりますが、そのリスクが発生する可能性をあらかじめ減らしておくことは可能です。手土産転職にまつわるリスクを理解し、情報漏洩リスクを防ぐための対策を講じていきましょう。

*BritCats Studio, PreciousJ, L.O.N Dslr Camera / shutterstock

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