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問題社員

「正直、もう退職してもらうしか…」どう進める?問題社員に対する退職勧奨のポイント

2022.11.17

会社内でしばしば問題を起こし、度々注意をしても問題行動が改善しない問題社員に対して、最終的には懲戒解雇等の解雇を通知し、退社してもらうことが考えられます。しかしながら、会社から一方的な解雇を告げることは、紛争になりやすいというリスクがあります。

そこで、会社からの一方的な解雇の前に、“退職勧奨”を行い説得することで問題社員と会社の双方の合意の上で退職してもらう方法が有効です。今回は、問題社員に対する退職勧奨の進め方について解説します。

退職勧奨とは

“退職勧奨”とは、社員と会社との間での退職の合意を行うための説得活動をいいます。裁判例では、「勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動」とされています(日本アイ・ビー・エム事件・東京地裁2011年12月28日)。法的には、「退職の申込みの誘引」となり、最終的な合意に至る前段階の行為です。

退職勧奨と解雇との違い

上記のとおり、退職勧奨は、会社から社員に対して退職に関する合意を行うための説得活動です。したがって、これ自体では、退職合意がなされたわけでもなく、また、解雇する旨の意思表示がされたわけではありません。他方で、“解雇”は会社から(社員の同意を得ることなく)一方的に雇用契約関係を終了させる意思表示であり、それ自体をもって雇用契約が終了することになります(ただし、無効となる場合はあります)。

【こちらの記事も】違法にならず解雇できる?今すぐにでも辞めてほしい「モンスター社員への対応」

退職勧奨を行うメリット・デメリット

退職勧奨を行うメリットとしては、以下の点が挙げられます。

メリット1:後の紛争が生じにくい

退職勧奨は、合意による退職に応じるよう会社から社員に対して説得する活動ですので、これに社員が応じた場合には、“合意退職”ないしは“自主退職”がなされます。その場合、会社から一方的に解雇する場合に比べて、後の紛争となりにくいといえます。

メリット2:紛争となっても有利なことが多い

解雇の場合には、その有効性は極めて厳格に要求され、客観的合理的理由・社会的相当性がなければ、解雇は無効となります(労働契約法第16条)。これを解雇権濫用法理といいます。他方で、退職勧奨の結果、合意に至った場合や自主退職をした場合には、会社からの“解雇”がないため、仮に争いになってとしても、解雇権濫用法理は適用されません。紛争を起こす社員としては、民法にしたがって、意思表示の錯誤や強迫等によりその取消しを主張することになりますが、一般論としてこれらの主張立証は社員にとって困難であり、会社としては、退職に関する紛争を有利に進められることが多いです。

メリット3:社員にとっても名誉が保たれる

社員にとって、会社に一方的に解雇されるよりも、合意によって退職する方が名誉が保たれる面があります(一般に合意退職の事実は口外禁止等の条項が入ります)。また、雇用保険上の退職理由についても合意によって定めることができます。

他方で、デメリットとしては、以下の点が挙げられます。

デメリット1:退職合意等まで時間を要する

退職勧奨は、相手方に対する退職合意ないし自主退職の説得活動であるので、一方的に解雇を通知するよりも時間を要します。もっとも、有効に解雇しようとすれば注意指導等を繰り返す必要があるため、そこまで大きなデメリットではないでしょう。

デメリット2:一定の金銭の支払が発生する

退職勧奨の結果、退職の合意をすることとなった場合、当然ながら社員としては一定の金銭の支払を要求します。その場合は、会社として、これに応じる必要があります。仮に解雇を有効に行うことができれば、金銭の支出はないため、退職勧奨のデメリットといえるでしょう。ただし、解雇の場合には、解雇無効の紛争が生じる可能性があることからすれば、紛争の早期解決のため必要な支出ともいえるでしょう。発生する金額はケースバイケースです。基準をお伝えするのは難しいですが、3~6か月分程度の給与額を、税務上のメリットがある退職金として支払うケースが多く見受けられます。

退職勧奨を進めるにあたっての注意点

退職勧奨は、会社から社員に対する説得活動ではあり、これを行うこと自体は自由です。ただし、一定の場合には、退職勧奨が違法とされる場合があります。

(1)退職勧奨のやり方等が違法な場合

裁判例では、「労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許され」ないとしています(上記日本アイ・ビー・エム事件)。

例えば、机を叩いて威迫したり、人格否定を伴うような方法での説得は、“退職強要”として、その行為自体が違法とされ不法行為となる可能性があり、また、そのような“退職強要”に基づく退職合意や自主退職の意思表示は錯誤や強迫による取り消される可能性が高くなります。

(2)明確に退職勧奨を拒否した後の退職勧奨

上記のとおり、一定の場合には、退職勧奨は違法となります。特に、明確に退職勧奨に応じない旨の意思が明示されているのに執拗にこれを行うことは、違法な退職勧奨となる可能性があります。裁判例では、既に退職勧奨に応じない旨を表明していた者に対して、1~4人の担当者で、3~5か月の間に合計12~14回程度の退職勧奨を継続した事案について、違法としています(下関商業高校事件・最高裁1980年7月10日)。

一旦退職勧奨に応じない旨の回答があったとしても、新たな条件の提示や、更なる説得を試みることは可能とされており(上記日本アイ・ビー・エム事件)、その限界は難しいところです。しかし、別条件の提示がなく、退職勧奨の理由などを十分に説明した上でもなお、社員から退職勧奨に応じないことが表明されているのであれば、退職勧奨を中止し、更なる注意指導を行うか、解雇を行うか等を検討すべきです。

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退職勧奨のポイント

上記のような退職勧奨の限界を踏まえると、退職勧奨の面談にあたっては、以下のような点に留意しましょう。

ポイント①:退職勧奨の理由を具体的に伝える

まず重要であるのは、退職勧奨の理由を具体的に伝えることです。その際には、人事考課の結果や、具体的な問題点などを指摘しながら説明しましょう。間違っても、人格否定を伴うような方法で説得してはいけません。

ポイント②:場所、人数にも配慮

1人の社員に対して多くの人数で退職勧奨を行うと、それ自体で威圧的になりかねませんので、1~2人程度とするのが良いでしょう。また、場所は、できるだけ社内の会議室で行いましょう。

ポイント③:退職条件も用意しておく

退職勧奨は、合意退職の交渉でもあるため、退職条件を提示する必要があります。退職勧奨を開始するまでに、ある程度の退職条件を用意しておきましょう。

ポイント④:退職勧奨の事実を記録化する

仮に社員が退職勧奨に応じない場合は、最終的に解雇となる可能性が想定されます。退職勧奨を行ったという事実も解雇の有効性を基礎づける事情となりますので、退職勧奨を行った事実を記録しておきましょう。

ポイント⑤:退職合意書を作る

最終的に社員が退職勧奨に応じた場合には、退職届ではなく退職合意書をとるようにしましょう。

退職勧奨の限界を見極めつつ適正な説得活動を

冒頭で述べたとおり、退職勧奨は、退職あたり後の紛争を生じさせる可能性を下げることができますし、社員にとってもメリットがあります。会社としては、退職勧奨の限界に留意しつつ、説得活動を行っていくとよいでしょう。

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*ヤシの木、アン・デオール、Audtakorn、nonpii、Graphs / PIXTA(ピクスタ)

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