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差別化のカギは参入障壁にあり!中小企業の成功を導く手法をコンサルタントが解説

2024.05.14

競争が激化する市場で存在感を高めるためには参入障壁の構築が必要です。特に、中小企業のような外部環境の変化に弱い規模の企業にとって参入障壁を高めることは必須の課題です。

競合他社との差別化や市場での安定性の向上を目指すための参入障壁の構築手法について、事例を交えて解説します。

なぜ参入障壁が重要なのか

中小企業を安定的に経営していくにあたって、実は参入障壁を意図的に高めていくことは非常に重要なポイントです。なぜならば、一般的に、中小企業の経営資源は大手中堅企業の経営資源と比べると少ないことが多いからです。

そこで、いかに競合他社との差別化を図り、新たな競合が物理的にも心理的にも参入しづらくなるような参入障壁を構築するかが重要になっていきます。置かれた市場やエリアで、いわば「戦わずして勝つ」ともいえる状況をつくり出していくことが安定的な経営につながっていきます。

地方都市で年商10億円規模までの中小企業の財務コンサルタントとして企業経営の根幹に触れ、得られた知見を交えながら解説していきます。

中小企業が参入障壁を高めるためにできること

新たな競合他社をゼロにすることはほぼ不可能と考えてよいでしょう。日本は資本主義経済であり、社会主義のような統制社会ではないからです。しかしながら、その代わりに“参入しづらい状況”をつくり出すことは充分可能です。

そこで意識したいポイントが3点あります。

①経営計画に差別化戦略を記載し、経営者や幹部が参入障壁を構築していく意図を持つ

ベストは経営戦略の根拠となるクロスSWOT分析の差別化戦略の部分に記述しておくことだと考えます。もし、クロスSWOT分析などのフレームワークを使用しない場合であっても、経営計画のなかに「参入障壁構築への考え方」といったテーマ設定をして自社の方針を明確化しておくべきでしょう。

②いかに人員と費用をかけていくのかを考える

大手中堅企業と異なり、中小企業は余裕をもってリソースを投入することは難しいといえます。限られた人員と費用をどう分配するのかを見誤らないようにするためには、事前に協議し、経営計画に記述するなどして、あらかじめ決めておくことが求められます。

③どれだけの時間をかけていくのかを考える

3~5カ年の中期経営計画のなかに設定した予想P/L(損益計算書)にその決算期ごとでの商材・サービスでの市場のシェアや、どういう状況にまでなれば成功なのかを簡単でもよいので記述しておくことをおすすめします。

以上の3点に加えて、経営者自身のセンスや直感、長年培ってきた企業風土、偶然的な情報やヒトとの出会い、外部環境の変化など「運」ともよべるような曖昧な要素が加味されて、参入障壁は構築されていくイメージを持っています。

以下では、筆者が取り組みをしていた複数の事例を、業界別にあげて説明していきます。このなかから、自社に立場を置き換えて、参入障壁構築へのヒントをつかんでいただきたいと思います。

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小売業のお客様のケース

小売業の事例では、所得に比較的余裕がある層による分厚い顧客基盤を参入障壁として据えるようにしました。

販売業態を高価格帯に絞り、明確なブランディングを実施したのです。これにより、その地域において「そのお店に行くことがステータスだ」といえる水準にまですることができました。

この地域における、小売業という業種の販売価格帯においては、県内トップシェアを四半世紀の時間を費やしつくり上げてきました。

広告費については、大規模な改革をスタートした当初から数年間は積極的に投入したものの、現在は大きな広告費投入なしで、工夫を凝らしたイベント的販売形態でも根強いファンを獲得することができています。

また、この企業では広告費の予算を一部人件費に投入し、競合他社よりも若干高い給与水準にするなど、社員への還元策を実施しています。参入障壁の構築によって、競合他社との差別化だけではなく、会社全体にとって大変前向きな成果につながっているといえます。

一方、唯一のリスクとして考えられるのは、美容業界のように「人」にお客様が付いていることが多いことです。独立をする場合には、顧客が一定数減少する可能性もあるでしょう。

製造業のお客様のケース

製造業の事例としてあげるのは、“高い水準の安全技術を社内へ浸透させるしくみを持っていること”が重要になってくる、大規模な生産設備を扱う大型船舶造船業界に身を置いている企業の事例です。

ある意味特殊な業界でもあり、新規参入は大手企業の直属の下請けでの参入は難しい業界です。大規模な製造業や建設業といった多段階の下請け構造のなかの企業としての売上がメインの場合は、孫請けやひ孫請けのような薄利の仕事のなかで実績を積まなければならない、いわばメジャーリーグの下部組織のようなピラミッド型システムのなかでの競争があります。

そして、人員を安定的に確保できるノウハウを持ち、人員を確保し、納期と安全基準と製品の精度を守り続け、ひたすら実績を愚直に積み上げていくしかない業界的な特徴があります。競合他社よりも労働災害や製造工程におけるミスが少なければ、発注元企業からの信頼も増えます。

また、下請け業者のなかでの取引地位が高まり、安定的に好条件でリピートオーダーが来る可能性があるでしょう。簡単にいえば、「信頼を勝ち取るために長く、真面目にやっていくしかない」という構造が製造業です。大規模な造船業・建設業等においては「高い水準の安全技術を社内へ浸透させるしくみを持っていること」が、競合となる下請け企業間において差別化となり自社価値になるのです。

新規参入で大手の直属の下請けに名乗り出るには、小資本では困難を極めます。その業界の需要により業績は多少変化しますが、新規参入障壁はかなり高い水準にあるといえます。

建設業のお客様のケース

建設業の事例としてあげるのは、中山間地域における土木関連公共工事をメインに請け負う企業の事例です。

業歴が長く、熟練した重機オペレーターが複数人おり、設定した予算規模のエリアにおける工事の受注はトップシェアを誇る企業でした。

業歴、技術力、発注側との信頼関係、エリアでの知名度などは競合他社と比較しても高水準を保っています。

財務的な余裕を活かして、さらに高い専門的な技術力が求められる領域での工事を自社で請け負うための体制づくりを進めるため、経営計画に5カ年という軸をもって記載しました。これは今後の市場環境でも需要が見込まれる分野に焦点を当てたものです。経営者自身もこの計画に沿った行動管理を実践しています。

福祉サービス業のお客様のケース

福祉サービス業の事例としてあげるのは、県庁所在地中心部からあえて対象エリアをずらして1拠点目を創設した企業です。

この企業はその後、オペレーションのレベル向上に注力し、潜在顧客のニーズ調査に力を入れました。

そのうえで、自社にとって有望な市場環境であると判断し、人材の確保、人材の育成、金融機関との良好な関係構築に取り組むことで、担当行政とのコミュニケーションを継続しました。

結果的に短期間で5拠点創設し、ドミナント出店(特定のエリアに集中して出店し、高いシェアを狙うこと)ともいえる状況をつくり出し、大手中堅の進出も躊躇させるような状況にすることができています。

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まとめ

いくつかの事例を掲載させていただきました。さまざまな考え方があると思いますが、結局、参入障壁をヒト・モノ・カネの投資で高めていくということが王道であると考えます。

広告費を積極的かつ戦略的に使用し、エリアにおいて他社の追随を許さないブランドにまで高めることは非常に分かりやすい道の一つです。さらには技術力やサービスの力を向上させていくための、高水準の設備機械の導入や、スキルの高い人材を確保する費用として資金を積極的に使っていくことで参入障壁を高めることができます。

業歴(信頼と顧客基盤)という時間軸を味方につけて、参入しづらい環境レベルをどんどん高めていくことも大切です。なにごとも近道はないといえるでしょう。

今回のコラムでお伝えしたかったことを3点に絞ると以下の内容になります。

  • 参入障壁を高めていくことが自社の安定的な経営の継続していくポイントになる
  • 外部環境に弱い中小企業は他社が参入しづらい環境をつくる意識をしなければならない
  • 参入障壁を高めていくには近道はないが、計画的に資金を使うことで一定水準まで高めることは可能である

今回のコラムが戦略的に参入障壁を高めていくヒントになることを願っております

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