
オフィス移転のベストタイミングは?財務指標から見極める方法を解説
筆者はこれまでに事業主・中小企業の経営者として、6回ものオフィス移転を経験しました。また20代の頃、銀行員や保険会社勤務で勤務していた際にもオフィス移転ではないですが、勤務場所の異動・変更を5回も経験しています。オフィス環境の変化がもたらす影響を、さまざまなレベルで実感してきました。その経験を棚卸して整理し、財務コンサルティングの知見を加えた上で、中小企業の経営者が知るべきオフィス移転に関するポイントを整理します。
今回は、“オフィス環境の改善”をテーマに、中小企業がオフィス移転のタイミングを見極める方法を、財務的観点から解説します。
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オフィス移転に最適なタイミングを、十把一絡げに「この状態がベスト!」といい切ることは正直難しいですが、銀行などの取引金融機関から「オフィス移転ですか。よいですね!企業が成長している証拠ですよ。ぜひ費用の一部は融資させてください」と前向きに背中を押してもらえるような状況は、一つの理想形といえるのではないでしょうか。
製造業・建設業・卸売業・小売業・サービス業など、業種や業界によって外部環境は異なりますが、移転に対して社内外から「ぜひ移転したい」「移転するべきだ」「移転によってやる気が上がります」「訪問しやすくなり、取引がしやすくなります」といった前向きな発言が自然と出てくるような状況は、その移転が成功する可能性が高いです。なぜなら、現場の数字を支えるのは社員・スタッフであり、取引先からの対応でも業績は左右されることが頻繁にあるからです。
オフィス移転によって企業の生産性が上がり、内在されていた経営課題が解決に向かっていく大きなきっかけになるのであれば、費用を投資して意思決定をする経営者・経営幹部にとって願ったり叶ったりでしょう。
1.財務的な判断材料
中小企業がオフィス移転を検討する際に重要な財務的な要素は、以下のようなものがあります。
① 分析するべきコスト
- 賃料:新しいオフィスの賃料が、現在と比較してどの程度増減するのか
- 移転費用:引っ越し、内装工事、現状回復などの費用
- 移転による一時的業績の低下:引っ越し作業による一時的な売上減少や、営業における機会損失
- 運営コスト: 新しいオフィスでの光熱費、通信費、清掃費などの運営コスト
② 資金繰りへの影響
- 資金繰り表の作成: 移転に伴う一時的に増加する支出や業績悪化の影響を織り込み作成
③ 投資対効果(ROI)
- ROIの計算: 移転によって見込まれるスタッフの生産性向上や取引先・販売先・顧客のアクセス向上による業績の向上など、具体的な計画に落とし込む
④ 社員・スタッフの通勤費用
- 通勤費用の変動: 新しいオフィスの立地によって社員・スタッフの通勤費用がどの程度変動するのかを計算
これらの要素を使い、移転が企業にとって財務的に妥当かどうか検証することをおすすめします。
2.オフィス移転時に確認すべき財務的数値
オフィス移転を決定する際の、より具体的に判断材料となる指標を示します。まず大前提として、経営状態、つまり自社の“財務状態の向上が見込める可能性が高い移転でなければ意味がない”という考え方を持っていただきたいと思います。一時的に取引銀行が決算毎に算定している“財務スコア”が悪化するかも知れないが、次期決算からこのような点が改善するというストーリーを文面に起こし、社内や取引金融機関の承諾を取り付けることがベストです。
そして、以下の4つの財務的数値を確認することが重要です。
- ギヤリング比率:200%以内
計算式:有利子負債÷自己資本×100(%)
聞きなれない指標ですが、借入金に対して自己資本がどの程度あるのかを示す指標です。この指標が100%を切るほど借入が少なく、安全性が高い会社であることが示されます。移転検討のための目標は200%以内です。
- 流動比率:140%以上
計算式:流動資産÷流動負債×100(%)
流動比率とは、1年以内の短期の支払い能力を見る指標です。主に資金繰りの状態を表します。高ければ高いほど資金繰りの状態がよく、安全性が高いと見られます。目標は140%以上です。
- 固定長期適合率:80%以内
計算式:固定資産÷(自己資本+固定負債)×100(%)
固定長期適合率とは、機械など設備や土地・建物のような不動産である固定資産に投資した資金が、長期資金(長期借入+自己資本)でどの程度賄われているのか見る指標です。低いほど安全性が高いと見られます。基準は80%以内です。
- インタレスト・カバレッジ・レシオ:3倍以上
計算式:インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息
この指標は金利の支払い能力を示します。貸したお金に対する金利をどれだけ払う能力があるのか読み解くことができる指標で、とても重要です。営業利益が黒字でなければこの指標でのスコアは得られず、金利を支払えない企業とみなされます。筆者は、営業黒字であることが移転には必要不可欠の要素と考えています。
勘の鋭い方ならお気づきかも知れませんが、これらの指標はすべて財務格付における配点が高く、小規模な企業であっても獲得しやすい項目です。細かい説明は割愛しますが、取引金融機関は毎期決算書を預かり、財務的な格付を算定して不良債権となる可能性を正確に洗い出すというプロセスを金融庁から求められています。
これらの財務的数値をクリアした中小企業は、取引金融機関から“正常先”と判断されます。満たしていない場合は、“要注意先”と判断され、少し風邪を引いているような財務状態にあると判断されてしまいまい、移転の際に追加融資を得ることが難しくなる可能性があります。
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オフィス移転で経営課題の解決を
経営者が思っている以上に、オフィス移転による業績への影響はあると考えられます。オフィス移転の際に、生産性をさらに向上させるべく、オフィスのレイアウトや新しい事務機器を導入すれば、情報整理や導線が改善され、営業面での向上が図れるでしょう。現在、チームでの情報連携や協力体制が作りづらいと感じるのであれば、ひょっとするとその原因はオフィス環境そのものにあるかもしれません。オフィス移転は、抜本的な課題解決を成し遂げる可能性を秘めていると信じています。
また、オフィス移転そのものをプロジェクト化し、組織力向上の機会として最大限活用するという考え方もあります。オフィス移転は経営者にとっても、社員・スタッフの両者にとってビッグイベントです。この移転プロジェクトを社員・スタッフに裁量を与えゆだねることで、その企業に組織としての主体性育むことにもなると考えられます。
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まとめ
- コスト面の上昇などいくつかの要素で、事前に移転の効果を検証することが必要である
- 移転する際に確認すべき財務的数値は、財務格付算定後“正常先”判定を獲得しやすい4つの指標から判断するとよい
- 経営課題の解決や組織力向上に、オフィス移転は大いに寄与する可能性がある
*PeopleImages.com – Yuri A,insta_photos,Geber86 / shutterstock
【エクセル版チェックシートも】はじめてのオフィス移転お役立ちマニュアル