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財務格付制度とは?経営者が知るべき自社で格付するメリットと格付作業の流れを解説

2024.02.26

企業の成績を客観的に評価するために欠かせない財務格付制度。これがなぜ経営者にとって重要なのか、そして銀行への信頼度や評価を向上させるためにどのように活用すべきなのか。

本記事では、財務格付制度の背景から詳細な仕組みまでを掘り下げ、経営者が知っておくべきポイントに迫ります。

財務格付制度ができた背景

そもそも、現在の格付算定システムは不良債権の実態を把握するため、数多くの金融機関が倒産した混乱の1990年代後半にできました。橋本龍太郎首相が中心となり、欧米にならって一部を日本流にアレンジしたものです。もともとは自己査定といって、金融機関の貸出金を自ら査定し、リスクに見合った引当金を積むための仕組みでした。これを融資審査に転用したのが格付制度の始まりです。

【参考】信用リスク管理の高度化に向けた自己査定の活用について/日本銀行考査局

財務格付制度とは

「知らず知らずのうちに財務的健康診断を受診している」というと少しイメージしやすいかもしれません。企業は融資取引がある銀行から毎年、付属明細一式を含めた決算書の提出を求められます。金融庁から許認可を得てビジネスをしている銀行をはじめとした金融機関は、貸し倒れリスクを計算し、そのリスクに見合った貸倒引当金を毎年積まなければならないルールが適用されているためです。

この貸し倒れリスクを計算する作業を「自己査定」といいます。この自己査定時に行われるのが、財務格付の洗い替え作業であり、いわば財務的健康診断です。企業の財務状況に応じて金融機関は基準金利を設定しています。財務状況が良好な場合は格付が高く、回収のリスクは低いので、基準金利は低く設定されます。反対に財務状況があまりよくない場合は基準金利が高く設定されるという仕組みになっています。

つまり、財務体質を良好にしていくと企業にとっては借入金利を低く、必要な資金を調達できるというメリットが得られます。ただ、金融機関はたいていの場合、社内規程において顧客企業の情報を顧客自身に漏らしてはならないと定められているので、自社の財務格付情報を知らない方もいらっしゃるかもしれません。

筆者のような財務的見地からコンサルティングを行っている、融資・財務系コンサルタントやアドバイザー、中小企業診断士は査定ツールを保有している可能性が高いですが、その大部分が活用されていないのが現状です。

では、どのような対応が考えられるでしょうか。それは、自社で財務格付けのための計算をすることです。

自社で財務格付をするメリット

財務格付を判定する主なメリットは以下のとおりです。

1.対銀行交渉のスタンスを決めやすくなる
2.自社の課題が明確になる
3.自社を客観的に判断し、改善点があらわになり、改善策の意思決定がしやすくなる
4.問題点が深刻になる前に未然に対策を打てるようになる
5.どういう点を優先事項において経営に取り組むべきかの指針になる

つまり、経営計画書を作成するうえで非常に参考になります。そのため、要点のみでも構わないので、財務格付の判断基準を知ることは経営に対してプラスになるといえます。

【こちらもおすすめ】銀行員を味方につける!根拠のある経営計画の作成と運用方法

自社で行う財務格付算定の流れ

財務格付は1~10までの区分で判定されます。

1~6=正常先
7=要注意先
8=要注意先(要管理先)
9=破綻懸念先
10=実質破綻先・破綻先

中小企業においてはとにかく、1~6の「正常先」と判断され続けることを心がけて経営していただきたいと考えています。というのも、正常先でなければ信用保証協会の保証が厳しくなり、追加担保・個人保証がなければ新たな融資、追加融資が困難になってくるからです

正常先と要注意先は大袈裟かもしれませんが、“天国と地獄の分水域”と捉えて問題ないでしょう。

格付作業の3段階プロセス

そして格付作業は3段階で行われます。

  • 定量分析(1次評価)
  • 定性分析(2次評価)
  • 潜在返済力分析(3次評価)

1次評価:定量分析

最も重視されるのが1次評価の定量分析です。全体の7~8割はこの評価で格付が決まるといえます。

1次評価で重要視される定量面(数値面)の項目は4項目です。スコアの満点が129点となります。要素と配点、項目毎のポイントを書きます。

安全性項目(34点) →さらに詳しくはこちら

配点の高い指標は自己資本比率であり、20%以上は確保したいところです。流動比率が160%以上あれば1項目の満点である7点を取れます。つまり、現預金の量がカギになるということです。

収益性項目(15点) →さらに詳しくはこちら

代表的な指標は売上高経常利益率です。4%以上を目指すべきです。1項目の満点である5点をとることができます。

成長性項目(25点) →さらに詳しくはこちら

代表的な指標は自己資本額が大きいですが、年商10億円規模未満の中小企業においては経常利益の増加率30%以上の成長を目指すのが現実的です。

債務償還能力(返済能力)項目(55点) →さらに詳しくはこちら

代表的な指標は債務償還年数で、その配点が非常に大きく満点が20点となっています。

計算式={(短期借入金+長期借入金)―(売掛債権+棚卸資産―買掛債務)}÷(経常利益+減価償却費―法人税等)

 理想は7年以内に収束していることですが、まずは12年以内を目指し、健全性を高めていけばよいでしょう。企業の規模に関係なく、インタレスト・カバレッジ・レシオ*が6倍以上あれば15点という1項目の満点が取れます。最低でも3倍以上で8点は確保したいところですが、とにかく、営業利益が重要であるということがいえます。

*インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息

さらに、簡単に結論をお伝えすると、金融機関ごとの評価テーブルで多少の差はありますが、最低でもぎりぎり正常先という区分となる32点以上、欲をいえば、10段階ある格付けの5以上の目安となる52点以上でありつづけることが経営の安全運転の目安であると考えられます。経営者としては、32点を境目に正常先と要注意先という区分に大きく分かれているという事実を知っていればまずは大丈夫です。

お気づきの方もおられると思いますが、金融機関の特性として「貸したお金が返ってくるのか?」ということに主眼があるので、安全性と債務償還能力項目の配点に比重が置かれています。

また、補足ですが、この考え方のもとになっている金融検査マニュアルは平成31年に廃止されましたが、依然として金融機関において融資審査の土台でありつづけています。

【参考】金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)/金融庁

2次評価:定性分析

2次評価においては定性分析が行われます。イメージしづらい点ですが、端的にいえば「経営者の人間性がちゃんとしているか」、「市場のトレンドや競合状態はどの程度か?」ということなどが総合的に評価されます。

判断軸の大筋は似ていますが、評価形式は金融機関ごとに定められています。格付全体に対して2割程度の影響力というイメージを持ってください。経営者自身の資質もここで判断されるので、金融機関に対しては誠実に対応することが求められます。

 3次評価:潜在返済力分析

3次評価は、定量的な決算数値、定性的な経営者の資質や市場の部分が評価されたうえで、以下の点が加味されることになります。

つまり、「経営者の個人資産も含めて本当の返済能力はどうなのか?」という視点で判断されます。時価評価で再計算された純資産額(B/Sの実態)が見られることになり、さらに個人資産背景も考慮され、最終的には他金融機関の支援体制やスタンスも含めて調整され、最終的な財務格付がはじき出されることになります。

具体的にいえば、経営者の生活費をヒアリングし、役員報酬額からその生活費を差し引いた金額を営業利益に加算して、実態ベースの営業利益を算定する作業を行う金融機関も多く存在します。ここは、金融機関担当者の力量と、コミュニケーション能力が問われるでしょう。

【こちらもおすすめ】金融機関との共通言語に!中小零細企業にクロスSWOT分析が必要な理由

経営者が財務格付制度で知っておくべきポイントまとめ

最後に、財務格付をよくするために経営者として押さえておくべきことをまとめると以下の3点になります。

・債務超過は悪であり、自己資本比率は15%以上(理想は20%)を維持しなければ高得点は見込めない
・経常利益の伸び率は前年対比30%以上を目標にする
・営業赤字は死活問題と捉える。企業規模に関係なく高得点を獲得できる項目でスコアが伸びないため

次回は、今回の振り返りを簡単にして全体像をつかめるようにしたうえで、財務格付の押さえるべき点を深堀りしていきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

*David Gyung, wichayada suwanachun, GaudiLab, S_L, Asian Isolated / shutterstock