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売上98%減!絶好調ベンチャー企業にふりかかったコロナ危機をチャンスをどう乗り越えたか(後編)

売上98%減!絶好調ベンチャー企業にふりかかったコロナ危機をチャンスをどう乗り越えたか(後編)

とにかく生き残ればチャンスがある。“危機はピンチではなく、組織や事業を強くしてくれるもの”

急成長のベンチャー企業を経営しながら、コロナ禍によって売上98%減。3ヶ月後には資金枯渇、という危機に見舞われながらも、ひとつひとつ問題を分解して打ち手を実行。その危機を乗り越えた『WAmazing株式会社』代表取締役の加藤史子さんにインタビュー前半に引き続きお話をお伺いしてきました。

前半のインタビューはこちら!

 

加藤さん曰く、「危機を通して、組織や事業は逆に強くなった」と語ります。その秘密について聞いていきます。

中小企業にとって「人が一番大事」、そこに絶対コミットすること

インタビュー前半でも紹介しましたが、コロナ禍への対応が始まった頃、加藤さんは全社員に対し、人が一番大事だからこそ雇用維持する旨を宣言しました。

全員の雇用を守るために、一部の社員に対し休業への協力依頼や他社への出向対応等を行うことで解雇者を出すことなく、人件費を軽減しようとしたのです。

それに伴い、オフィスの解約も即決。100人近くも社員がいるのに、ほぼ全員が在宅によるリモートワークへ移行。しかし加藤さんには迷いは一切なかったそうです。

「“人が一番大事”というメッセージを出した以上、優先順位は常に人が上であり、それを行動に移していく必要があります。一方でコストダウンもマストです。人件費を維持するならば、大きな固定費であるオフィスを退去するという判断は難しくはありませんでした。中小企業にとって重要な経営資産・経営資源は“人”です。だから経営者はそのメッセージを自らの経営判断や行動で示さないと優先順位がブレていきます。同じように“人が大事”と言いながら整理解雇を実施しながら、豪華なオフィスにはそのまま居続けるみたいなことをするのは間違ってるよね、と考えていたからです」(加藤さん)

その結果、若干の希望退職者は出たり、出向先に転籍してしまったりした社員はいたようですが多くはWAmazingに残り、現在はサービス再開に向けて忙しく活動しているようです。しかし、加藤さんは退職者が出たことも組織を強くすることに繋がったと語ります。

「ベンチャー企業の採用で一番重要なのはカルチャーやビジョンにマッチするかです。しかし会社が急成長していくと多少アンマッチな人材も増えていきます。しかし今回の件で、アンマッチな人材が減り、コミットメントの強いメンバーが残ったので、会社のビジョンやカルチャーに対しての純度は高まり、組織は強くなったと感じています」(加藤さん)

会社が成長していく中では様々なスキルを持つ人材が必要となり、入社してくることは普通です。

しかし、ビジョンやカルチャーに惹かれて入ってきた人材こそ危機の時に、しっかり会社を支えようと頑張ってくれる。これが強い組織の秘密なのです。

売上98%減!絶好調ベンチャー企業にふりかかったコロナ危機をチャンスをどう乗り越えたか(後編)

出典: Wamazing

あえて創業メンバーを役員にしない組織づくり

危機を乗り越えられたのには、もともとの組織づくりにもヒントがあったようです。そもそも、WAmazingは加藤さん一人で創業した会社ではなく、リクルート時代に共に働いてきた6人のメンバーで独立起業した会社です。

しかし創業メンバーにも関わらず、彼らは経営陣に名を連ねず、各事業部門の現場責任者として活躍しています。なぜなのでしょうか。

「身内で創業したベンチャーや中小企業はどうしても経営の役職を創業からの仲間で役割分担してしまう“役職おままごと”みたいになってしまうことが多いです。私と一緒に創業したメンバーは“事業づくり”などの現場は得意でも、“経営”を経験したことはありません。それは私自身も一緒でした。そのため外部から経営経験者を新たに採用し、事業執行は業界の経験も豊富な創業メンバーが担当するという役割分担にさせていただきました。肩書にこだわるわけではなく、得意なことを得意な人がやる方が良いと考えたからです」(加藤さん)

加藤さんは同じようなベンチャー企業の多くが、創業メンバーで役員を固めているケースが多いのを見て、あえてそのような組織づくりにしたそうですが、結果的にコロナ禍の時に、創業メンバーが現場をしっかり見ていたため、早期に新規事業の売上がたちはじめ、自分自身は株主対応や資金調達に専念できたのが良かった、と語ります。

ただ、多くの中小企業はミドルマネジメントが不在・不足していると言われます。加藤さんはどのようにして優秀な人材を招くことができたのでしょうか。

「WAmazingのミッションは“観光産業を通し、日本各地を元気にしていく”というものです。なんとなく会社運営していくのではなく、社会を良くするためのミッションをしっかり掲げることが、優秀な人を惹きつけるコツです」

加藤さん曰く、大企業にはミドルマネジメントができるけど、役職があてがわれていない優秀な人材がまだ多く眠っているそうです。20代の若い社員をまとめるチームリーダーを経験したくらいの30代社員などは、中小企業の規模でのミドルマネジメントに必要な経験や教育も終わっており、すぐに活躍できる可能性が高いのです。

しかし、そのような方が大企業を辞めて、中小企業やベンチャーにあえて入社してもらうには「夢やビジョンがないと絶対に引き抜けないです」(加藤さん)

中小企業やベンチャーだからこそ、経営者個人の夢やビジョンに人がついてきやすいのだそうです。

「もしお父様の会社を事業承継した方なら、お父様の会社以上にしていくという想いがないとダメだと思います。従来の商流や商習慣を生かしながら、若い経営者だからこそできる新しいことにチャレンジする姿勢。従来B to Bでやっていた卸業なら、消費者に直接販売するB to Cに挑戦したり、最近だとDX(デジタルトランスフォーメーション)などはわかりやすいですよね。お父様からの事業を承継しつつ、自分なりにこう伸ばしていく、というビジョンが大手企業などにいる優秀な若手の挑戦心に火を付けるのです」(加藤さん)

加藤さんと共にリクルートを退職して、WAmazingを創業したメンバーも社会を良くしていこうとするミッションに共感しているからこそ、役員の肩書といったものに固執することなく、やるべきことに集中する強い組織ができているのでしょう。

育成より採用。経営者が採用にコミットしないと会社は強くならない

ベンチャー企業としてビジョンやカルチャーにマッチするかを重要視してきたWAmazingですが、意外なことに創業メンバーだけで採用していた時の方が、人事担当者が採用の現場に入った時より離職率は高かったそうです。

「よくある失敗は、ピカピカの華々しい経歴を持つ人に惑わされてしまうことです。そういう方が面接を受けにくると“こんな無名のところに来ていただいてすいません”といったマインドになってしまうんです(笑)でもこれが失敗のもとであり、何度も採用で失敗しました」(加藤さん)

なので現在では経歴以上に、会社のビジョンやカルチャーへのマッチを重要視しているそうです。同時によくある失敗として加藤さんが挙げるのが、“育成に重きを置いて、採用を軽視してしまうこと”。

中小企業は最初から良い人材が採れないから、育成や定着に重点をおこうとする企業が多いかもしれませんが、加藤さんは「採用のほうに重きをおくべき」と語ります。

採用したのに離職するのは、辛いことがあったりすると逃げるような人を最初から採用しているからだそう。中小企業は社員を丁寧に育成する余裕があるところは少ないはずなので、最初から経営者が“辞めない人材・逃げない人材”を採用するために、採用現場に深くコミットすることが大事だと加藤さんは考えているようです。

しっかりとミッションやビジョンを掲げ、それに共感する人材を採用することで困難の時にも、“何のために会社を存在させなくてはいけないのか”という目的に対してブレないアクションが取れる組織になるのです。

売上98%減!絶好調ベンチャー企業にふりかかったコロナ危機をチャンスをどう乗り越えたか(後編)

出典: Wamazing

危機はピンチではなく、組織や事業を強くしてくれるもの

コロナ危機をまず乗り越えたWAmazingは、現在はサービス再開に向けて忙しく活動しているそうです。

「このコロナで多くの競合企業が、マーケットから撤退したり、事業縮小したりしていきました。WAmazingはもがきながらも市場に残って、とにかく生き残ったことで逆にコロナ以前より戦いやすい市場環境に変わったと考えています。このコロナ禍による社会の停滞はずっと続かないと思います。だから次なる回復期のチャンスを逃さないように、組織やサービスを立て直して波に乗る準備をしています」(加藤さん)

ここまでピンチに強い思考や行動力が光る加藤さんですが、自身はリクルート時代、自分が起業家・経営者となって大きな事業を立ち上げようと挑戦するなんて、想像もできなかったそうです。

しかし仕事に対してやり切ったと感じるまで真剣に取組み、その仕事を通じて「自分は、何かを立ち上げるのが好きなんだ」ということに気がつき、同時に観光業界の課題に着目したため、今のビジョンを掲げて起業するようになりました。そのビジョンが多くの優秀な人材を惹きつけ、強い組織を作り、会社も成長を遂げることができたのです。

そしてコロナ禍という大きな危機にも、ただ問題を前にして呆然とするのではなく、問題をひとつひとつ分解してやるべきことをあきらめず着実に実行に移したからこそ、生き残ることができました。

とにかく「生き残ること」に焦点をあてて、当たり前のことを積み重ねてきたWAmazingは、この危機を通じて、結果的に強い組織と大きなビジネスチャンスを手に入れました。

これは、きっと多くの中小企業やベンチャー企業の経営者にも気づきとなるのではないでしょうか。

“危機はピンチではなく、組織や事業を強くしてくれるもの”

加藤さんの今後にも期待です!