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退職金 トラブル

経営者が知るべき「退職金」支払い義務とは?事前にトラブル回避する方法

2021.03.24

コロナ禍の中、依然として不安定な経済情勢が続いており、経営難に苦しむ会社が多々みられます。このような状況下で、新たな道を模索し、結果として会社を退職する、という選択をする従業員も少なくありません。

ここで問題となるのが“退職金”でしょう。思うように経営が立ち行かない経営者にとって、従業員へ支払う退職金を捻出することが困難なケースもみられます。しかし、退職する従業員にとっても退職金の支払いは死活問題であり、支払いをめぐって労働者・使用者の間でトラブルに発展する可能性もあります。

今回は、このような退職金トラブルを防ぐための対策として、経営者が知っておくべき退職金の仕組みや法律による制度、具体的な対応法について、順を追って説明をしていきましょう。

退職金の仕組みと法的拘束力について

退職金とは、その名の通り使用者が退職をする労働者に対して支払うお金のことです。

退職といえば、ひと昔前は定年による退職が主流でしたが、退職金の支払対象となる退職理由には、定年退職のほか、転職などの自己都合退職や解雇など会社都合による退職、死亡などやむを得ない理由による退職など、さまざまな内容が挙げられます。

では、この退職金は必ず支払わなければならないのでしょうか?

結論からいえば、退職金は法律上支払いが義務付けられてはいないので、絶対に支払わなければならないものではありません。

ただし、中には退職金を支払わなかったことを理由に、従業員から未払いの請求が行われたり、訴えられたりする場合があります。次の項目では、会社側に退職金の支払義務が生じるケースについて、具体的に見ていきましょう。

会社に退職金の支払い義務が生じるケースとは

退職金の支払い義務が生じるかどうかは、その会社の就業規則の内容に応じて決められます。先ほどの項目で申し上げた通り、退職金の支払い自体には法的な拘束力はありません。

しかし、社内ルールを制定する就業規則の中で「退職金を支給する」というような内容が記載されている場合は、退職金の支払いが義務化されるのです。就業規則のほか、具体的な内容を退職金規程などで別途定めている場合も同様です。

では、就業規則を作成するときには必ず「退職金を支払う」と書かなければならないのでしょうか?

答えは“否”です。

就業規則は、常時10名以上の労働者を雇う場合は必ず作成と労働基準監督署への届け出が必要になりますが、退職金に関する内容は「相対的記載事項」という、退職金に関する制度が必要な場合のみ記載しなければならない項目にあたります。従って、会社として従業員に退職金を一切支払わないと決めている場合は、就業規則の中に退職金に関する記載をする必要はありません。

ただし、いったん「支払う」と記載してしまったら、退職金の支払いが義務化されるため、必ず支払う必要が生じます。

また、常時10名に満たない労働者を雇うような、就業規則の作成・届け出義務がない会社でも、退職金を支払う旨を記載した就業規則を作成し、それが社内で周知されていれば、10名以上雇用している会社の就業規則と同様の効果が発生するため、退職金の支払いが義務化されます。

退職金の支払いが免除されるケースとは

就業規則などでルール化した場合の退職金支払い義務については先の項目で説明しましたが、それでは退職金の支払いが義務化されている場合は、すべての退職者に対して退職金を支払わなければならないのでしょうか?

社員が退職するケースには、さまざまな理由が挙げられます。定年などの特に問題のない退職ならばともかく、不祥事を起こして解雇された社員や契約期間を満了した社員などに対して、他の社員と同様の形で退職金を支払わなければならないとなれば、納得のいかない経営者もいることでしょう。

法律によれば、就業規則等で退職金に関するルールを決める場合は、以下の項目について必ず記載しなければならないと定められています。

(1)退職金支払いが適用される労働者の範囲
(2)退職手当の決定や計算、支払方法
(3)退職手当の支払時期

上記は、いずれも退職金を実際に支払うにあたって欠かすことのできない項目です。

このうち(1)にあたる“労働者の範囲”、つまり退職金を支払う対象者をあらかじめ決めておけば、支払対象者を除く者に退職金を支払う必要がなくなります。

退職金の支払いを免除したい労働者の対象については、「解雇事由に抵触する者は対象外とする」「臨時職員・短時間労働者(パートタイマーやアルバイトなど)は対象としない」などのように、対象から外す旨を記載すると良いでしょう。

退職金トラブルを避ける具体的な方法3つ

退職金の支払いに関する問題は、労使トラブルに発展する場合が多くみられます。中には労働者が弁護士へ相談するケースに発展する場合もあり、揉め事がこじれることで会社側も疲弊し、資金繰りの悪化やイメージダウンへとつながるリスクがあります。

ここからは、このような退職金トラブルを避けるために注意するポイントについて解説をしていきましょう。

(1)有期契約社員に対する退職金の取扱い

雇用期間が終了したら辞めると決まっている有期契約社員に対して退職金を支払うことに対する抵抗感を抱く経営者もいることでしょう。

しかし、もともと退職金を支払うルールのない会社の場合は別ですが、正社員に対する退職金制度が存在するにも関わらず「有期契約だから」という理由で退職金を支払わないことは認められるのでしょうか?

有期契約社員に対する退職金制度の適用については、その有期契約社員の仕事内容や配置内容、仕事にかかる責任の重さなどから総合的に判断されるものです。

もしも仕事内容や配置状況、責任の重さが正社員と同様の場合は、「有期契約だから」という理由で退職金の支払いを免れることはできません。これは、雇用形態の内容だけで待遇に差をつけることは、「同一労働同一賃金」の原則に反するためです。

(2)退職金の支払時期

退職金の支払い時期や期限については、原則として、退職日以降に支払うものといわれていますが、法律には明確な規定はありません。

ただし、退職金の支払いについてルールを設けている会社の場合は、退職金の支払い時期について就業規則に定める必要があります。社員によって差を設けることや、支払い時期をあいまいにすることはできないため注意しましょう。

また、一度決定した退職金の支払い時期をズラすことは認められていませんが、別途支払いの延期に関わる要件や延期期間を定めることができます。

延期に関する事項を定めなかった場合は、たとえ支払先となる社員に退職金の支払可否にかかわるような問題が発生した(問題行為が見つかった)場合でも、退職金をいったん支払った上で返還請求を行う、という手順を踏まなければなりません。

なお、退職金の時効期間は5年になりますので、こちらも覚えておきましょう。

(3)退職金の減額

経営不振により定めていた金額を退職金として支払うことができない場合などは、労働者への影響が妥当な範囲内の金額と認められれば、減額が認められるケースがあります。しかし、あらかじめ就業規則で支給額や計算法などを変更する必要があります。また、代わりの手当を支給する姿勢を見せるなど、労働者に対して誠実な対応を取る事が必須であるといえるでしょう。

なお、解雇事由の抵触により退職金の減額、なかには不支給の決定をする場合なども、労働者が抵触した明確な証拠がない場合は認められないケースもあるため、注意が必要です。

まとめ

退職金は、比較的まとまった金額で支払われるケースが多くみられます。そのため、未払いにまつわる労使トラブルが絶えず、取扱いには注意をしなければならないことがお分かりいただけることでしょう。

各会社には、トラブルを避けるため、またこれまで働いてくれた社員に対して誠実に対応するため、退職金に関する適切なルール作りが求められています。さらに、職場環境を整え、日頃から労使の信頼関係を築いていくことも必要です。

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*horiphoto / PIXTA(ピクスタ)