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退職金制度って途中で廃止できるの?中小企業の退職金相場&注意点

2021.05.19

コロナ禍のあおりを受け、各企業の経営者にとって厳しい戦いが続いています。特に規模の小さい中小企業にとっては、思うように企業活動ができない、安定した収入の目途がつかない等、問題が山積みの状況です。

このような中で会社を守るための方策として、社内のコストカットを図りたいと考える事は当然の流れとなります。特に、退職金問題は企業にとって死活問題でしょう。例えば企業の規模を縮小しようと考える際、人員削減として幾人かの従業員が退職をする場合などは、退職金制度の内容に沿った形で退職金を支払う必要性が生じます。

退職金は、比較的まとまった金額の出費となるため、経営が思うように進んでいない経営者にとっては、非常に痛い存在といえます。

このように、財務上の負担の一つともいえる退職金制度を変更する、もしくは廃止してしまうことは、果たして可能なのでしょうか?

今回は、このような退職金制度の現状や制度を廃止する場合の法律上の規制、具体的な対応法などについて、順を追って解説をしていきます。

中小企業の退職金の最近の傾向

中小企業は規模が小さいことから、財務的に大企業ほどの余力を抱えていない場合がほとんどです。

これは退職金の傾向にも顕著に表れており、大企業では企業年金制度と併用した退職金制度が設けられているケースが多いことに対し、中小企業では退職金を一時金として支払う方法が多く取られていることに特徴があります。

また、2000年の初期には9割近くの割合で中小企業が退職金給付制度を導入していたのに対し、2018年度には導入企業の割合が7割程度と、2割ほど減少している状況です。これは、苦しい経済情勢が続く中、退職金を支払うことができない中小企業が増加していることが原因として挙げられます。

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、世界中の企業が苦境に立たされている現状から鑑みると、今後も苦しい経営状況の中小企業が増加するにつれ、退職金制度を廃止しようとする動きが活発になるものと思われます。

退職金制度は途中で廃止できるのか

前項目で、各中小企業の厳しい退職金事情について説明をしましたが、そもそもこの退職金制度を廃止することは可能なのでしょうか?

結論からいえば、“可能”です。

ただし、経営者が「今すぐ取りやめよう!」と号令をした直後、すぐに廃止できるものではない点に注意が必要です。退職金の廃止は、従業員にとっては収入源といえるものであり“労働条件の不利益変更”に該当するためです。

労働条件の不利益変更を実施するためには、会社に勤める社員や労働組合などに事情を説明して合意をしてもらった上で、社内ルールが記載された就業規則を変更し手続きを取ることが原則となります。

例外として、退職金制度の廃止という行為が、「合理的なものである」とみなされた場合は、社員や労働組合の合意なしに就業規則の変更のみで制度を廃止することが法律上では認められています。

ただし、いくら法律上で認められているとはいえ、社員に説明や相談なしに一方的に退職金制度を廃止してしまうことは、印象も悪くなり無用な労使トラブルの原因となります。

退職金制度の廃止は、企業にとっても従業員にとっても大きなルール変更といえます。真摯に話し合いを重ね、双方が納得のいく形で制度改革を進めていく方法が有益だといえるでしょう。

退職金制度を廃止するときに注意すべきこと

退職金制度を廃止する場合に気をつけなければならない点としては、先ほどの項目でも説明した通り、“合理的”な理由があるか否かに左右されることです。

合理的な理由かどうかは以下の観点から総合的に判断されます。

①労働者のこうむる不利益の程度
②退職金制度を廃止するための必要性
③退職金制度を廃止するために変更した就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他、就業規則の変更に係る事情

退職金制度を廃止する際に、実際にこれまで合理的と判断された理由としては、「経営状況が苦しくなり退職金の支払いが不可能となった」などの内容が挙げられます。

ただし、「経営が苦しいのだから仕方がないだろう」と会社側が一方的に制度を廃止してしまうケースは避けたほうが良いでしょう。企業としても、従業員にとって不利益となる形に社内ルールを変更することから、支払えなくなった退職金の代わりとなる措置を取る方法や、即座に廃止するのではなく期間を置いて徐々に制度廃止に向けて移行していく、つまり“経過措置”を設けるなど、従業員に対して真摯な対応を取る事が求められます。

退職金は、月々に支払われる給与と同じく、社員にとって今後の人生に影響する非常に重要な存在です。したがって、退職金制度廃止にまつわる労使トラブルに発展した場合などは、企業側の対応が妥当なものかどうかが厳しく判断されます。

つまりは人と人との問題であることを重々承知の上で、相手の立場を尊重する形での制度変更が求められているといえるでしょう。

退職金制度の相場、計算方法などの事例

退職金制度の相場は、大企業と中小企業ではやはり大きく金額に差があることが特徴です。東京都産業労働局の統計「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」によれば、通常の社員が中小企業で定年退職をする際の退職金相場は、高卒者ならば約1,031万円、大卒ならば約1,119万円で、支給月数は25ヶ月前後という数字が発表されています。

また、中小企業へ入社後数年で転職する場合なども、平均して数十万円の退職金を受け取っているそうです。つまり、退職金制度を導入している企業がまとまった金額を準備しておく必要があることが、この数値から読み取れます。

なお、退職金の計算方法には、主に以下の4種類が挙げられます。それぞれの特徴は以下の通りとなりますので、参考にして下さい。

(1)退職時の基本給

退職時の基本給×勤続年数×退職事由から算出される支給率

(2)別テーブル方式

等級別の基準額×勤続年数に応じた支給率

(3)ポイント制方式

役職や勤続年数、ランクごとにポイントを設け、累計額の掛金によって算出

(4)定額方式

勤続年数別にあらかじめ定めた金額を支給

まとめ

退職金制度を廃止する場合は、さまざまな点に気を使いながら対応を進めなければならない事がお分かりいただけたかと思います。

会社のために働いてくれている社員のためにも、本当に制度を廃止したほうが良いのかを見直し、退職金制度を廃止した場合のメリット・デメリットを洗い出してみると良いでしょう。制度の廃止を実行する場合は、代わりになる一時金の支給等の措置も検討をしてみてはいかがでしょうか。

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【参考】
りそな年金研究所2019年3月号No.611「企業年金ノート」(りそな銀行)
E-GOV法令検索 労働契約法
東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」

*【IWJ】Image Works Japan / PIXTA(ピクスタ)