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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 固定残業代は明確にすべき?みなし残業制度のメリット・デメリットと注意点
みなし残業制度

固定残業代は明確にすべき?みなし残業制度のメリット・デメリットと注意点

2021.07.18

みなし残業制度を採用する企業が増えているなか、自社への導入を検討している経営者の方も多いのではないでしょうか?

また、すでにみなし残業制度を採用している経営者の方でも正しく運営できているか不安に感じていることもあるかと思います。

そこで本記事では、みなし残業制度についてメリット・デメリットとともに、導入・運営にあたっての注意点を説明します。

みなし残業制度とは

みなし残業制度とは、一定の時間外労働について働いたとみなす制度です。みなし残業制度では、所定労働時間を超えて労働することが通常必要となる場合において、“当該業務の遂行に通常必要な時間”または“労使協定”で定められた時間、労働したとみなされます。定められた時間(たとえば9時間)働いたとみなす制度であり、実働5時間労働であった場合も労働時間を9時間とみなします。この場合、所定内労働が8時間である場合、1時間は所定外労働(残業)になります。

みなし残業制度を導入と並行して、固定残業制も導入することが一般的です。労働時間管理の制度であるみなし残業制度に対し、固定残業制度は所定外労働時間(残業)に応じて時間外割増賃金を毎月一定額で支払う賃金制度あり、賃金規程などに明記する必要があります。

みなし労働時間制は、3つの分類があります。

(1)事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外労働のみなし労働時間制は、営業などの直行直帰で外回りをされる労働者が対象です。事業場外での業務が主のため、労働時間がいつからいつまでというのを使用者が算定し難いときに、労使協定などで定めた時間働いたとみなす制度です。

(2)専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、ソフトウエアの開発、証券アナリスト、金融商品の開発、専門士業などの法律で導入できる職種が決まっています。この制度は、専門知識や技術の提供をもとに大幅な裁量を認めた上で勤務を認めるものです。

(3)企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査及び分析の業務等を行っている労働者で、労働時間等を大幅な裁量に任せて業務を行う者を対象にして適用できます。導入するには、労使委員会の設置・決議など手続きが必要です。

みなし残業制度を導入するメリットとデメリット

メリット

・みなし残業の時間内であれば、残業しなくても支払われる残業代は同じですので、効率的に働いて早く帰宅しようとするインセンティブを与えることができます。
・残業代が固定化するため、年間人件費の計画が試算しやすくなります。
・ダラダラ残業や付き合い残業など不要な残業が削減できます。

デメリット

・みなし残業制度を導入したからといって、労働者の労働時間管理を免除されるのではなく、健康管理や賃金計算のため労働時間を適正に管理する必要があります。
・固定残業時間を超えた場合は、使用者は超過分の残業代を支払う必要があります。
・固定残業代を超えた割増賃金は支払い義務があり、企業への債務として残り、未払い賃金として請求される可能があります。

みなし残業制度を導入する上で注意すること

基本給のうち固定残業分を明確に

「基本給のうち、残業20時間込み」というような求人を見たことはないですか? みなし残業が基本給に含まれているこのような求人は、基本給のうち固定残業がいくら支給されているかどうか不明確な表示といえます。

平成6年6月13日に判決がくだされた最高裁の判例では、”通常の労働時間の賃金に当たる部分”と”割増賃金に当たる部分”が判別できるようにするべきという趣旨の内容があります。

実際にみなし残業制度を採用した求人を行う際にも、基本給のうち固定残業分を明確にし、そのとおりに給与の支払いをする必要があるといえるでしょう。

また、厚生労働省からも固定残業代制を採用する場合に会社が求人票に明示すべき3つの事項が発表されています。

・固定残業代を除いた基本給額
・固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
・固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

労働基準法で定められている計算方法によって、実際の残業時間で残業代を計算し、みなし残業の固定残業がそれを上回っているか検証することが必要です。

固定残業分を試算しましょう

例えば、固定残業を除く基本給が160,000円で、月間所定労働時間160時間、1日あたりの労働時間8時間の場合で試算をしてみましょう。

160,000円÷160時間=1,000円が時給単価になります。

法定労働時間を超えた残業は、時間外労働といい、時給単価の25%割増になります。また、22時から翌日5時までの残業を深夜労働といい、深夜労働の25%に時間外労働の25%が加わるので時給単価は50%割増となります。

固定残業を計算してみましょう。月に30時間の固定残業を設定して、1250円×30時間=37,500円の固定残業の支払いをしているとします。

しかし、30時間の残業のうち、20時間の普通残業があり、10時間の深夜残業があったとしたら、下記の通り、実際に支払うべき固定残業は40,000円になり2,500円の支払い不足になります。

普通残業の計算が20時間×1,250円=25,000円
深夜残業の計算が10時間×1,500円=15,000円
25,000円+15,000円=40,000円←実際に支払うべき固定残業

この場合は、働き方改革関連法の改正で長時間労働の是正が求められています。

時間外労働の上限

さらに注意したい点は時間外労働の上限です。時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)複数月80時間(休日労働含む)を限度に設定しなければなりません。

みなし残業制度についても、原則の月45時間以内とする必要があります。筆者は月20時間から月40時間の範囲で設定することをおすすめしています。

運営上の注意点

最後に、みなし労働時間制を運営するうえで、注意したい点を紹介します。

・残業代の未払いが存在する企業であるブラック企業と見られないよう細心の注意を払うこと。
・みなし労働時間制を導入後も、労働時間管理は必須で、追加残業支払いや固定残業代について見直しをする仕組みを構築すること。
・従業員への過重労働対策や健康管理を行い、労使にとって良い制度に見直し、みなし労働時間制度の廃止の検討の余地を残すこと。

経営者と従業員が納得するかたちで運営できるように、従業員への配慮も忘れないように心がけたいものです。

 

みなし労働制度についてメリットとデメリットとともに、導入するうえで注意するべき点もあわせてお伝えしました。

百田尚樹著の小説『海賊と呼ばれた男』では、アメリカの石油メジャー祝賀パーティで主人公・国岡鐵造がスピーチをするシーンが描かれています。そのスピーチで国岡は次のように述べています。

「私がアメリカに来て驚いたことがある。それはどこの会社にもタイムレコーダーがあることです。これほど人間を信頼していないことはありません……(中略)……国岡商店には出勤簿さえない……(中略)……私は店員たちを信頼しているから、そんなものはいっさい必要がないと考えています。自分の社員も信頼できず、タイムレコーダーで縛りつけるようなシステムが、はたして本当の民主主義と言えるでしょうか。」

国岡鐵造の人間尊重と家族経営を表現した感動的なシーンです。もちろん、この物語は昭和30年の創業当時の話です。経営者はロマンティックであらねばなりませんが、その反面、算盤をはじく必要があるのです。

*【IWJ】Image Works Japan / PIXTA(ピクスタ)

【参考】
「海賊とよばれた男」下 百田尚樹著(講談社)ページ297