人材流出が止まらない!社員が次々と辞めていく中小企業の3つの特徴と改善策
とある中堅メーカー営業部長のつぶやきです。
「えっ!? Aさんに退職意向があるって?」
Aさんは半年前に中途で採用した社員だ。商品知識を覚えてもらい、ようやく先月からクライアントを担当し始めたばかりだ。部長はまた求人票を準備して、面接をして、導入教育をして、という一連の中途採用のプロセスを思い浮かべてげんなりしてしまう。
「ところで、なんでAさんは辞めたいの?」と、Aさんの退職意向を部長に告げにきた教育係のBさんに問うものの「いやぁ、どうなんでしょうか……」と、Bさん自身も覇気がない様子で答える。
「まさか、Bさんも退職したいのではないだろうか……」と、部長は不安を覚える。
少ない人数で事業運営を行っている中小企業にとっては、一人の社員の退職のダメージは極めて大きいです。退職や入社による人材の入れ替わりは企業が活性化するためにある程度は必要ですが、度を過ぎる人材流出はさまざまな弊害を生んでしまいます。
今回は人材流出が高い中小企業の特徴と、改善するための対策を紹介します。「いつも採用活動をしていて、本業に費やす時間が捻出できない」や「辞める理由が分からないので、手の打ちようがない」などとお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
人材流出が企業にもたらす影響
厚生労働省発表の『雇用動向調査』よると、ここ10年の企業の離職率(1年間で退職した人の割合)は15%程度で推移しています。もし離職率がこの値を大幅に超えているようであれば、要注意です。単なる退職というだけでなく、ネガティブな退職理由が根本的にある“人材流出”状態の可能性があります。
退職者が出ると中途採用で補充するかと思いますが、多くの企業が即戦力となる優秀な人材を必要としている中、中小企業が必要な人材を獲得するのは簡単ではありません。
退職者がいなければ発生しないコストもあります。リクルートの『就職白書2020』によると、中途採用一人当たりに発生するコストは約103万円と高額です。もちろん、採用や育成に費やす既存社員の人的コストも無視できません。
このように、人材流出は企業にとって、ネガティブな影響を与えがちです。
【もっと詳しく】離職率の計算方法は?
人材流出が続く企業の特徴
では、どうして社員は退職してしまうのでしょうか? 多くの企業では退職者に理由を聞くかと思いますが、ネガティブな理由については口を閉ざす人が多いのが実態です。筆者のコンサルティングの経験では、転職された企業側が把握している課題と、転職希望者への理由のヒアリングでは少なからず乖離がありました。
筆者の経験をもとに、表に出ない退職者の本音にスポットを当て、人材流出が高い企業の特徴を抽出します。
人間関係が悪い
人間関係の悪化は、退職理由の最も多い理由の1つです。一般的な企業では1日に8時間ほど職場で過ごします。リモートワークが主流となったといっても、仕事を共にする人間の影響はとても大きいです。
人間関係が理由での退職が多い企業には、“風通しが悪い”、“社員の愚痴を言う人が多い”、“部署間の対立がある”などの特徴が挙げられます。
さらに、見過ごせないのが、“マネジメント層との関係”です。単なる人間関係より、自分の評価決定者である上司への不満は退職意向へつながりやすいです。大手企業であれば人事異動で解消できるかもしれませんが、中小企業では上司への不満を解消するには退職という道しか残されていないこともあるでしょう。
労働条件が不満
労働条件の不満がある社員が、その改善を求めて退職をするというケースも多く耳にします。労働条件とは給与水準や労働環境のみを指すわけではありません。むしろ給与水準などはあらかじめ提示されているため、理解したうえで働いているはずです。
ここでのポイントは人事制度の“運用面”です。“給与が年功序列で成果に報酬があっていない”、“評価基準が不透明”、“フィードバックがない”などが人材流出しがちな企業の特徴です。
中途採用者の場合は、給与には納得したものの昇給方法や評価方法などの細かい運用は入社してみないと分からないはずです。入社して運用に不満を覚えて退職意向が高まるケースは多いです。
既存社員の場合は、何らかの不満の声は上司や周囲に漏らしている可能性はあります。しかし改善を要望したにも関わらず、変わらない会社への不信感が鬱積し、何かのきっかけで他社へ転職することになってしまうのです。
将来性が感じられない
将来性が感じられない環境を嫌う傾向は、若手層にとりわけ強いです。将来性は“企業の将来性”と“社員個人の将来性”を指します。
企業の将来性は、現在の業績だけを意味しているわけではありません。むしろ業績に対しての“姿勢”がチェックされています。業績が好調だったとしても、守りの姿勢が強すぎると将来性が感じられないと思われる場合もあります。また、業績が不調な場合も、今までのやり方に固執し現状打破する姿勢がないと、会社を見限る可能性が高いです。
社員個人の将来性は“個人の成長”と置き換えると理解しやすいでしょう。“上司の古いやり方を押し付けられる”、“個々人が勝手に動いていて組織知がない”などが代表的な意見です。会社にいてスキルアップが感じられないと、若手層は時間を無駄にしている感覚になり、もっと腕が磨ける環境を求めるようになります。
社員の定着率を上げるための改善策
では、上記で挙げたような、人材流出が続く企業の特徴に当てはまった場合、どのように対応すれば人材流出を防ぐことができるのでしょうか? 改善するための手掛かりを紹介しましょう。
メンバーへのヒアリング
人間関係を改善するためには、一気に全てを改善しようとするのではなく、まずは個々の問題から改善することが重要です。
特定の部署に退職者が偏っている場合は、その職場メンバーにヒアリングを行ってください。退職者は本音を言わないことが多いですが、現職のメンバーであれば問題を改善したいと願っているはずです。
ただしセンシティブなテーマでもあるので、ヒアリングに際しては以下の点に注意してください。
・現職メンバーに話を聞く際は1対1で行う
・特定の問題部署へのヒアリングではなく、全社的な風土改善という名目で行う
・匿名性を担保するなど、話したメンバーが不利益を受けないように配慮する
・人物名や問題場面などを具体的に話してもらう
ヒアリングを行うと、話してくれた社員のガス抜き効果も期待できます。少なくとも、“改善しようとしている”姿を見せることで、退職意向がある人が踏みとどまる可能性は高まります。
評価について話し合う場を設ける
労働条件の不満については、人事制度の運用を見直すことから始めましょう。人事制度は“賃金”、“等級”、“評価”が三位一体になっている企業がほとんどかと思います。このなかで最も打ち手を投じやすいのが評価制度です。
まず、評価制度の運用実態を把握するようにしてください。人材流出の多い企業は、“評価面談を実施しない”、“評価が一方的”など、運用がきちんとなされていないケースがほとんどです。
特に本人のモチベーションを左右する評価結果を伝える場面では、以下の点に留意してください。
・評価結果をその根拠とともに伝える
・メンバーの評価を上げたいと考えていることを伝える
・次に活かせる具体的な改善ポイントを伝える
・一方的に伝えるだけでなく、本人の認識も確認する
人事評価は本人が最も身近な人事制度です。上司と評価についての認識を共有できるだけでも、本人のモチベーションに好影響をもたらすのです。
経営者から全社員に向けて発信をする
多くの企業では期末には振り返りは行っていると思います。その際に、経営者から全社員に向けての発信は行っていますでしょうか? 一部の社員のみで行っていたり、経営者からの発信は行っていないという場合もあるかもしれません。
中小企業では、それぞれの社員が日々の業務に追われがちで、企業としてのこれまでの成果や今後のビジョンについて考える機会がもてないことも。このような状況では、将来性がないという不満につながりやすいでしょう。節目ごとに企業のトップである経営者自らが全社員に向けて発信を行うことで、社員は自分の行動を企業の成長とリンクして考えることができるのです。
全社員への発信の際は、未来志向の視点を盛り込むことよいでしょう。未来志向とは、“未来についてイメージすることでモチベーションを高く持つ”気質のことです。具体的には、以下の例のように、今期の結果を踏まえて、未来への連続性を示すことをおすすめします。
・「今期はここが反省点だ。だから来期はここを改善したい」
・「今期の業績は好調だった。ただ、足元の業績だけではく中長期のビジョンも忘れないでほしい」
全社的な振り返りの際に、経営者の方が未来志向の視点を取り入れて話すことで、企業や個人の将来性を社員に認識させることができるでしょう。
まとめ
人材流出は放置しておくと、退職者が退職者を呼ぶような“負の連鎖”まで事態は悪化してしまいます。
企業が退職者を減らそうとしている姿勢を見せることが第一歩です。まずは、人材流出が続く企業の特徴に心当たりがないかをチェックしましょう。そのうえで、該当することがあれば、本記事を参考に社員に寄り添った対策を講じてみてください。
【参考】
『2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要』 / 厚生労働省
『就職白書2020』 / 就職みらい研究
* Mills / PIXTA(ピクスタ)