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企業が副業を許可する場合の注意点

社員に「副業できますか?」と聞かれたら…副業解禁のメリット・デメリットと企業が許可する場合の注意点

2021.12.28

社員から「うちの会社は副業できますか?」と聞かれたら、あなたならどう答えますか? 「業務に支障がでるのでは?」などと不安に思うかもしれません。

しかし、世の中の流れは副業を促進する方向になっています。実際に、2018年に厚生労働省より『副業・兼業の促進に関するガイドライン』が改正され、『モデル就業規則』でも副業禁止の内容が削除されています。

本記事では、副業の許可を検討している企業に向けて、企業と社員にとっての副業のメリットとデメリット、そして副業を許可する際の注意点を社労士の筆者が解説します。

企業が副業を許可するメリットとは?

企業が副業を許可するメリット

会社が副業を許可するメリットは、下記のようなことが挙げられます。

・社員の定着率の向上(離職率の低下)につながる
・リフレッシュ効果により社内の活性化が期待できる
・社外で獲得した知識・スキルを、社内に活かせる
・社員が能動的に動けるようになる
・多様な人材採用が可能になる

企業が副業を許可するデメリット

社員への副業の許可を検討しているのであれば、デメリットも知っておきたいです。企業の副業許可に対する懸念はどういったものがあるのでしょうか?

日本経済団体連合会の『2020年労働時間等実態調査の集計結果』によると、副業を認めている企業は全体の22%という結果が出ています。さらに、従業員規模別にみると、中小企業の多くが該当する100人~300人未満は15%、100人未満は13%となっています。働き方改革やコロナ禍を経験しているものの、副業の企業文化はあまり進んでいないことが伺えます。

少し前のデータになりますが、独立行政法人『労働政策研究・研修機構の調査』(2018年9月11日公表)によると、「副業・兼業の許可する予定がない」と回答した企業の副業・兼業を許可しない理由(複数回答)は、下記の通りです。

「過重労働となり、本業に支障をきたすため」82.7%
「労働時間の管理・把握が困難になる」45.3%
「職場の従業員の業務負担が増大する懸念があるため」35.2%

その他企業が副業を許可しない理由として、「情報漏えいの心配」や「問題が起こった場合のブランドき損」も考えられます。

ちなみに、筆者も会社員であった時代に、副業をしていました。実家が小さな運送業を営んでいまして、土、日の休日に引っ越し業務の手伝いに行っていました。実家への断る理由も思いつかず、会社への報告義務ということも思いつかず、会社には黙ったまま、副業をしていたことになります。

日頃、事務職で体を動かさない筆者からすると、日曜日の引っ越し副業の翌日の就業日は、体がきつくてぐったりしていた記憶があります。

【もっと詳しく】リスクから考える副業の制度整備のポイント

個人が副業を始めるメリットとは?

個人が副業を始めるメリット

企業が社員の副業を許可する上で、なぜ社員が副業を希望するのかも把握しておきましょう。個人が副業を始めるメリットは、以下の点が挙げられます。

・本業以外で収入を得られる
・空いた時間を有効に使える
・本業では得られない知識やスキルが得られる
・新たな人脈をつくることができる
・好きな仕事をすることで満足感が得られる

個人が副業を始めるデメリット

また、副業を許可する前に、副業をすることによって社員にどのようなデメリットがあるかを認識してもらったほうがよいでしょう。個人が副業するデメリットとしては以下のようなことがあります。

・本業とのバランスをとりながら、体調管理をし、適度な休息・睡眠の確保することが難しい
・心身の疲労、ストレスから本業に影響する場合もある
・会社から認められない場合、発覚すると懲戒処分となる
・確定申告などの手続きの義務が発生する

企業が副業を許可する場合の注意点

さまざまなメリットやデメリットがある副業ですが、現実には、副業を希望する社員が増えているように感じます。副業を許可しようと検討している企業は、どのようなことに気を付けるべきでしょうか?

副業の規程を整えよう

副業を希望する社員の中には、勤務先が副業を禁止しているため(あるいは許可が出ないため)、隠れて副業する社員も少なくありません。このように、隠れて副業することを“伏業”と呼ぶことがあります。

“伏業”は社員の副業の実態を把握できないため、労働基準法違反や情報漏洩など、企業にとってさまざまなリスクがあります。自社の社員が“伏業”をしないためにも、企業はできるだけ副業を受け入れ、その意図を明確にしておくべきです。具体的には、収入補てんのための措置なのか、もしくは、人材育成や啓発を促すための制度なのかによって、社員の副業の捉え方は異なります。

また、社員の副業を把握するためには、副業を許可制にし、許可基準を明確にしておいたほうがよいでしょう。例えば、会社情報漏えいの危険がないこと、本業の妨げにならないこと、などです。

このように、副業を許可する場合には、“許可申請手続”、“許可基準”をはじめ、“報告義務”、“許可の取消し”といった規程が必要になってくるでしょう。

実際に、運用が始まった場合には、個別の対応が求められるケースもあります。よく問題になる点としては、時間外・休日労働の命令、労働時間管理、職務専念義務の確認、情報管理の徹底などです。労働時間管理については、のちほど説明するので参考にしてみてください。

【こちらの記事も!】隠れて副業をする「伏業」とは?リスクから考える副業の制度整備のポイント

副業時の労災保険を把握しよう

社員をもつ企業が加入する必要がある労災保険についても、社員の副業の場合の対応を把握しておいた方がよいでしょう。基本的に労災保険は、社員1人でも加入する必要がある制度のため、自社・副業先の両方で加入することになります。

副業をしている社員に労災保険を給付する際は、すべての雇用先の賃金額を合算した額を基礎として、保険給付額を決定します。詳細は、下記記事も参考にしてみてください。

【こちらの記事も!】副業・兼業の労災はどうなる?複数社での雇用者やフリーランスの労災保険をわかりやすく解説

副業・兼業ガイドラインのポイント整理(2020年9月改定)

企業が副業を許可するにあたって気になることに、社員の労働時間の管理があります。

2020年9月に改正された『副業・兼業ガイドライン』(正式名称:『副業・兼業の促進に関するガイドライン』)では、企業や個人が安心して副業・兼業に取り組めるように、労働時間管理や健康管理等について示しています。

ここでは、同ガイドラインでの企業の労働時間管理のポイントをご紹介しましょう。

労働時間や割増賃金の考え方

法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)や時間外労働の上限(上限単月100時間、複数月平均80時間)は、労働時間を通算して適用されます。

時間外労働の割増賃金は、本業と副業を通算し、時間外労働の上限の範囲内で割増賃金を支払うとしています。

労働時間が通算されないケース

労働基準法が適用されない事業主、委任、請負、フリーランスなどは、労働時間を通算されません。また、労働基準法が適用されても、労働時間規制が適用されない場合*は、労働時間は通算されません。なお、申告等による就労時間を把握することで、長時間労働にならないように配慮することが望ましいとしています。

*農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密文書取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度の者

副業の労働時間管理の方法

使用者は、労働者からの申告により、副業・兼業の有無・内容を確認します。その方法として、就業規則等に副業・兼業に関する届出制を定める必要があるとしています。

【こちらの記事も!】雇用副業の場合:労働時間の計算や割増賃金の支払はどうなる?

最後に:中小企業こそ副業を検討すべき

2021年9月、オンラインで開催された経済同友会において、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏が「45歳定年制にして、個人は会社に頼らない仕組みが必要です」と発言して、話題になりました。発言の翌日に同氏は「45歳は節目であり、自分の人生を考え直すことは重要。早い時期にスタートアップ企業に移るなどのオプション(選択肢)をつくるべきだ」と説明しています。

“新卒一括採用、終身雇用、企業内組合”という日本に根差された人事制度や風土があり、これに反した発言をすると反発にあうことも。しかし、この人事制度や風土は同社のような大企業でも崩れつつあるのです。人材不足に悩む中小企業の経営者は、多様な働き方のオプションを真剣に考えなければなりません。

人には、会社人の側面だけではなく、家族人、地域人、趣味人、友人などの側面があり、さまざまな活動をしています。これと同じように、本業の会社人以外の副業を認めることで、創造力を向上させることができるのではないでしょうか?

複線型人事制度(管理職、専門職、勤務地限定制度、契約社員制度、社内ベンチャー制度、役職定年制度)だけでは、社員のニーズの対応できない時代になったのかもしれません。中小企業こそ副業を含めた多様な働き方に舵を切りたいものです。

【参考】
2020年労働時間等実態調査の集計結果』 / 日本経済団体連合会

多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)』 / 独立行政法人労働政策研究・研修機構

 

* EKAKI、zon、IYO、freeangle、8×10  / PIXTA(ピクスタ)