登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 副業・兼業の労災はどうなる?複数社での雇用者やフリーランスの労災保険をわかりやすく解説
労災

副業・兼業の労災はどうなる?複数社での雇用者やフリーランスの労災保険をわかりやすく解説

2021.12.24

副業やフリーランスなど多様な働き方が増える中、労災保険も錯雑になっています。例えば、複数の事業場で雇用されている場合はどの事業者での労災と判断されるのでしょうか? また、労働者ではない事業主やフリーランスは労災保険の対象となるのでしょうか?

今回は、副業やフリーランスなど多様な働き方における労災保険を整理していきましょう。

労災保険とは

経営者の方から「労災保険には、誰が入っていますか?」とよく質問をいただくのですが、社会保険が人単位に対して、労災保険は事業所単位で加入しています。よって、パートタイマー、アルバイトすべての労働者について、労災保険は適用されます。

労働基準法では使用者に対して、労働者の業務上の負傷した場合の治療費の負担や休業補償などのさまざまな災害補償義務を課しています。この災害補償義務を国が運営する保険制度として、被災者や遺族に対して、所定の保険給付が行われるのが労災保険(労働者災害補償保険)です。被保険者という言葉は使わず、労働者かどうかで保険給付が決定されます。

労災保険の適用事業とは

原則として、一人でも労働者を使用する事業は、事業開始時に法律上当然に労働保険が成立しています。これを強制適用事業といいます。例外として、下記の場合は別の取り扱いになります。

労災保険の例外となる場合

1)暫定任意適用事業
保険加入をするかどうかについて事業主の意思および政府の許可によっている事業を暫定任意適用事業といいます。小零細企業を一挙に強制適用事業とするのは、事務処理体制等での面で困難があるため、農業・畜産・養蚕などの労働者が常時5人未満の個人事業などが、当面の間、任意適用事業とされています。

2)適用除外
国の直営事業(国有林野、日本銀行券国債等の印刷及び造幣事業)に関しては労災保険とは別の国家公務員(地方公務員)災害補償法の適用となるため、二重補償を防ぐ目的で労災保険への加入はできません。前述した3つの事業以外でも、国や地方公共団体の事務を行う事業も労災保険の加入はできません。

3)特別加入制度
労災保険は、労働者のためのものなので、通常は事業主やフリーランスは利用できません。ただし、一定の要件を満たせば、事業主やフリーランスなどが特別に加入できる制度があり、これを特別加入制度といいます。次の項目で詳しく説明します。

特別加入制度とは

労災保険は、労働者が仕事または通勤によって被った災害に対して補償する制度です。労働者以外でも、国内労働者に準じて保護するにふさわしい者であるとして、一定の要件を満たす場合に任意加入でき、補償を受けることができます。これを“特別加入制度”といい、以下の者に限られています。

・第1種特別加入者:中小事業主及びその事業に従事する家族従事者または法人役員などが特別加入できます。
・第3種特別加入者:海外派遣者は、外国の制度の適用範囲や給付内容が十分でないことから、特別加入としてすることができます。
・第2種特別加入者:一人親方、その他の自営業者の者及びその事業に従事する者で、仕事の危険度、業務上かどうかの判定が明確になされうるか、次の者に、限定列挙で特別加入が認められます。
・運送業(個人タクシー、個人貨物輸送業者)
・建設業の一人親方
・漁船による自営業者
・林業の一人親方
・医薬品の配置販売業者
・再生資源取扱業者
・船舶所有者
・家内労働(金属等の加工、洋食器加工作業など)
・事業主団体等委託訓練受講者 など

なお、2021年4月1日から、下記の対象の方は、労災保険の特別加入できるようになりました。

・柔道整復師
・アニメ製作者
・ITフリーランス
・芸能従事者
・自転車を使用して貨物運送事業を行う者(宅配デリバリーなど)
・高年齢者の創業支援措置に基づき事業を行う者

※ 創業支援等措置とは、高年齢者雇用安定法による65歳から70歳までの就業確保措置のうち、労働者でない働き方をいいます。具体的には、継続的に業務委託契約を締結する場合や事業主が実施、委託、出資する社会後継事業に従事する場合となります。

副業の場合の労災保険は

副業には、“複数の事業場で雇用されている場合”と“雇用されている事業場とは別でフリーランスとして働いている場合”の2パターンがあると思います。

前者については、原則として、副業で雇用されている場合であれば、自社・副業先での双方加入となります。後者の場合、特別加入の手続きをしない限り、副業中の労災保険の補償はありません。

労災補償保険法の改正のポイント

労災補償保険法が2020年9月1日から下記のよう改正実施されています。

・けがや病気が発生したときに、特別加入している方や複数の事業場で就業している方も対象です。
・複数事業労働者の労災保険給付は、すべての就業先の賃金額を合算した額を基礎として、保険給付額を決定します。
・1つの事業所で労災認定できない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定できる場合は保険給付が受けられます。
・副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となります。

雇用保険や社会保険の扱いについて

その他、雇用保険や社会保険の扱いについては下記のようになっています。

・雇用保険
主たる事業主で加入、週20時間など要件を満たさない場合、原則として未加入になります。
しかし、2022年1月より、65歳以上労働者本人の申出の起点として、1つの雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、2つの事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されます。

・社会保険
適用要件は、労働時間は通算せずそれぞれの事業所ごとに判断します。自社および副業とも要件を満たした場合、各事業所の報酬を合算して標準報酬月額を算定して、保険料が計算されます。

フリーランスに業務委託する場合にも労災が必要?

企業によっては、フリーランスとして活動している相手に業務委託契約などでして業務を依頼することも多いでしょう。その場合、業務委託をした相手の働き方によっては労働関係法令が適用され、労災などの適応が必要となる場合があるので注意が必要です。

政府から『フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン』が公表されています。“フリーランス”とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験やスキルを活用して収入を得るものとしています。

フリーランスとして請負契約や準委託契約などの契約で仕事をする場合であっても、契約の名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、労働者かどうか判断され、労働関係法令(労災保険や雇用保険を含む)が適用されます。労働基準法における労働者性の判断基準は、次のようになります。

1)「使用従属性」に関する判断基準
①「指揮命令下の労働」であること
a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する許諾の自由の有無
b.業務遂行上の指揮監督の有無
c.拘束性の有無
d.代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
②「報酬の労務対償性」があること

2)労働者性の判断を補強する要素
①事業者性の有無
②専属制の程度

その他、労働保険を適用されていること、福利厚生を利用していること、採用の選考過程が正社員と同じであること、就業規則が適用されることや報酬が給与所得として源泉徴収をおこなっていることも、労働基準法の労働者性の判断要素とされる場合があります。

【こちらの記事も】業務委託やフリーランスでも労働関係法令が適用されるってどういうこと?

まとめ

業務災害に対する補償は、もともと労働基準法により行われるものでありますが、労働基準法による災害補償は、使用者の補償によるものであるため、使用者の補償能力によっては、確実に補償されないこともあります。それに比べて、労災保険は、保険形式を採用し、補償が確実に行われます。

例えば、交通事故で自賠責が利用できない時でも、被災者の負傷が業務上の事由または通勤によるものであれば、治療費、休業補償などといった労災保険の給付がされます。使用者にとっても、雇用者にとっても、仕事をする上で最強の保険制度として、労災保険を再認識していただければ幸いです。

* 【IWJ】Image Works Japan、umaruchan4678、タカス、CORA / PIXTA(ピクスタ)