
新年度から新入社員を迎えた企業では新人研修期間を終え、配属先のOJTに入っている頃かもしれません。今回は昨今の学びの考え方から新卒研修の効果を最大化するための“場づくり”や、経営者を始めとした社員が担うべき“役割”について考えていきたいと思います。
目次
変わりゆく”学び”の重要性
発達心理学における成人発達理論では、「ひとは、社会に出てからも生涯成長・変容し続けることができる」といわれています。そのため、生涯の多くの時間を過ごす“職場”でいかなる学びにより、自己を成長させていくかが大切です。成長を促すためにも、企業としては、一人ひとりが主体的に考え“選択”していけるような人事システムを考えていくことが重要となります。人事システムの一つである教育体系に関しても、どのような種類の場を設けるのか、どのように実施するのか(リアル・オンラインなど)、時代の変化を捉えて見直していく必要があるのです。
現在、教育界では、主体性を重視した新しい学びのあり方が模索されています。変化が激しく予測不可応な時代において”生きる力”を育むことを軸に、アクティブ・ラーニングや探求学習などによって、自らが考え、対話しながら学んでいくことを大切にしているのです。新しい学習指導要領のもとで授業を実施しているある先生は、インタビューで「子どもたちの答えを引き出すことを大切にするが、それを誘導しないようにする。そして、その想いを引き出す質問に集中するようにしている」と述べていました。
これまでの学校のように「答えを持っている先生から一方的に学び理解する」といったスタイルではなく、先生や仲間とのコミュニケーションの中で主体的に考え、答えを導き出す過程から知識・技術だけではない”しなやかに生きる力”を育んでいくのが、学校という場になるわけです。そのため、職場も同じように、上司から一方的に答えを得ようとするのではなく、自らどのように仕事の進めていくかを考えられる社員を育成していくことが大切になってくるのではないでしょうか。
”場”が変わると、そこにいる”役割”も変化する
会社で考えると、会社という場とともに、経営者を始めとした社員たちも変わっていく必要があるということです。そして、主体的な学びを得て成長してきた若者たちが新入社員として社会へ出たときに、その学びを活かし、伸ばしていけるような場を築くことが大切です。職場が一方的に学ぶような従来の学びを重視した状態だと、ひずみが生じ、「この会社は合わない……」と感じてしまい、せっかく採用した新入社員が早期離職してしまうという可能性もあります。
「社会構造が変わると、教育が変わり、職場も変わる」。これはデジタルファシリテーターの田原真人さんの言葉です。まずは今の社会を生きる私たちが、社会の変化を捉え、従来の考えから変化し、リーダーが先生的な役割をするなどを自己認識しましょう。そして、これからの未来を見据えた学びの形を職場に創り出していくことが必要なのです。
企業が未来を見据えた学びの場をつくるには
では、そのために何が必要なのでしょうか。
まず前提として、新人研修を先導する管理職・人事部が、”ファシリテーターの役割”を意識しましょう。ファシリテーターの役割とは、従来の一方的に教えるようなものではなく、個人の考えを引き出すように促すことです。メンター制度の際も、メンターにはファシリテーターの役割を意識し、新入社員の成長を後押しできるようにしましょう。
ここで大切なのは、単に「ファシリテート=促す」だけではなく、”介入”したり、全体を”俯瞰”したり、各所を”調整”したりするという点です。管理部門や経営者、リーダーも、いかにファシリテーター的なリーダーシップを発揮し、職場で生じる課題を見極め、解決のための働きかけを担えるかという点が重要です。そこには、「これを自分が担うんだ」「自分は愛着をもって取り組むんだ」という真の想いが必要になりますし、虫の目・鳥の目の両面をもったメタ認知力も重要でしょう。
加えて、会議や面談の進め方などの”ファシリテーション技術”や、お互いの得意・苦手を認識し受け入れて他者との連携をはかる”コラボレーション力”も必要です。まずは管理職・上司がこのようなファシリテーター的リーダーシップを身に付けられるような学びの機会を、座学ではなく体感の場も含めて組み立てていくことが重要であるといえます。
新人研修で意識するポイント
新人研修を運営する社員たちの役割を組み立てた後、実際に新入社員を対象とした新人研修においては、①体感、②対話、③振り返りの3点を意識しましょう。
①体感
新人研修の内容は、自社で業務を進める上で必要な情報・知識を一方的に伝えるだけにならないようにしましょう。講座形式の場合は、聞くだけにするのではなく、ワークシートなどを用いて手を動かすようにするなどがおすすめです。ときには、場所を変え、屋外に出るなど体を動かしながら学ぶ状況をつくることもよいでしょう。
②対話
研修の内容を踏まえ、グループワークといった対話の時間を設けましょう。対話とは、それぞれが考えている意見を出し、話し合い、ともに考えることです。そうすることで、自分の考えがブラッシュアップされたり、新しい気づきを得て、視野を広げたりすることができるのです。そのため、新人研修では、気づきやアイデアを伝え合う機会を盛り込むようにしましょう。
③振り返り
研修を終えた後も、一か月・三か月・半年と定期的に、振り返りの場を設けましょう。ここで役割を発揮するのが”ファシリテーター(メンター)”の存在です。日誌などを使い、内省の時間を個々にとらせることは重要ですが、とくに新人時代は、一人で内省を続けていると次第に視野が狭くなったり、ポジティブに思考を転換することが難しくなったりします。思考のガイド役として、メンターがファシリテーターとして伴走していく体制をつくりましょう。たとえば、新人研修の期間は、毎週に数回など1on1の時間を設け、メンターと新入社員が振り返りをする時間を取り入れるとよいでしょう。
社員体験価値をあげることも重要
Employee Experience(従業員エクスペリエンス)という考え方があります。入社日、新人研修、配属されたときなど、採用から入社・配属のプロセスだけでも多くの”体験”が生まれ、そこで生まれた価値はプラスにもマイナスにも作用します。プラスに作用させるためにも、入社時や配属時には、ウェルカムな空気を演出しておく、新入社員自身が職場の仲間のことを知る機会をつくる、分からないことがあったら誰に聞くとよいのか、何を調べるとよいのかなど基本的な業務情報は明確にしておくなど”働きやすい職場環境”を整えておくことが重要です。
まとめ
最後に、組織は機械ではなく”生き物”です。体感の学びも含めた新たな教育体系を構築し、まずは実践をしながら、職場の状態の変化や個々の社員の成長度合いに応じて、軌道修正・見直しをしていくことも重要となります。そのためにも、経営者をはじめとした社員は、未来を見据えた学びの場をつくれるよう、役割を意識するようにしましょう。
*Turn.around.around / PIXTA(ピクスタ)
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