
事業再生の進め方とは?経営者が常時から持つべき視点
「事業再生」という言葉にどんな印象を持たれるでしょうか?
どういった財務状況から“事業再生“で、どこから“業績改善“なのか定義は非常に難しいのですが、経営者は企業経営をしている以上、現状に甘んじることなく業績を持ち上げていくことが使命です。
前回は「事業再生の基礎編」として、重要な視点と全体像をお伝えしました。
今回は少しだけ踏み込んで、経営危機のみならず業績が安定している平時においても持つべき「大事な視点」を述べたいと思います。より実践的な内容になっていますので、納得できるものがあれば、一つでも多く自社の経営施策に役立てていただければありがたいです。
目次
事業再生において忘れがちな視点
事業再生において忘れがちな視点とはなにか? もったいぶらず、単刀直入にいいます。それは、「個人資産を含めた時価評価」です。つまりは、法人・個人合算の時価に置き換えた貸借対照表を常に決算毎に考えるということです。
一見簡単なようで、難しい面もあります。しかし、いざ経営がバックギアに入ってからは、冷静な判断や計算ができなくなることがあるので、平時からきちんと法人個人合算で、本当の純資産額を把握しておくことが大切です。
つまり、平時から常に個人資産も含めて、
「今、現金化でき得る何を持っているのか?」
「いざ、経営がバックギアに入ったら何をどの順番で現金化するのか?」
という視点を持つことが重要です。
なお、この場合、個人資産の範囲は代表者自身だけではありません。特に、事業再生フェーズの場合は代表者の両親や代表者の配偶者とその両親の資産も、一覧表に記載できるのであれば生命線の一つとなり、金融機関の支援獲得においてはプラスの面しかないこともお伝えいたします。
経営者自身が企業の所有者(オーナー)であり、経営のかじ取りを担っている立場であることがほとんどです。要は所有と経営が分離されていることは稀です。
そのため、法人代表者個人の資産背景が、金融機関の継続支援のカギとなるという日本特有の事情も押さえておくべきと考えています。
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実態は資産超過?債務超過?
年商10億円規模までの中小、零細企業に、保有する未稼働及び遊休資産があるケースは意外にも多いといえます。製造業においては、稼働率が著しく低い設備。直接営業に影響しない所有不動産などが例としてあげられます。
次に、ゴルフ会員権、リゾート会員権は企業の経営が好調時には、営業マンからの攻勢に耐えきれず、購入してしまっていることがよくあります。これらも、いざという時は売却対象となります。
さらにいえば、以下のポイントを踏まえて、法人個人合算の貸借対照表をシミュレーションできていれば、転ばぬ先の杖となります。
- 時価に換算できるものはできる限り時価評価しておく
- 個人資産においても同じ
- 誰の個人資産まで計算するかはそれぞれの事情によるが、できる限り多く正確に把握しておくことに越したことはない
- 経営の「いざ」という局面にどんな個人資産を現金化して投入できるかは、経営者の交渉力や一族全員のスタンスによるところが大きいのであらかじめ交渉しておく
補足ですが、上記を踏まえ、本当の純資産額を決算期毎に計算しておくことをおすすめします。ちなみに金融機関は毎期決算後に融資対象企業の、本当の純資産額の計算作業を行い、債務者としての格付が算出され、リスク度合いに合わせた基準金利や、融資限度額の目安が設定されています。この事実をシビアに、経営者は理解すべきと考えます。
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二つの考え方で本当の純資産額を計算しておこう
考え方1:事業継続時の本当の純資産額=存続価値
事業継続時の本当の純資産額=存続価値を「継続B/S」と呼んだりします。一番のポイントは、経営に必要な不動産や機械設備は簿価のままということです。なぜかというと、単純に処分しないからです。処分すれば営業がままならなくなるわけですから、簿価のままでOKです。遊休不動産は路線価を元に計算します。販売手数料や、場合によっては解体費用などもかかり、急いで売る場合の減算分なども考慮し、現実的な販売価格の70%程度の評価が妥当といえます。上場株式は時価で評価できます。ただし、換金性の乏しい関係会社株式などはゼロ評価です。
考え方2:事業廃業時の本当の純資産額=清算価値
事業廃業時の本当の純資産額=「清算価値」を算出してみましょう。基本的に存続価値と同様の算定方式です。しかし、廃業・清算を前提に評価するわけですから、営業に関連する設備や不動産も全て売却を想定して時価評価します。
この二つの純資産額を計算し、どこまで個人資産を入れられるかで、経営されている自社の本当の純資産額がはじき出されます。
財務的に「いくら余力があるのか?」を把握せずして、施策を考える経営者は往々にして、身の丈以上の積極投資に走りがちです。自らの財務的体力を個人資産も含めてシビアに計算できる経営者が生き残り、企業を発展させていく可能性が高いといわざる得ません。
売却処分のあるべき順序
ひとつの目安ではありますが、売却処分・現金化の順序を提示します。
①法人の未稼働、遊休資産
②代表者個人の資産
③代表者配偶者個人の資産
④その他一族の資産
事業再生において「貸借改善」「損益改善」の二本柱であると前回述べました。今回は「貸借改善」分野の最初の一歩である、現預金量増加のための資産処分へつながる考え方と具体策について書きました。この一連の処分で得た現預金や借入、個人資産から調達した虎の子の資金をどのように積極投資して売上を向上させていくのかという「損益改善」の分野に突入していくというのが、事業再生のおおまかな時系列といえます。
【前回の記事はこちら】業績が悪い…事業再生はどう進める?重要な視点を経営コンサルタントが解説
リストラの種類を理解する
これから不況の時代といわれており、否が応でも事業再生フェーズの企業は増えてくるでしょう。しかし、「リストラ」と聞くと、ネガティブなイメージが湧きませんか? 実は「リストラ」とは必ずしもマイナスな意味ではないという側面があります。事業再生フェーズにない正常な経営を続けていく企業にも「リストラ」は大切ですし、企業の改善の中で実は実施していたということがあるはずです。
元来、「リストラ=リストラクチャリング」であり、「(前向きな)再構築・構造改革」という意味合いです。概念的な部分もありますが、今回は少し視点を上げて、リストラの意味を正しく捉えていただければと思い書きます。たとえば、今自らが経営改善の施策に取り組んでいる場合、「どのリストラのどの部分に取り組んでいるのか?」という全体像から目の前の施策が何に位置するかが分かるはずです。
苦境にある企業経営者の方のみならず、通常の経営状態の経営者や事業主の方々にも読んでいただきたい内容です。
3つのリストラ
繰り返しになりますが、苦境に陥っている企業はいうに及ばず、通常運航の企業にもリストラは必要なケースも大いにあります。弊社は財務コンサルティングが軸ですので、3期分の決算書類や金融機関返済予定表などの書類から現状、実態の分析を行い、経営計画の策定、処々の資金繰り改善施策を実行していくという流れが王道です。なので、必然的に財務リストラが当初、実行していく施策となることが多いといえます。
リストラは以下の3点です。実はわりとシンプルです。
1. 財務リストラ
資産リストラ・・・遊休不動産、有価証券の売却。貯蓄性保険の解約。不良在庫の処分・現金化。売掛金や手形の流動化など。
負債リストラ・・・有利子負債の圧縮による支払利息の軽減。広義の意味では借入再編も該当する。代表事例はDES(債務と資本の交換)。
資本リストラ・・・DESも該当するが、減資も意味合いとしては該当する。繰越欠損金をなくす代わりに、資本金を減少させ、利益配当を出しやすくするケース(年商10億円規模までの中小、零細企業においては稀ではある)。
2. 業務リストラ
売上の向上
年商10億円規模までの中小、零細企業においては自然体の案件積上げ型の経営が多いため、マーケティング戦略・ブランド戦略・顧客管理に真摯に取り組むことで思わぬ効果が見込めるケースもある。社外リソースと社内リソースの結合から発生する「オープンイノベーション」の概念も近年注目されている。
売上原価の圧縮
仕入れ価格の見直しや、製造工程の合理化、工事原価管理など、「言うは易く行うは難し。」ではあるが、真剣に取り組めば一定の効果が必ず見込める。
経費の節減
販管費の合理化ができていない場合が多い。役員報酬の削減、人材の客観的な見直し、合理化、業務システムの見直し。自社の意思で取り組める、事業所の統廃合、本社(本部)の縮小、家賃値下げ交渉。損金性の高い保険の見直し、接待交際費、通信費など
3. 事業リストラ
4つの利益で事業を評価する(事業評価の切り口)
- 限界利益
- 管理可能利益
- 事業部利益(貢献利益)
- 全社純利益
事業整理10のチェック項目(判断軸)
- 収益性
- 成長性
- 安全性
- 市場でのポジショニング
- 価格競争力
- 商品、製品
- 技術
- 他の事業との関連性
- シナジー効果への影響
- 事業縮小、撤退の清算価値
※不採算事業のリストラは経営資源が限られる中小企業においては特に、改善効果はリストラ策の中で最も高い有効打になるケースが頻繁にある。
まとめ
2回に渡って「事業再生」をテーマに具体論を交えて、考え方やノウハウを記述しました。事業再生という分野はあまりにも幅広く複雑で困難な局面の連続のシビアな世界です。経営資源が限られる中小企業の経営において、役立つであろうポイントに絞って、できる限り分かりやすく書いたつもりです。
事業再生フェーズに陥らない経営が理想ではありますが、急激な外部環境の変化に常にさらされ影響をもろに受けてしまうのが中小企業経営です。できる限り多くの企業経営者の業績改善へのヒントやきっかけになることを願っております。
【前回の記事はこちら】業績が悪い…事業再生はどう進める?経営コンサルタントが解説
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