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経営者

コーポレートガバナンスとは?中小企業で今から取り入れるべき事項を経営コンサルタントが解説

2023.05.01

筆者が懇意にしている経営者の方から「コンプライアンス対応の研修を受けている時に『将来上場を目指しているなら今のうちに会社のガバナンスについて整備しておいたほうがよい』というアドバイスをもらったが、当該の研修ではガバナンスについては詳しくは触れてくれなかったため、いまいち判然としなかった」という質問を受けました。ガバナンスの整備の必要性を説かれても、具体的に何をしていくべきか分かりづらいことが多いのではないでしょうか。

上場を望んでいないとしても、コーポレートガバナンスの導入は自社の成長に寄与すること間違いなしです。そこで、本稿では中小企業で検討するべきコーポレートガバナンスの取り入れ方や優先事項などを解説します。

コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業がステークホルダーを考慮して透明かつ公正な意思決定を迅速に行うための仕組みのことです。また、株式会社東京証券取引所が出しているコーポレートガバナンスの主要な原則をまとめた”コーポレートガバナンス・コード”には以下の内容が説明されています。

1.株主の権利・平等性の確保
2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3.適切な情報開示と透明性の確保
4.取締役会等の責務
5.株主との対話

以降は、全体では補足すべき事項や原則1~5それぞれを実現するための取り組みを紹介しています。

【参考】コーポレートガバナンス・コード / 株式会社東京証券取引所 

中小企業におけるコーポレートガンバナンスの取り入れ方

上記で紹介しました東証のコーポレートガバナンス・コードは上場を目指す企業向けに用意されたものです。企業として、成長を目指すのであれば可能な限り遵守すべき事柄でしょう。

そこで、中小企業の経営者として考えるべきことは、自社の規模や成長度を照らし合わせて、まずはどの範囲を自社に適用する必要があるのか、どの部分から順に着手していったらよいかを考えることをおすすめします。いざ必要となり、検討し始めても、準備・導入・運用にはそれ相応の時間も労力も必要とします。そのため、環境整備が組織の状況に追いつかず、社内に混乱を招いてしまう可能性もあるのです。繰り返しになりますが、現在地と直近の事業計画をもとに、必要な適用タイミングと導入準備および期間について事前に検討しておくようにしましょう。

中小企業にとって優先的に取り組むべき事柄

上場を具体的な計画までは織り込んでない状態であれば、上記の基本原則1・5については、中小企業一般としては時期がくるまでは整備する必要性は高くないでしょう。株主の数も多いことや、株主自体が経営者本人または経営者を含む数名・数社程度で構成されていることが多いためです。では、その他の原則についてはどのように対応していったらよいでしょうか。コーポレートガバナンス・コードの内容をもとに考えていきましょう。

原則2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働の詳細について

 2-1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
2-2.会社の行動準則の策定・実践
2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題
2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保
2-5.内部通報
2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮

これらはどれも組織として活動する形になってきたら早めに整えるべきでしょう。個人の行動が常時お互いに見えている状況を越えてきたら策定していったほうがよいと考えます。

とくに、2-1および2-2については経営者が直接監督できない場面で、従業員が意思決定する際、どのような基準で判断・行動してほしいかを明確することができます。もちろん、普段のコミュニケーションや言動から察してほしいと思う経営者の気持ちもあるかもしれません。しかし、明文化して共有することでよりチームワークを強固にできるのです。

また、2-3もできるだけ早く策定しましょう。環境面への配慮や災害リスクの対応は市場・顧客に知られてしまうと一気に信頼を失う可能性があります。昨今はSNSの拡散も侮れません。どこで・誰が・どのような関係者の行動を見聞きして広めてしまう可能性があります。そのようなリスクが常時あることを前提に、策定を検討しましょう。

2-4については、人材不足に悩む企業では取り組むべき問題であり、できるだけ早めに対応することで多様性に富んだ人材を揃えることができます。また、他の企業での就業ができない制約に悩んでいる方たちに効果的な求人をだすことができれば、有能さを発揮する人材を獲得できる可能性もあります。この検討の役に立ちそうな記事を過去にご紹介しておりますので、ぜひご参考になさってください。

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2-5は、社内に法務や人事の担当者が専任で配置できるようになった段階で匿名の相談先を用意しておきましょう。言いにくい仕事場の問題を伝える窓口となります。筆者もそうですが、人はリスクを侵すことは恐れるものです。告げ口の犯人探しをされることなく懸念を共有できる仕組みを構築するだけでも、いい意味で注意喚起にもなります。可能なタイミングが来たらすぐにでも用意するべきでしょう。

2-6は、早い方が従業員には喜ばれますが、上場の具体計画タイミングでもかまわないと筆者は個人的に考えます。

原則3. 適切な情報開示と透明性の確保の詳細について

 3-1.情報開示の充実
3-2.外部会計監査人

3-1では、以下のように説明されています。

上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、 (本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。

(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する 基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候 補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明

上記5項目は経営者以外の従業員が一人でも加わったタイミングから明文化を検討しましょう。組織内の基礎となる信頼関係を築く部分になります。組織での決定事項が組織の成長や健全性のために行われていることで、関係者に信頼してもらうための最も基盤となる決めごとです。念のため述べておきますが、企業は経営者の所有物ではありません、関わる人も含め、ある程度は公的な存在として考えるべきです。組織の基本方針が個人の希望ではなく、「組織にとっても必要か?」という基準から判断されていると明確に示すことが重要です。

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3-2については、監査役会の設置や外部監査法人の採用を求めています。これは上場準備段階に入ってからの検討で充分でしょう。信頼できる税理士や公認会計士の方にしっかりと財務内容を監督いただき、アドバイスをいただくことで中小企業としては充分な対応です。税務調査に来られた際にしっかりとした説明責任を一緒に果たしてくれるような先生を見つけましょう。

原則4 取締役会等の責務の詳細について

原則4では以下のように述べられています。

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

実際、筆者が中小企業経営の現場を見ていると、企業の成長とともに分業化が進むことで取締役会の役割が各部門のトップのみに閉じ込められてしまいがちです。しかし、上記の原則では、部門のトップでだけでなく全社戦略の推進支援も兼ねることが必要であると指し示しています。

まとめ

3-1の(ⅰ)のような説明責任・情報公開をしっかりと行うことが上場を検討するよりも前の段階にある中小企業には大切なことではないでしょうか。その後、組織が大きくなるとともに、部門代表者ではなく企業全体を代表する役割を協働で担っているという意識を失わないようにすることが肝要でしょう。本稿では、上場企業にガバナンスとして課せられる原則および中小企業において「どこを準拠していくことが、企業の事業成長性や継続性に貢献するか?」を整理してみました。みなさんも“まだまだうちには”と思わずに積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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*metamorworks, Mills, ふじよ / PIXTA(ピクスタ)

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