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中途社員が定着しない…見落としがちな中小企業の人材確保のワナ

2022.06.15

さまざまな企業において採用に関する相談をいただく機会が増えています。求人広告を出す際の要点や新卒採用の進め方など人材確保の要点としてお伝えするポイントも多いのですが、そもそも考えるべきこととして、「採用して新たな人材が入ってきた時に、働き続けたいと思える職場環境・企業文化を醸成できているか」という点があります。せっかく新たな人材を採用できたとしても、共に働くメンバーが職場への不満を口にしたりこれからのキャリアについて希望を見出していない状態だと、その空気感は周りへと伝播し、モチベーション高く入社してきた人材にも良くない影響が広がってしまいます。

人材不足の時代と言われる今、早く採用に注力せねばと考える中小企業の経営者の皆さんも多いことでしょう。しかし、その前に自社の組織のあり方をふりかえり、入社した社員が長く働き続けたいと思える職場環境・企業文化づくりについて考えていただきたいと思います。

人材確保に注力する前に、まずは組織のあり方を見つめ直す

コロナ禍でテレワークが進み、そもそも”リアルな職場に集まり働く意味”が問い直されています。テレワーク下でのコミュニケーションに苦心した企業も多いことでしょう。これからの組織運営を考えた時に、リモートワークと出勤をおりまぜたハイブリッド型にするのか、それとも元通り出勤を原則とする働き方を推奨するのか、”働き方”一つとってもいろいろと検討すべきことがあります。しかし、まずはそれらを決定しルールとして周知する前に、そもそも働く一人ひとりが、自社の職場のあり方やコミュニケーションのあり方等についてどのような考え・感情を抱いているのか、“声を聴く”機会を設けていくことが重要です。すなわち“対話の場をつくる”ということです。

社員がいきいきと持続的に働く企業には、必ず対話の文化が根付いています。対話を通して、お互いの声を聴き、お互いを知り合い、相互理解を深めた上で、施策・制度・ルールを検討していくプロセス自体が、社員の主体性を高め、変化にもしなやかに対応できる組織風土を育みます。

そのため、定着率の低さに課題を感じ、採用に注力しようとしている経営者のみなさんは、まずは現状の自社の組織風土を見つめ直し、組織の声を聴くところから始めてみると良いでしょう。

中途社員が定着しない企業の特徴

よく、制度やルールの策定でお付き合いする企業の経営者の方から、「うちは給与水準が低いから、社員が辞めていくと思うんだよね」「うちは休日日数が他社より少ないから、採用してもなかなか人材が集まらないと思うんだよね」といった話を聞くことがあります。確かに、それも一理あるかもしれませんし、退職する社員と面談をすると、そのような言葉が挙がってくることもあります。しかし、給与や勤務時間、休日などは”目に見える”ものです。目に付きやすいから、それらに対する不満の声を挙げやすくなります。しかし実際、それらの言葉の背景には、「モヤモヤしていることを言いづらい」「提案したけれども話を聞いてくれない」「将来のキャリア像のイメージを持てない」といった”目に見えない”要素に関する不満や不安が潜んでいることが多くあります。

そのため、給与水準をてこ入れすることや勤務カレンダーを見直しすることなど”目に見える部分”を変えていくことが、本当に自社の定着率の改善に直結するのか、経営者のみなさんは考える必要があるのです。そして、働く社員の目線に立ってみると、中途採用した人材が定着しづらい企業にみられる傾向としては、以下の2点が考えられます。

①入社後のギャップが顕著

給与水準や勤務時間、休日日数など、求人票に盛り込む雇用条件を整備することに注力するものの、組織風土や働く社員の日常の様子、将来に向けたキャリアコース等の”中身”を社外へ示せていないケースがあります。そうなると、入社した社員が実際に働くうちに、当初描いていたイメージとのギャップを感じてしまうことがあります。

法制度を踏まえ雇用条件を整備することは重要です。しかし、雇用条件や社内制度は組織運営を支える枠組みであるため、それらの“外身(そとみ)”に惹かれる人材が集まってしまうと、いざ働き始めて組織の中身・日常を見た時にギャップを感じてしまい、「思っていた働き方ができない」「もっとこういう仕事がしたかった」「想像していた職場風土と違う」等々の不満要因が広がってしまいます。

②つながりが希薄

仕事を通して得られるのは、お金(給与)だけではなく、目には見えない”つながり”という資産もあります。つながり資産には、「社員同士のつながり(仲間意識・信頼関係)」「顧客や自社商品サービスとのつながり(愛着心)」「組織とのつながり(帰属意識)」等があり、それらのつながりをより良くするための接点や機会・経験を増やしていくことが重要です。しかし、業務スキルを習得させることばかりに意識を向けると、個々へのフォローが後回しになり、仕事を通してつながり資産を高めるための機会・経験を創り出すことがおろそかになってしまいがちです。結果としてエンゲージメントの低下をもたらします。

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人材定着のために企業が実施すべき施策

このような傾向や変化を踏まえると、人材の定着について考える時に、組織のつながり資産を増やし、個々の働きやすさや働きがいを高めていくというES(人間性尊重)の視点で取り組むべき施策を考えていく必要があると言えます。 具体的には、以下の点に紐づけて、施策を考えていくことが重要です。

●社員体験価値(Employee Experience)を意識した社内施策を組み立てる

社員体験価値とは「社員が自社の組織で働いていくことを通して得られるあらゆる経験から生まれる価値」を指し、入社時、配属時、昇格時、異動時、等々さまざまなできごと・局面においてどのような価値をもたらすことができるのかを考えながら、風土の醸成や施策の立案に取り組むことが重要です。

例)入社した日にウェルカムランチを開催し、職場全体の歓迎ムードを高める・・・当人の入社に際しての不安が払しょくされ、仲間との一体感やワクワク感を高めることができ、モチベーションを持続することができる。

例)昇格して新たな部署に赴任する社員に向けてメンター制度を設け、リーダーとしての日々の気づきや悩みを吐き出し思考を整理する時間を定期的につくる・・・役割が変化したことにより生じる混乱・不安を抱え込むことなく、心身良い状態で職場のマネジメントにあたることができる。

●経験学習モデルをまわす

「自分が実際に経験したことから学びを得ること」を経験学習と言い、そのプロセスのことを経験学習モデルと呼びます。「経験→内省→概念化→実践」というサイクルをまわしていくことで、学びを重ね成長・変容していく、という考え方です。

成功体験だけではなく失敗体験であっても、その経験をふりかえりながら学んだことを整理し、次の実践に活かす、というサイクルをつくることで、自身が成長実感を持てたり、周りからの承認を得ることができ、内的な動機づけとなります。しかし、経験学習モデルは、一人でまわしていけるものではなく、上司やメンターが経験する機会を作りだしたり、ふりかえりの時間を設けたりといったサポートを行うことが重要です。1on1ミーティングを定期的に行って、日々の経験に関してふりかえりながら思考を整理する機会を設けたり、目に見える成果だけではなく、表には見えづらいが感謝を示したい行動に対して職場で承認・表彰する表彰制度をまわしていく、といった施策が効果的です。

 

そして、EAP(Employee  Assistance Program=従業員支援プログラム)という点でも、個々の仕事を通じた成長・変容について考えていくことが必要でしょう。長い仕事人生において、出産・育児、介護、自身の病気等々、さまざまなライフイベントや事情が生じて「フルパワーで働けない」時期というのが必ず生じます。

そのような局面でも、「続けるか辞めるか」という二者択一の思考ではなく、「どのようにすれば働き続けることができるか」という思考で、生じているライフイベントや事情と向き合い問題を”解消”していくために、企業がEAPサービスを利用し、必要な情報や策を提供していくことも重要であると言えます。

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*PanKR、アン・デオール、jessie、Luce / PIXTA(ピクスタ)