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なぜか人が辞めていく。離職率が高い企業が取り入れるべき「360度評価」を解説

企業にとって離職率の高さは頭の痛い問題でしょう。それなりの採用コストをかけて雇ったのに、すぐに辞められてしまっては元も子もありません。早急に解決したい課題である離職率の高さを改善する施策の1つに“360度評価”があります。今回は、360度評価と離職率が高い企業の特徴を併せて解説します。

離職率が高い企業の特徴

まずは、離職率が高い企業の共通点を見ていきましょう。以下の特徴のいずれかが当てはまる企業は要注意と言えるでしょう。

納得感の得られにくい評価法

評価に納得感が持てなかったり、評価が不公平だと感じていたりすると社員のエンゲージメントが低下し、離職率が高まる傾向にあります。不公平感を生み出してしまう理由はいくつかありますが、概ね以下のような理由が多いです。

・評価基準があいまい
・評価基準が属人的・恣意的
・与えられる業務の質が考慮されていない
・評価される側の意見や異議が聞き入れられない

このような事情が存在すると、社員はどのようにすれば評価が高まるのかわからないため、やる気を失い退職するリスクが高まります。

育成プロセスの未整備

多くの社員はスキルアップできない仕事を嫌う傾向にあります。スキルアップできないと賃金も上がらないし、同世代の社員に比べて遅れていくからです。新入社員の3割が3年以内に離職してしまうというデータ(「新規学卒就職者の離職状況」 / 厚生労働省)もあります。

これは育成プロセスが未整備であるのが大きな原因ですが、新入社員から見た採用時と配属後の主観的なギャップも原因になり得ます。特に新卒一括採用のプロセスにおいては、入社後すぐに非常に充実した働き方ができるかのような印象を応募者に与えてしまう傾向にあります。しかし、会社生活に大きな期待を抱いて入社し配属されてみたら、仕事が全く割り振られないか、スキルに繋がらないような仕事しか与えられない。すると「自分は何のために会社に入ったのか」と思い悩んでしまうのです。

社内コミュニケーションが乏しい

社員が抱えた悩みや仕事を進める上での疑問などを上司や同僚に相談しにくく、1人で抱え込みがちな職場は離職率が高くなる傾向にあります。特に上司とのコミュニケーションが希薄だと仕事に対するモチベーションが落ちやすいです。

根本的な原因は、社内が密にコミュニケーションを取りやすい雰囲気になっていない点です。誰でも重苦しい雰囲気の場所では人と話しづらいでしょう。コミュニケーションを取りやすい社内の空気を“心理的安全性”とも呼びます。

【こちらの記事も】離職率が高い企業の特徴とは?計算方法と離職率を下げる対策をまとめて解説

社員の離職率を抑えるために「360度評価」を取り入れよう

社員の離職率を抑えるために効果的な施策のひとつとしてあげられるのが360度評価です。

360度評価とは?

360度評価とは、さまざまな関係者が1人の社員を評価する方法です。

多くの企業の評価制度が「不公平」「納得できない」と思われてしまうのは、1人の上司の裁量によって全てが決まってしまうからです。上司は社員を成果や実績で評価します。しかし、社員が職場にもたらしている価値は、個人の成果や実績だけで測れるものなのでしょうか。例えば、個人の成果はあまり上げられていないが、人柄や性格の良さで他の社員のモチベーションを上げている場合も考えられるでしょう。あるいは上司からの評価は低くても、部下からの信頼は厚い管理職もいるかもしれません。

1人の上司からだけではなく多角的な評価を実施し、その社員の普段の仕事ぶりから評価するのが、360度評価です。

360度評価のメリット

客観的な評価が得られる

360度評価では、複数の人が評価するため、偏った評価になりにくい傾向があります。評価する人が1人だと、意図せずに個人的な好き嫌いの感情が評価に影響する場合があり得ます。しかし、複数の人が評価すれば、1人の評価基準のバイアスは他の人の評価基準で相殺されるため、実態以上に偏りにくいのです。

評価に対する不公平感が弱まる

評価の客観性が高まればモチベーションも高まる傾向にあります。例えば1人の上司が不本意な評価を付けたならば「上司の評価基準が偏っているのではないか」と疑問に思う人も出てきます。しかし、複数の人が同時に同じような評価を付けていた場合、不公平感を感じる人は少ないでしょう。むしろ、自分のどこが悪かったのか真剣に考えるようになり、悪かった部分を改善したり、他の社員とのコミュニケーションを積極的に見直したりするかもしれません。

心理的安全性が高まる

1人の社員に対し関連のある他の関係者が複数で評価することは、関連のある社員同士がお互いに評価することでもあります。人はお互いにどう思っているかを正直に言い合える関係が構築されると、心理的安全性が高まる傾向にあります。

重要なのは、特に心理的安全性が確保しづらい上司と部下の関係において、360度評価を通じて部下からのフィードバックもなされる点です。上司が部下からのフィードバックに真摯に向き合っていると、部下からの上司に対する信頼感も高まると考えられます。

【こちらの記事も】離職は見抜ける?「社員が辞める前の4つの兆候」を心理カウンセラーが解説

360度評価で注意すべきこと

360度評価は適切に運用すると大きな効果を発揮しますが、やり方によっては失敗してしまう場合があります。導入時に注意すべきことをいくつか解説します。

慣れるまでは人事考課や業績評価に組み込まない

360度評価を業績評価や人事考課などに組み込むかどうかは慎重に判断しましょう。なぜなら、仕事の成果や評価は賃金の額や会社内での地位に直結するため、社員の間で忖度やいじめが横行する原因となり得るからです。例えば、本音では相手の働きぶりに疑問があるが、報復評価をされたら困るので良い評価しか書かないようにする。あるいは、本音では相手を優秀な社員だと思っているが、性格が合わず良い印象を持っていないので不当に低い評価を付ける。このような不当な評価の仕方が横行していては客観的な評価にはなり得ません。

そのため、社員がお互いのフィードバックに慣れるまでは、スキルアップや能力開発のためという位置づけで導入するのがおすすめです。慣れてきてから徐々に人事考課などの参考にしていくと良いでしょう。

ネガティブな評価コメントの言い回しを工夫する

ネガティブな評価コメントを書くときの言い回しを工夫するように社員に促しましょう。ネガティブな評価自体は問題ありませんが、あまりにも辛辣な言い回しでは相手がショックを受け、モチベーションが下がってしまう可能性があります。例えば「報連相ができていない」という評価は、「こちらの要望にいつも真摯に対応してくれて好印象です。ときどき報連相を忘れてしまうときがありますので、気をつけるともっと良くなると思います」など、取り組み方や印象で良い点を併記して書くなどの工夫が必要です。

匿名性を十分に確保する

360度評価は原則として匿名で行います。匿名のほうが率直な評価をしやすいためです。

このとき、評価者の人数は1人の被評価者につき5〜10人程度が望ましいでしょう。評価者が少なすぎると誰が書いたのかわかってしまう可能性が高く、評価者と被評価者の関係が悪化したり、報復による不公正な評価が横行したりする事態になりかねません。最低でも5人以上は評価者の人数を確保し、匿名性を十分に確保するよう注意しましょう。

中小企業で360度評価を実施するための手順

360度評価の導入は以下の手順で行います。

1. 目的を明確にする

何のために360度評価を導入するのか明確にし、社員にも周知しましょう。

2. 評価項目と評価基準の策定

導入目的を元に明確な評価項目と評価基準を策定し、ガイドラインを作成しましょう。評価軸が明確になっていないとただの好き嫌いの評価になってしまうため、客観的で統一された軸を設定することが重要です。

3. 評価対象と評価する人の決定

評価する人とされる人を決めます。特定の属性の人員に偏らないように、上司、部下、先輩、後輩などまんべんなく評価者を選びましょう。

4. 実施とフィードバック

評価を実施し、評価された人にフィードバックします。評価は匿名で行い、評価された人へのフィードバックは個々人の点数を全て見せるのではなく平均値を見せるようにしましょう。

360度評価で評価の客観性を高め、離職率を低下させよう

社内のコミュニケーションが不足していて、評価制度や育成プロセスに対して社員が不信感を持っている企業は離職率が高くなる傾向にあります。360度評価を導入すると、自分や自分の仕事ぶりが周りの人からどのように思われているのかを可視化できるため社員の不信感低減が期待できます。ぜひ導入を検討してみてください。

【参考】
『新規学卒就職者の離職状況を公表します』 / 厚生労働省

*keyphoto、Graphs、Totallypic、すとらいぷ / PIXTA(ピクスタ)