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ストレス 社員

まさかうちの社員がメンタル不調に!? 限界を超える前に気づくための「ストレスのサイン」

2022.09.05

一生懸命仕事を頑張っていて人当たりも良く、「優秀だ」と評価していた社員が突然来なくなったり、退職を申し出てきたりすることに驚いたご経験はありますでしょうか? ストレスが限界に達すると、どんなにタフな人間でも、このような行動をとりかねません。しかし、メンタル不調者は「仕事に行けない」「もう、辞めたい」となる前に、実は少しずつサインを出していることが多いです。このサイン気づき、早めに対処することで、休職や離職を防ぎやすくなります。

今回は、ストレスやストレスからメンタル不調に至るプロセスについて産業医の筆者がご紹介します。休職や離職の予防に役立ててください。

業務上のストレスの種類

厚生労働省の「精神障害の労災認定」によると、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)の種類は、①災害や事故に遭うなどの“特別な出来事”、②長時間労働、③仕事の失敗・過重な責任④仕事の量・質、⑤役割・地位の変化、⑥対人関係、⑦ひどい嫌がらせやいじめ、のように分類されています。認定基準では、心理的負荷の強度(弱・中・強)や複数の出来事がある場合の評価の仕方が定められています。また、職場の環境や職場の支援の有無も問われます。

前述した資料によると、社員のストレスをためないためには、以下のようなことが大切だとわかります。

・強い心理的負荷があったとされる出来事が起きないように注意する
・中くらいの心理的負荷とされる出来事が複数起きないように注意する
・相談体制を整えるなど、適切なサポートを行う

もちろん、人生では仕事以外のストレスにも起こり得るため、業務に関するかに関わらず相談しやすい体制や、育児や介護などとの両立のための制度設計も、長い目で見るとメンタル不調や離職の予防に有効といえます。

【こちらの記事も】曖昧な休職ルールはNG。メンタルヘルス不調者に対応する就業規則のポイント

ストレスが蓄積しているサイン

ストレスがかかったとしてもメンタル不調になるかどうかは、ストレスと個人の対処資源のバランスで決まります。ストレスを対処する行動のことを専門用語で“コーピング”といいます。人はストレスがかかるとすぐにメンタル不調になるのではなく、まずは“ストレス反応”と呼ばれる反応が起こります。例えば、頭痛がする・お腹が痛くなるなどの身体的な反応、元気がなくなる・イライラしているなどの心理的な変化、遅刻が増えるなどの行動面の変化があります。どのようなストレス反応が出るかは、人それぞれです。

このストレス反応の時点で、ストレスを抱えていることに気づいて、悩みを聞いたり、適切なサポート資源につなげたり、休暇を取ってもらったりすることで、うつ病や適応障害といった疾病に至ることを防ぐことができます。ストレスが蓄積している社員に気づくために、2つの語呂合わせを紹介します。

①ケチな飲み屋

“ケチな飲み屋サイン”は、産業医の鈴木安名氏が提唱した”メンタル不調の兆候”に気づくための語呂合わせです。

1)け 欠勤、ち 遅刻・早退
2)な 泣き言をいう
3)の 能率の低下
4)み ミスやトラブルが増える
5)や 辞めたいと言い出す

鈴木安名, 北岡大介著『人事・労務担当者のためのメンタルヘルス対策教本』(日本経済新聞出版社, 2020) より引用

②ゲイツ心配おねしょ

実際に欠勤や遅刻・早退などの勤怠の乱れが出たり、大きなミスをおこしたりする前に気づきたい場合は、“ゲイツ心配おねしょ”が役に立ちます。

ゲ:元気がない
イ:いらいらする
ツ:疲れている
心配:心配
お:起きられない
ね:眠れない
し:身体愁訴(頭痛、めまいなど)
よ:抑うつ

上司なら知っておくべき、部下の仕事のストレスを和らげる基本と解消法 / Carely(iCARE) より記事内画像を筆者が一部書き起こし

「ゲ・イ・ツ」はメンタル不調でなくとも出ることがあり、仕事以外のストレスが原因かもしれません。しかし、提唱者であるiCARE 代表取締役 CEO山田洋太氏によれば、「心配」、つまり仕事について必要以上の心配をして、一つ一つの作業に時間がかかる、確認が増えているという状況があれば、何らかの対処をするべきとのことです。もちろん、「ゲ・イ・ツ」も1週間以上続く場合はメンタル不調の兆候ととらえて、まずは話を聞くなどの対応が必要です。

【こちらの記事も】あの人がどうして?誰でもなり得る「心が壊れる前兆」と経営者として取り組むべきこと

社員のメンタル不調を未然に防ぐためにできること

ここまでメンタル不調のメカニズムと、メンタル不調のサインについて話してきました。次は、さらに早い段階での介入、つまり“予防”についてです。

一人一人の社員がストレスと上手付き合えるようになるために、新入社員研修でメンタルヘルスに関するレクチャーを入れる、e-Learning(インターネットを利用して学ぶ学習形態)で年に1回は知識を確認してもらう方法がよくとられています。これは、“セルフケア研修”などと呼ばれます。セルフケア研修では、ストレスやストレスがかかった時の反応(ストレス反応)、ストレスへの対処(コーピング)について知識を身につけます。

さらに大事なのは、知識として知っているだけではなく、必要な時に行動に移せることです。初めて大きなストレスやメンタル不調の兆候を経験すると、自分で気づき、知識を使って対処し、解決に至るということが難しい場合も多いものです。そこで、会社の産業保健職(産業医・産業保健師・心理師など)がサポートできる体制があると心強いでしょう。

規模が小さい会社であれば、自社の産業保健職を抱えることが難しいことも多いので、「EAP(Employee Assistance Program)」と呼ばれる、外部機関を上手に活用しましょう。社員が直接、電話やメールで相談できるサービスがあります。上司や人事を通さなくても専門家に相談できるということは、「相談することがキャリアに影響するのでは」と心配する社員にとっては安心できるといえます。会社の安全配慮義務の一環や福利厚生の一つとして、検討してはいかがでしょうか。

【もっと詳しく】メンタル不調で休職…産業医がいない企業で実施すべきメンタルヘルス対策とは

 

ストレスの多い職場環境でありながら、何も手を打たなければ、休職や離職により人手不足になるだけでなく、労働災害ではないかと会社の責任を問われることもあり得ます。メンタルヘルスや医療の専門家でなくても、社員の休職や離職の予防のためにできることはたくさんありますので、まずはできるところから取り組んでみてください。

【こちらの記事も】部下がうつ病に…社員がうつ病で休職する際に会社はどうすべき?手続きや対応のポイントを解説

【参考】
『精神障害の労災認定』 / 厚生労働省
鈴木安名, 北岡大介著『人事・労務担当者のためのメンタルヘルス対策教本』/ 日本経済新聞出版社, 2020
『上司なら知っておくべき、部下の仕事のストレスを和らげる基本と解消法』 / Carely

*shimi、PanKR、mits、buritora、K-Angle、saki / PIXTA(ピクスタ)