登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 違法にならず解雇できる?今すぐにでも辞めてほしい「モンスター社員への対応」【所要期間や注意点も】
モンスター社員

違法にならず解雇できる?今すぐにでも辞めてほしい「モンスター社員への対応」【所要期間や注意点も】

2022.09.09

企業活動を営む中でしばしば問題となるのは、度々社内でトラブルを起こす“モンスター社員”への対応です。“問題社員”とも呼ばれます。モンスター社員への対応を怠ってしまうと、職場の秩序が乱れ、真面目に働いている他の従業員の業務効率やモチベーションの低下を招き、結果的には他の従業員の精神不調や退職を招くおそれもあります。

今回は、弁護士である筆者が、モンスター社員に対応するにあたり、知っておくべき関連法律や実際に解雇する場合の流れを解説します。

モンスター社員(問題社員)とは

“モンスター社員(問題社員)”という言葉は、当然ながら法的な概念ではないため、詳細な定義があるわけではありませんが、一般的には、社内において頻繁にトラブルを起こす従業員のことをいいます。会社からの注意指導を受け入れず、反発してくるような社員をイメージいただければよいでしょう。

【こちらの記事も】ハラスメント社員対応の流れは?パワハラ防止法による対策義務化と就業規則に定めるべきこと

解雇に関するルール

モンスター社員への対応として、経営者がまず考えるのは「この問題の多い社員をできるだけ円満に解雇したい」ということでしょう。確かに、冒頭述べたようなモンスター社員による他の従業員への悪影響からすれば、最終的には解雇を選択することが適当な場合があるでしょう。

30日前の解雇予告

従業員を解雇するには、30日前の解雇予告が必要です(労働基準法20条)。もっとも、“解雇予告手当”を支払うことで予告日数を短縮ないし不要とすることができます。また、解雇に労働者の責めに帰すべき事由がある場合には、予め労働基準監督署の除外認定を受けることで、解雇予告を不要とすることも可能です。

就業規則上の解雇事由該当性を確認

解雇を行う前提として、就業規則等で定められた解雇事由に該当する行為が存在することが必要です。企業の就業規則では、職場秩序違反を解雇事由としていることが多いので、モンスター社員の行動が何らの解雇事由にも当たらないということはそう多くはないでしょう。

解雇には「客観的合理性・社会的相当性」が必要

就業規則上の解雇事由にあたる行為があったとしても、解雇が解雇権の濫用に当たる場合には、当該解雇は無効となります。どのような場合に、解雇が解雇権の濫用となるかは、労働契約法16条に定めがあり、次のように定められています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

したがって、解雇を有効に行うには、客観的合理的理由と社会的相当性が必要で、これらを充足しない解雇は、権利の濫用として無効となります。

モンスター社員(問題社員)を有効に解雇できるケース

裁判例では、職場秩序違反を理由として、事前の注意指導や懲戒処分などを経ずにいきなり解雇した場合には、容易に有効と認めない傾向にあります。よほど問題行動が重大なものでない限りは、事前の注意指導や懲戒処分を行うことなくいきなり解雇をすることは難しいと考えるべきでしょう。

一方で、解雇が有効となった裁判例もあります。上司への侮辱的な発言や時間外労働制限の従わないなどの複数の小さな問題行動が見られる従業員に対しなされた解雇についての裁判例です。上司の指示に従わない傾向が顕著であることや他の従業員への悪影響があること、そして、これまで4回にわたり、けん責処分を受けていたにもかかわらず、反省の態度がないこと等を理由に解雇が有効となりました(東京高等裁判所平成14年9月30日)。この裁判例では、これまでも複数回に亘って懲戒処分を行ってきたにもかかわらず、改善の傾向がないことが、解雇を有効とする理由となっています。

【こちらの記事も】解雇に関する過去の裁判例を弁護士が解説

モンスター社員(問題社員)を解雇する具体的な流れ

上記の裁判例を踏まえると、モンスター社員を解雇する場合には、次のような流れを踏む必要があるといえるでしょう。

ステップ1:モンスター社員(問題社員)の問題行動の証拠を収集

モンスター社員は、たとえ本当は問題行動を行っていても、「そんなことは知らない」と事実を否定することが多い傾向にあります。

そのため、まずはモンスター社員の問題行動の証拠を確保することが重要です。問題行動を行った形跡が残る写真や、そうした形跡が残らない場合であっても、問題行動が示されているメール、従業員からの報告文書など、できるだけ形に残るものを集めておきましょう。

ステップ2:注意指導、懲戒処分

モンスター社員が問題行動を起こした場合、即解雇を行っても、“解雇権の濫用”として無効となる可能性が高いです。そのため、事前に注意指導や懲戒処分を行い、問題行動の改善を促した記録を残しておくことがとても重要です。

注意指導は行っているものの口頭にとどまっているケースがよく見受けられますが、証拠の観点からは、やはり書面で残しておくべきです。書面で注意指導を行うことは、本人に対して具体的に問題である行動を示し、明確に認識させることができるため、解雇に至る前の改善を促す効果もあるといえるでしょう。

ステップ3:弁明の機会の付与

モンスター社員の解雇は、“普通解雇”ではなく“懲戒解雇”としてなされることが多いです(懲戒解雇に加えて予備的に普通解雇をすることもあります)。懲戒解雇のような重い懲戒処分を行う場合には、事前に問題行動を示し、モンスター社員に弁明の機会を与えることが適当です。弁明の機会を与えることで、会社の真剣な対応を示すことにもなり、モンスター社員の問題行動が改善したり、自ら退職を申し出ることも考えられます。

【こちらの記事も】普通解雇・懲戒解雇とは?雇用契約終了の種類

ステップ4:解雇の通知

これらのステップを踏んでもなお、問題行動に改善が見込まれない場合には、解雇を通知します。法的には解雇の通知を書面で行う必要はないですが、証拠の観点からは書面で通知することが通常です。上記のとおり、モンスター社員に対しては懲戒解雇を行うことが多いですが、予備的に普通解雇も加えておくことも可能であり、そのほうが安全といえます。

他方で、上記のステップを踏んだ結果、問題行動が改善した場合には、解雇をすべきではありません。時折、“解雇ありき”でステップを進め、問題行動が改善したり、反省の態度を見せている場合でも、「解雇をしたい」と相談を受けることがありますが、問題行動が改善した以上は、モンスター社員を解雇することは難しいと考えてください。しかし、これまで行ってきた問題行動が消えるわけではありませんので、それに対して懲戒解雇以外の懲戒処分を行うことは可能です。

解雇までの所要期間・支払金額

懲戒解雇までの所要期間は、問題行動によってケースバイケースですが、あまり拙速に行うべきではありません。基本的には3か月~1年は見た方が良いでしょう(途中改善の傾向があれば、もっと期間を要することもあります)。

懲戒解雇の判断をする場合には、金銭は発生しません。ただし、その前に、退職勧奨によって自主退職を促すこともあります。その場合にも、問題行動によってケースバイケースですが、賃金の1〜3か月分程度を支払うことが多いでしょう。

所要期間や支払金額については、弁護士などの専門家の意見を聞きながら進めていくとよいでしょう。

【こちらの記事も】社員の横領が発覚したら?懲戒解雇や損害賠償請求の対応をわかりやすく解説

【参考】
労働基準法 / e-Gov
労働契約の終了に関するルール / 厚生労働省

*Sunrising、kouta、ダイ、アン・デオール、mapo、takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)