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第三者割当増資

第三者割当増資とは?メリット・デメリット、手続き方法を弁護士が解説

2022.09.26

事業が順調に拡大し、さらなる事業拡大を図るときには、資金調達が必要になります。もちろん銀行から融資を受ける方法もありますが、出資を募る(増資)方法もあります。

会社法が用意する増資の方法には、株主割当、公募増資、第三者割当増資があり、中小企業が既存株主以外の第三者から増資を受ける場合に“第三者割当増資”が選択されます。また、資金調達目的だけでなく事業提携の手法の一つとして第三者割当増資が行われることもあります。

そこで今回は、弁護士である筆者が、これから事業を拡大させることを検討している中小企業(非公開会社)を念頭に、第三者割当増資について解説します。

第三者割当増資とは

繰り返しになりますが、会社法が用意している増資の方法は、株主割当、公募増資、第三者割当増資の3つです。

“株主割当”は、既存の株主に対して募集株式の割当を受ける権利を与える方法です。“公募増資”は、不特定多数の者に募集株式を取得させる方法です。そして、“第三者割当増資”は、(不特定ではなく)特定の第三者に募集株式を取得させる方法です。厳密には、公募増資、第三者割当増資という分類は、会社法上には存在しないのですが、実務上このように分類されるのが一般的です。

【こちらの記事も】融資と出資の違いは?メリット・デメリット、押さえておくべき落とし穴も

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資のメリットは、次の通りです。

①純資産が増加し財務状況が改善する

第三者割当増資は、資金調達の一種です。これを受けることで資金を得ることができます。また、第三者割当増資によって増加した資金は、「純資産の部」の資本金額に計上され(半額まで資本準備金に計上することも可能)、対外的な信用が向上します。

②資金を返済する義務がない

銀行借入による資金調達との違いです。第三者割当増資に限らず、増資の場合は、借入ではなく出資を受けることになるため、これを返済する義務を負いません。出資した株主へのリターンは、基本的には配当で還元されることが想定されますが、配当は義務ではなく、中小企業では配当がなされないことも多いです。

③資本・業務提携による事業拡大

第三者割当増資は、単なる資金調達目的だけでなく、他社との資本・業務提携の手段として用いられることもあります。こうした提携を可能とすることで、さらなる事業の拡大を目指すことができます。

第三者割当増資のデメリット

他方で、第三者割当増資のデメリットは、以下の点があります。

①持株比率の低下

株主が新たに増え、株主構成が変化するため、既存株主の持株比率は低下します。オーナー企業が多い中小企業では、経営者やその親族だけで株主が構成されていることが多く、オーナー一族の支配権が低下する可能性が考えられます。

②迅速な意思決定を阻害する

①とも関連しますが、経営者のみが100%株式を保有していたり、親族だけで株式を保有している場合は、株主総会を書面決議ないしは全員出席総会の形で、迅速に開催することができます(株主総会が不要なわけではないことに注意しましょう)。ここに第三者株主が入ると、関係性にもよりますが、上記のような迅速な方法での株主総会の開催は難しくなり、原則どおり株主総会招集通知を発送して開催する等といった手間が発生することがあります。

また、持株比率が3%を超える株主には、会計帳簿閲覧・謄写請求権が認められているため、会社の重要な会計情報が閲覧される可能性があります。こうした株主対応が発生することはデメリットといえるでしょう。

【こちらの記事も】リスク対策は大丈夫…?中小企業で社員に株式譲渡をするメリット・デメリット

③資本金の増加による住民税の増加

資本金が増加すると、地方住民税の均等割りが増加する可能性があり、信用力が高まる半面、納税の負担が増加するリスクがあります。

第三者割当増資を実施する際の注意点

第三者割当増資をする場合には、オーナー一族以外の第三者が株主に入ることになるため、想像以上に負担が重くなる場合があります。当初は友好な関係にあったとしても、何らかの事情で関係が悪化してしまうと、株主の中にオーナー一族と対立する株主が存在する事態を招きかねず、迅速かつ円滑な事業運営を阻害する可能性があります。

そのため、第三者割当増資をするにあたっては、“株主に第三者が入ってくる”ということをよく理解し、誰に、どの程度株式を割り当てるかをしっかりと考えたうえで進めましょう。

【こちらの記事も】知っておくべき!持株比率の権利やリスク【弁護士が解説】

第三者割当増資の手続き

会社法「募集株式の発行等」(第8節)において、株式の発行や処分の手続きが細かく定められています。以下では、中小企業を念頭に非公開会社の手続きを解説します。

(1)募集事項の決定

第三者割当増資を行う場合には、まず法定の募集事項を株主総会の特別決議で決定することになります。株主総会特別決議で決めるべき事項は以下のとおりです。

1:募集株式の数
2:募集株式の払込金額またはその算定方法
3:現物出資をするときは、その旨並びに出資財産の内容及び価額
4:払込期日または払込期間
5:募集株式を発行する場合は、増加する資本金および資本準備金に関する事項

これらの事項は、募集をする度に定める必要があります。

また、1株の払込金額が、募集株式を引き受ける者にとって特に有利な(安い)金額である場合(“有利発行”といいます)には、既存の株主は、自身が持つ株式の価値が希釈化され、経済的損失を被ることから、そのような金額で募集する理由を説明しなければなりません。

上記の決定は、原則として株主総会の特別決議で決定しますが、①募集株式の数の上限及び②払込金額の下限を除き、取締役(取締役会設置会社では取締役会)にその決定を委任することができます。

(2)募集株式引受けの申込み・割当

募集株式の引受けの方法は、大きく2つあります。

1:申込みを行う方法

まずは、単純に申込みを行う方法です。会社は募集株式の引受けをしようとする人に対し、①会社の商号、②募集事項、③(金銭の払込みをすべきときは)払込みの取扱いの場所、④その他法務省令で定める事項を通知します。そして、申込みをする人は、①氏名または名称と住所、②引き受けようとする募集か株式の数を記載した書面(会社が承諾すれば電磁的方法)を交付します。これを受け、会社は①募集株式の割当を受ける者と、②その割り当てる株式の数を決定し、払込期日または払込期間の初日までのこれを通知します。

この決定は、原則として、取締役(取締役会設置会社では取締役会)が行いますが、募集株式が譲渡制限株式の場合、定款上別段の定めがない限り、非取締役会設置会社では株主総会特別決議、取締役会設置会社では取締役会で決定します。

2:総数引受契約

募集株式を引き受けようとする者が募集するすべての株式を引き受ける場合には、1のような手続きは不要で、会社と株式を引き受けようとする人の契約(総株引受契約)で可能となります。

(3)出資金の払込みと株式の発行

上記の割当または総株引受契約が行われると、申込者または契約者は“引受人”となります。引受人は、払込期日または払込期間内に払込金額を払い込まなければなりません。ここでは“全額”の払込みが必要で、“一部”だけ払い込むということは認められていません。また、払込みは会社が定めた“払込取扱機関”で行う必要があります。こうして払込みが完了すれば、払込期日(払込期間を定めた場合は出資の履行の日)に、株主としての地位を得ることになります。

(4)登記申請

さて、上記で概ねの手続きは完了ですが、忘れてならないのが“登記申請”です。第三者割当増資によって、会社の資本金の額は増加します(半分までは資本準備金に計上することも可能)。資本金の額は、登記事項ですので、増加後の資本金の額に登記事項を変更することを忘れないようにしましょう(登記変更は、効力発生日から2週間以内です)。

まとめ

上記のとおり第三者割当増資の手続きは、会社法で細かく定められており、会社の機関設計などによって決定機関が異なるなど、複雑です。第三者割当増資を実施する場合には、弁護士などの専門家のアドバイスをもらうとよいでしょう。

さらに詳しい流れは「実務チェックシート」にまとめています。無料でダウンロードできるので、ぜひお役立てください。

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【参考】会社法(平成十七年法律第八十六号) / e-Gov

*Luce、takeuchi masato、CORA、FreedomZ / PIXTA(ピクスタ)