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中小企業における管理業務デジタルトランスフォーメーション(4)~人材・資金不足、IT戦略立案の課題に対応するには~

2020.11.02

4回目の今回は、DXの実現を阻む課題の“資金・人材の不足”、“ITに関する戦略の不存在・不備”、およびその課題への対応方法について説明していきます。

ITに関して中小企業に関する最大の問題は、必ずしも経営者がITに関心があると限らないこと、および、社内に経営者のITに関する知識を補完したり、活用を促したりする従業員が少ないことといえます。この両者の問題は、ある程度コストをかけられれば解消可能ですが、ITにかけられる潤沢な予算があるわけでないのもまた中小企業の特徴といえます。

そんな問題に対して、経営者としてどのように対応すべきでしょうか?

資金・人材の不足

インフラやハードウェアは外注できるが、ソフトウェアは社内に精通した人がいることが好ましい

多くの中小企業では、インターネット接続やプリンターの初期設定など、ITシステムの運用面に関する多くのことを外部委託しているケースが多いです。こういった業務は一度導入が済めば、しばらくは設定変更の必要がなく、実施には一定の専門知識を必要とするものの、常時作業があるわけではないので、専門家が常駐している必要はあまりありません。

ITシステムの知識は大きく分ければインフラ(インターネットなどの通信基盤)、ハードウェア(サーバー、PC、その他の機器)に関するもの、アプリケーション(業務用ソフトウェア)などに区分されます。インフラやハードウェアについては、会社ごとに設定の相違はあるものの、製品毎に汎用的な技術知識が適用可能で、外部に委託しやすいといえます。

一方、販売管理ツールなどのソフトウェアは、多種多様な業務アプリケーションがあり、それぞれ特色や業界に応じた特徴があることが多いです。

このアプリケーションのサポートは一義的には製品開発をおこなったソフトウェア会社になりますが、そのような会社のサポートはあくまでも自社製品および関連する業務部分のみです。そのため、自社業務の全体を見渡し意見ができる、会社の業務アプリケーションへの理解が深い人物をまず置くことが重要といえます。

経理担当者をITに強い人材に育成する

会社の業務アプリケーションへの理解が深い人物の候補者として、IT業務専属の人材が配置できればベストですが、実際には兼務が現実的です。このIT業務を兼務する社員は、経理業務に関わっている人がよいと考えます。経理の人材をITに強い経理(デジタル経理人材と呼ぶことにします)に育てるということになります。

経理業務は社内の金額データが最終的に集まるところであり、社内の情報の流れを理解しやすく、経営者に近い立場にいる点、さらに経理担当者が上流のデータにスムーズにアクセスできるようになれば、経理業務の効率化にもつながり、モチベーション向上につながるというのがあります。

ただ、経理人材がITの素養を身につけたりするための一定の時間がとれるように、ルーチン的な経理業務はパートタイマーや外部委託化するといったことは検討する必要があります。

今後ますますDXが進むことを考えると、経営戦略を実現するために必要なデータとその活用、それに適したITシステムの全体設計を描ける体制・人材、業務に精通したデジタル(経理)人材を確保することを考えてみてはどうでしょうか? このデジタル経理人材を軸として、社内のITシステムに関する改善案や施策を練り上げ、外部コンサルタントの力も借りて、実現に推進していく流れとなります。

この外部コンサルタントにしてもITだけでなく、特定の分野の専門業務知識を持っているコンサルタントがよいと思われます。経理部門が中心になるのであれば、会社の経営状態を把握し、日常的に連携がある会計事務所の中でも、特にITに強い会計士・税理士に相談に乗ってもらえれば、よいでしょう。

そのような経理人材にも恵まれていない中小企業であれば、経営者自身がその役割を務めるか、ITに強い社外アドバイザーから長期的な支援を受ける必要があると思われます。

人材不足が進む中、中小企業白書の生産性の向上につながる分析結果(※1)に記載されたように、基本的には従業員の多能工化・兼任化を進めていくほかないと考えられます。

資金不足についての対応

補助金制度の活用

資金不足に関する対応としては、政府機関をはじめとしたITに関する補助金や中小企業投資促進税制による税額控除や特別償却適用があげられます。他には、返済が必要にはなりますが、公的機関、自治体をはじめとする設備資金融資による資金調達も視野には入ります。

導入費用の削減(業務内容の整理、ライセンス数の削減)

一般にITは機能が多くなったり、ユーザーライセンスが増えたりすると導入費用が高くなるケースがほとんどです。導入前の業務棚卸(前記事でご紹介)をしっかり行い、業務の整理・単純化を行い、シンプルな導入とライセンス(必要ユーザー数)の削減を行うことで、導入費用やその後の運用費用の削減を図れます。

事業計画への組込とフォローアップ

補助金をつかったIT導入は一見して資金負担も少なく、導入して終わりという結果になりがちです。IT導入補助金など、導入後の” 事業実施効果報告”を求めるものもありますが、本来は補助金申請とは無関係に、いわゆる投資対効果を事前に検討しておく必要があります。

導入に必要な資金は融資などをつかえば、確保することもできますが、それよりも重要なのはその投資が回収できるのかどうかという観点です。投資が回収できるというのは、売上が増加→利益が増加→手元資金が増加or生産性向上による支払減、この循環にある場合を指します。

ITシステムの導入の際に、期待される効果を定量化し事業計画に組込み、さらに毎月フォローアップをしていくことは簡単ではありませんが、導入コストが将来の利益(売上増加、費用節減)によって回収されることが明確に分かれば、一時的な資金の問題に過ぎなくなり、IT投資の意思決定が容易になるのではないでしょうか。

ITに関する戦略の不存在・不備

続いて、”ITに関する戦略の不存在・不備”が起きている際に、DXにおいて経営者が決めるべきことや、やるべき役割はなにか解説していきます。

経済産業省のDX推進ガイドラインによれば、事業戦略とDX戦略はおおむね以下のようになります。

事業戦略

どの事業分野にどういった戦略でどのようなあらたな価値を(新ビジネス創出、即時性、コスト削減)を生み出すか

DX戦略

どのようなデータを収集・活用し、どのようなデジタル技術をつかって、何の仕組みを実現するのか

ビジネス上の戦略目標があってはじめてITは手段として、有効に機能するといえます。したがって、ITに関する戦略は事業戦略と共に経営者が考えていく必要があります。

では、経営者がITに関する知識に乏しい場合はどうしたらよいでしょうか?

その場合はまず、同業他社やビジネスモデルが似ている異業種他社のIT活用事例を参考にするのが第一歩となります。IT活用事例では、それぞれの会社の強みをうまくITで引き出したり、あるいは新しい強みを見いだしたりする取組が行われています。

管理業務であれば、定型的な業務のクラウドツールを使っての効率化事例がたくさん見つかると思います。まずは模倣から入り、社内のDX化の体制拡充(人材育成、外部からの支援確保など)とともに徐々に独自性を出していくのがよいと考えます。

自社にとって事業戦略は必要であっても、デジタル化をはじめとするDX化は縁がないと考える経営者の方がいるかもしれません。ただ、デジタル化は既存資産の活用の幅が広がるので投資効果が高いともいえます。さらに既存のビジネスモデルをも変える恐れがあり、経営者でなければ、取り組むことができないミッションでもあります。

【参考】

※1 平成30年度中小企業白書 第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 2 多能工化・兼任化の効果

*metamorworks / PIXTA(ピクスタ)