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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 一歩間違えるとパワハラに!? 始末書を提出しない問題社員への対応【弁護士が解説】
問題社員

一歩間違えるとパワハラに!? 始末書を提出しない問題社員への対応【弁護士が解説】

2022.10.12

社員が比較的軽微な服務規律違反を行った場合や、遅刻や無断欠席等の勤怠不良が見られる場合には、いきなり懲戒解雇のような重い懲戒処分を行うのではなく、まずはけん責処分として始末書の提出を命じることが通常です。しかし、始末書の提出を拒む問題社員の対応にお悩みの方もいるでしょう。

あまり意識されていないものの、始末書の提出を強制することは、思想・良心の自由の関係で問題があるとされており、始末書の提出を拒む社員への対応には注意が必要です。そこで今回は、弁護士である筆者が、そもそも“始末書”とはどういう書類なのかを踏まえ、始末書の提出を拒む社員に対する対応を解説いたします。

そもそも「始末書」とは?

そもそも、“始末書”は法律上の定義を有する概念ではありませんが、一般には、非違行為に関する事実関係を報告し、自分が行った非違行為を謝罪、将来、同様の行為を行わないことを誓約する書面であるといわれています。

他方で、これと似たものに“顛末書”があります。これは、始末書と同じく非違行為に関する書面ではありますが、非違行為に関する事実関係の報告を行うものであり、謝罪・反省が含まれないことが一般的です。その他に、“反省文”もよく見られますが、これは、自分が行った非違行為を謝罪し、将来これを行わないことを誓約する書面であり、事実関係の報告というよりは、謝罪・反省の内容が強く出ている書面であることが一般的です。

いずれも法的に定義づけられている概念ではないため、名称よりも実際の内容が重要といえます。

【もっと詳しく】顛末書(てんまつしょ)とは?始末書との違いや書き方

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始末書が必要な場面

始末書に法的な定義はありませんが、始末書の提出は、懲戒処分の一つである“けん責処分”として提出を命じることが多いです。“けん責処分”は、懲戒処分のなかでは最も軽い処分であることが通常ですので、始末書の提出を命ずるのは、社員の非違行為が“社内秩序を乱すものであるものの、その程度が軽微”であるような場合が想定されます。非違行為が社内秩序を乱すものとまで言えないような場合には、懲戒処分としではなく単に注意指導を行うということでも足りるでしょう。

ケースバイケースではありますが、例えば、無断欠勤や無断遅刻、社用車を無断で私用に使っていた等の行為は、比較的軽微な非違行為の類型であり、まずは、けん責処分がなされることが多いでしょう。同様の軽微な非違行為が繰り返される場合により重たい懲戒処分を、最終的には懲戒解雇を有効に行うために、けん責処分を行っておくことは重要なポイントとなります。

【もっと詳しく】違法にならず解雇できる?今すぐにでも辞めてほしい「モンスター社員への対応」

始末書の提出は義務付けられる?

けん責処分として始末書の提出を命じたにもかかわらず応じない社員に対して、始末書の提出を義務付けることはできるのでしょうか。これについては、始末書の定義が関係します。上記のとおり、始末書は謝罪や反省を促すものです。しかし、謝罪や反省は他者に強制されるものではなく、その社員の思想・良心の自由の範疇に属するものです。したがって、これを強制し、始末書を提出しない社員に対し、“始末書の不提出”を理由として、別途の懲戒処分を行うことは、思想・良心の自由を不当に制約するものとして許されないと考えられています。

裁判例をご紹介しましょう。福知山信用金庫事件(大阪高判・1978年10月27日)では、「そもそも本件のような内容の誓約書(筆者注:本件の誓約書には、過去の行為について十分自己反省をした旨、今後は良識に基いて合理的に行動する旨等が記載されていました)の提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約する近代的労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱(びんらん)行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でない」として、諭旨解雇を無効としています(その他の事案として、豊橋木工事件・名古屋地裁・1973年3月14日等があります)。

【参考】「福知山信用金庫事件」 / 労働基準判例検索(公益社団法人全国労働基準関係団体連合会)

非違行為が就業規則で定める懲戒事由に該当し、適切な懲戒処分の手続を経て、けん責処分として始末書の提出を命ずることは可能です。しかしながら、それを超えて始末書の提出を強制したり、本人の意思に基づくことなくあらかじめ用意した謝罪を内容とする始末書に署名押印を強要するという行為は、パワーハラスメントに該当する場合もあるでしょう。

始末書を提出しない社員の対応はどうする?

とはいえ、非違行為を行った社員に対し、何らの書面の提出も得られないという状態では、会社は当該非違行為の内容も詳細に分かりません。再発防止策などを講じることも難しくなるため、何らかの書面の提出を求めたいと考える経営者も多いでしょう。

一つの対応策に、謝罪や反省を内容とする“始末書”ではなく、事実関係を報告する“顛末書”の提出を求めることが考えられます。顛末書の提出は、懲戒処分のけん責としてではなく、業務命令の一つとして命ずることができます。顛末書には謝罪や反省が含まれていないため、これを強制しても思想・良心の自由を制約するものにはならず、提出を拒む社員には、顛末書の提出拒否を理由として、別途懲戒処分を行うことが可能になるのです。

したがって、“始末書”を提出せず、非違行為の事実関係などが一切不明であるような場合には、謝罪・反省よりも事実関係の把握を優先し、“顛末書”の提出を求めることを検討することが重要です。

【こちらの記事も】問題社員は解雇できる?重要なポイントと整備すべき就業規則【社労士が解説】

【参考】「福知山信用金庫事件」 / 労働基準判例検索(公益社団法人全国労働基準関係団体連合会)

*プラナ、吉野秀宏、amadank、maruco / PIXTA(ピクスタ)