いくら売上があっても、支払がなければ意味がありません。万が一取引先が期限内に代金を支払わない事態が起こった場合、どう対応すればよいでしょうか。
そこで『経営ノウハウの泉』では中小企業経営者向けウェビナーを開催。日比谷タックス&ロー弁護士法人 堀田 陽平先生にご登壇いただき、債権回収の基本ステップと対策などをセミナーで詳しく解説していただきました。
ここでは、その模様を4回に分けて連載していきます。本記事では第2回として、「債権回収の基本ステップ」について解説します。
第1回:なぜ取引先が代金を支払わないのか
第2回:債権回収の基本ステップ ←今回はここ
第3回:債権回収について万が一に備えた対応策
第4回:取引相手の信用力を確認するポイント【セミナーのQ&A付き】
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【登壇者】
堀田 陽平 弁護士
2020年9月まで、経産省産業人材政策室で兼業・副業、テレワーク等の柔軟な働き方の推進、フリーランス活躍、HRテクノロジーの普及、日本型雇用慣行の変革(人材版伊藤レポート)等の働き方に関する政策立案に従事。「働き方改革はどうすればいいのか?」という疑問に対するアドバイスや、主に企業側に対して労務、人事トラブルへのアドバイスを行っている。日経COMEMOキーオピニオンリーダーとして働き方に関する知見を発信。著書「Q&A 企業における多様な働き方と人事の法務」(新日本法規出版)など多数。
債権回収のステップ
担保がない一般的な取引において、取引開始から債権回収までの基本的な流れは上記のようになります。
「取引先に支払能力がない場合」の対策
支払いがなかった場合、まず行うべきことは再度“支払請求”をすることです。資力がないために支払えないケース(前回解説した「理由2」に該当する)は、交渉を行っていく必要があります。
交渉の中で、一定期間の支払を猶予したり、分割で払ってもらえるかどうかといった話し合いを行ったりします。ポイントになるのは、交渉して話がまとまったら、その後「言った・言わない」の問題にならないよう、しっかりと“合意書”をつくることです。その際には「支払いを怠った場合には強制執行に服する」といった“公正証書”を作成しておくことがベターです。これにより、不履行の場合の法的手続きがなくとも“強制執行”が可能になるからです。
「債務不履行・嫌がらせで支払われない場合」の対策
資力がなく支払の合意もできない場合や、債務不履行を主張している場合(前回解説した「理由1」に該当)や嫌がらせによる支払拒否の場合(同「理由3」に該当)には、“法的手続”が必要になります。
法的手段の内、基本的には①訴訟手続、あるいは②少額訴訟の手続を行います。どちらも同じ訴訟手続なのですが、②少額訴訟は請求額が60万以下の場合に原則1回で終わるような訴訟です。いずれも法的な判決が出されます。①訴訟手続の場合は、契約書や納品書といった“証拠”が重要になってきます。そしてケースによりますが、訴訟にかかる時間は半年から2年と考えておきましょう。もちろん、控訴された場合、さらに時間がかかります。訴訟にはそれなりの時間が必要であることは知っておいてください。
それから③支払督促を行う手段もあります。これは法廷に行かない手続で、簡易裁判所の書記官が支払督促を受けて督促状を出してくれるというものです。裁判所の判断が要らない手続ですが、相手から異議を申し立てられれば、やはり裁判になります。支払督促が有効なのは、嫌がらせによって支払がないケースです。
法定手続を経ても支払われない場合は「強制執行」
これらの対応の中で、状況に応じて請求額とコストから費用対効果を考えて手続する必要があるでしょう。そして多くの人は、裁判に勝つことですぐにお金が入ってくると思うかもしれませんが、それでもお金が支払われないということは多々あります。その場合に必要になるのが“強制執行”です。
裁判に勝っても回収できるとは限らない
裁判で勝訴した場合や、強制執行を行った場合でも必ず回収できるとは限りません。「お金がないところからは回収できない」というのが法的な限界なのです。
そのため、訴訟手続きに進む前に“現実的な回収可能性”を検討しておく必要があります。いくら嫌がらせ目的の不払いであったとしても、こちらからアクションしなければお金の回収は難しいでしょう。
相手が破産してしまった場合
そして最も怖いのが、相手が破産してしまうことです。
破産してしまうと、破産手続開始前の取引を理由とする債権は、“破産債権”となります。破産手続の中で破産債権の配当がある場合もありますが、本当に資金がない場合には配当すらされないことや、他の破産債権者と按分になってしまい配当されても全額回収が難しいことがあります。
破産前に支払ってもらうことも難しい
しかし、破産前に支払ってもらうことも難しい話です。破産手続の際は、弁護士が債権者である取引先に受任通知を送ります。この段階で特定の取引先“だけ”が債権を回収することはできなくなってしまいますし、我先にと債権回収しようとすることで、手続きの中でそれを取り消されることもあるのです。
第2回では、債権回収のステップを知るとともに、訴訟や強制執行が必ずしも未払い金の回収につながらないことを解説しました。ではどのように対応するべきなのでしょうか。次回は「債権回収について万が一に備えた対応策」について解説いただきます。
編集:二瓶 郎
*阿部モノ / PIXTA(ピクスタ)
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