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事業計画はコミュニケーションツールである~事業計画をうまく使うコツ【元CFO・現COOが解説】~

経営ノウハウの泉の編集部から「今月は“事業計画”について執筆をお願いします!」とご依頼をいただきました。難しいトピックが来たな……と内心思いながら執筆に取りかかっています。なぜ難しいか、これは事業計画については経営者の間でも色々と理解に違いがあるからです。今回は、元CFO・現COOとしてさまざまな会社で事業計画を作成してきた筆者の定義の元、事業計画の見直し方について解説します。

事業計画とは

ウィキペディアによると、事業計画とは「事業の達成目的、目標、達成する計画・過程を示した公式のステートメントまたはその文書」と定義されています。おそらく、この定義について異論を唱える人はそう多くないであろう一方、その解像度には大きな差があるものです。これは言語化レベルの違いや、「会社組織の均質化度合いの違い≒以心伝心の伝わりやすさ」など、複数の理由により生じるものと考えていますが、これらについては別の機会のトピックとして今回は割愛します。

今回、話を進めていくに際しては、事業計画を「事業目標を実現するために必要な戦略が規定され、マイルストーンとなる主要なKPIやその実現方法の方向性が規定されたドキュメント」と定義して、話を進めたいと思います。イメージしていただきたいのはパワーポイントとエクセルの両方です。それぞれのファイルには、以下のようなことが規定されているものとします。

パワーポイント

・事業目標と事業戦略
・市場環境、狙っていく市場規模
・競合状況と、当社・競合それぞれの優位性
・戦略を実現するための戦術の方向性と活動の時間軸

エクセル

・戦略、戦術と紐付いたいくら、いつ、といった具体的な目標数値と時間軸
・KGIを実現するためのKPI
・これらのKPI同士の関連性(掛け算・積み上げ・料率……)

【こちらもおすすめ】事業計画書とは?基本的な書き方と各項目ごとのポイント【わかりやすく解説】

事業計画はいつ見直すべきか

事業計画の見直しをかけるべきタイミングは、「原則論はいつでも」ということになります。事業目標を実現するための計画ですから、定性・定量の両面から振り返った際に現状が計画の想定から離れていれば見直しが必要という判断になります。当初想定からずれているにもかかわらず、事業計画の見直しを行わないことは、事業計画そのものを組織の中で形骸化させてしまうリスクが高く、おすすめできません。

ちなみに、前述した“定性・定量の両面から見直した上で”という点は重要だと思っています。大体どの企業でも週次や月次など、活動の内容と結果数値を見直すタイミングがあると思います。これらの定期的なチェックの時期を活用しつつ、社内の他のメンバーが見ても納得感のあるタイミングと方法で計画をリバイズしていくのがよいでしょう。

経営者の中には非常に直感が鋭い方もいらっしゃって、「即断即決で変えていく」という方もいらっしゃるかと思います。ここでご留意いただきたいのは、“事業計画のコミュニケーションツール”としての意味合いです。小さい規模の会社であれば経営者の意思決定が行き届くため、そんなに大きなハードルはないのかもしれません。

しかし、組織が一定程度の規模になってくると、「社員みんなといつでも意思疎通できてます!」というわけにもいかず、会社の公式なイベント(社員総会や月次の振り返り会など)を通して情報共有をするといった会社もあるかと思います。そういう状況において、経営者の独断で事業計画をリバイズすることは、社員の腹落ち感を醸成する観点からあまり得策ではありません。そのため、定性・定量両面から計画を精査した結果リバイズするという結論に至ったという道筋を見せてあげることは、会社の一体感を醸成するための一つの手法となり得ます。

事業計画をうまく活用する

前出の論点についてもう少し深堀りしてみます。会社の規模が数十人規模以上の会社においては、事業計画のコミュニケーションツール性をよく理解し、腹落ち感を醸成できている経営者の方が成功している印象を受けています。これは大きく2つの観点から有効なのだろうと考えます。

まず1つ目は、「現場の自発性の醸成の観点」です。たとえば、事業計画が社内で浸透している会社では、○○という活動をやるべきか、やるべきでないかといった判断は、計画実現のためにどう役立つかを理解できているマネージャーがいれば現場が判断することができるでしょう。現場が自発性を持つことは、とっさに起こった環境変化に順応して施策を変えていくことができます。一方で、現場に活動を変革する自発性がなく、すべてを経営サイドで決めていくというスタイルの場合、ときには経営サイドが気づくまで数週間結果が出ない活動をしていた……といった状況にもつながり、計画が失敗する内的要因の一つともなりうるので、留意する必要があります。

2つ目の観点としては、「施策を続ける妥当性の担保」です。どういった事業においても、成功するためには正しい努力を“一定期間”積み重ねる必要があります。施策の中にはすぐには結果数値に結びつかない施策もあるでしょう。そんな中では「今は数値には直結しないが、積み上げることで効果が顕在化するので戦略上この活動を続けるべきだ」という(経営陣も含めた)社内のコンセンサスが必要です。

会社経営において、明確な犯罪行為を除くと正しい活動・正しくない活動の定義は存在しません。すべて価値判断次第ではあるものの、その価値を規定するのがまさに“事業戦略”です。とくに新規事業を始めるときや、事業のピボットをした直後には、こういった時間的猶予が計画実現のために必要となることが多くあります。こういった猶予を計画内に織込めているかどうかが、事業計画実現のために重要な要素となる事例が多く見受けられます。

事業計画を見直すときに注意したいポイント3つ

今回は事業計画のコミュニケーションツールとしての特徴を示唆しつつ、組織内での活用方法を説明させていただきました。最後にまとめとして、事業計画を修正する際に考慮したい事項を3点お伝えします。

1)コンセンサスメイキングを意識する

コミュニケーションツールとして事業計画を考えた場合、どう事業を伸ばすかが計画内で明示されているだけでは不十分です。事業計画について社員が腹落ちしている状況をつくりましょう。そのためには、①現場/マネージャーを事業計画立案時に巻き込む、②事業展開の前提となる事業環境について共通の認識を醸成する、③事業が伸長したときに共にメリットを得られる制度を導入する(ストックオプションなど)など、施策を複合的に掛け合わせて行うことが効果的です。

2)計画の調整には「肌感」を活かす

事業計画作成時には、どうしても「ベスト」や、「ベストの結果がつながったら……」という最善ベースから立案されるケースが多いように思われます。こういった計画は無駄がなく、ある面施策が失敗する余裕がない計画になりがちで、初月から未達といった状況が発生しやすい計画です。その一方で、「できるだけ外さない計画をつくろう」という観点からネガティブを想定して計画をつくるということも考えられます。ただし、保守的すぎる計画にしてしまうと事業計画が外れないという結果は得られても、事業計画を通して会社が成長していく絵姿を社員に伝えるという役割を果たせないことになってしまいます。これらの問題を避けるためには、温度感調節として経営者が積極的にバランスの取れた“肌感”を織込んで計画を調整することが求められます。

3)責任と権限を紐付ける

事業計画の実現性を向上させるためには、部下に対してこれをやれ、あれをやれと責任を定義するだけでは不十分です。責任を定義しても現場活動を規定する権限を付与しないことには、前出のような自発性を発揮することはできず、これは両手を縛ってボクサーをリングに上げるようなものです。権限は結果を出してから……と考える方もいらっしゃるでしょうが、そうすると自発性のない活動の中でしか結果を出したことがないマネージャーが増えることとなり、中長期的には会社成長の障害となります。不安があったとしても任せるしか選択肢がないと考え、権限と責任をセットで割り振り、判断の質を経営陣・マネージャーが連携して上げていくことをおすすめします。

以上、事業計画をコミュニケーションツールとして活用する際に、考えていただきたいことのご紹介でした。みなさまの事業伸長のご参考になれば幸いです。

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