「採用のアンマッチ」が早期離職の理由?中小企業における採用のポイント
採用した人材の育成が進行する前に早期離職してしまう、どこをゴールに据えて人材育成を図るべきか……?
そういった人材育成についての課題を抱え、↓大いに悩んでいる中小企業の経営者・幹部は少なくないことでしょう。
そこで『経営ノウハウの泉』では中小企業経営者向けウェビナーを開催。多くの中小企業経営者の課題解決にコミットし価値を創造してきた野本理恵氏と、中小企業の戦略改革・実行職人である中島伸喜氏が登場し、人材育成にまつわる課題解決をテーマにそれぞれの視点から解説しました。
ここではその模様の前半、野本理恵氏による「これからの幹部に必要なのは知識・経験より採用」について掲載します。
【登壇者】
野本理恵氏
2011年にSMC税理士法人へ入社。経営支援室責任者として中小企業のコンサルティング業務を担う。
2017年4月に独立し、Nomoto Consultingを設立。会社の事業計画の策定や『儲かるための数字の見方』をテーマにクライアントの経営会議や営業会議へ参画。目標数値達成のためのPDCAの仕組みづくりやモニタリング、社員研修等も実施しています。
目次
「気合と根性論」の人材育成はもう限界
企業の人材育成に必要なことについてお話する前に、皆さんがこれから新卒で採用しようとするような若手人材が、どのような学校教育のなかで育ってきたのかということに簡単に触れたいと思います。
気合と根性論は通用しない
私自身も、高校生と中学生の男子2人の母親であるのですが、現在の子どもたちを取り巻く学校教育環境というのは、自分が子どもだったころに比べると大きく変わっていることに驚きます。
今の子どもたちは、男女を問わず名字に「さん」付けで呼ばれています。性別や個々の差をなくすという意味合いがあります。
そしてマラソン大会のような、本来であれば順位を競うような催しでも明確な順位付けをしないという傾向にあります。「あらゆることになるべく優劣をつけず、楽しくみんなで仲良くやっていこう」という傾向が非常に強くなっているようです。
現代の若者の特性
では若者にどのような特性があるのか、具体的にお話ししましょう。
「自分らしく…」にこだわる
個性とわがままが混在しているような性質を持っている人が多いのが特徴だと思います。本来の個性は、周囲に悪影響を与えないうえで主張するものだと思うのですが、それを考慮しないわがままに感じられる行動や言動も目につきます。
「自分らしく働きたい」、「自分らしく生きたい」、「自分に合う仕事をしたい」そのような周囲を考慮しないで“自分”というキーワードにこだわっている若者が多い傾向です。
一方で、「30歳になったときにどんな自分でいたい?」という問いにはうまく答えられない、そういった若者が少なくありません。
自責と他責の捉え方が異なる
そして、自責と他責についての捉え方が経営者世代とは大きく異なっているのも特徴です。仕事一つひとつをどれだけ自分事にできるかということは重要ですが、自分事にしていかないと周囲は変わってくれないという考えが希薄なのです。
これは上に挙げたような、子どもの頃から周囲が自分に合わせてくれるような環境に身を置いている中で、自責を問われることが激減しているためです。自分が変わらなくても周囲が自分の過ごしやすいように変わってくれると思っているのです。
こういった環境で育ってきた若手人材の特性を、育った時代の異なる経営層が批判し、「気合と根性論」を押し出しながら人材育成をすることはもはや難しい、ということをまず把握していただきたいと思っています。
未来の新卒人数は決定済み
さらに、若手人材自体の数がすでに決まっているということも重要です。
出生数の推移をみると、年々低下していることがわかります。2023年の新卒者数が約120万人でした。上のグラフには含まれていませんが、2022年の出生数は80万人を切って約77万人となっています。つまり、彼らが新卒人材となる22年後、その人数は77万人から決して増えない、すでに決まっているのです。
ここで挙げたような「若手人材に気合と根性論は通用しない」「未来の新卒人数は決まっている」という2つのキーワードを踏まえながら、どのように若手に向き合って人材育成すべきか、ということを考えることが必要なのです。
人材育成で必要なのは知識・経験より「採用」
人材育成に悩みはつきものですが、人材育成に必要なのは幹部の知識や経験よりも「採用」です。
採用された若い社員の研修や育成のお手伝いをするなかで、現場でのアンマッチや早期離職といったことが、中小企業での大きな経営課題になっていることを感じます。
前述したような学校教育の傾向や労働人口の減少といった視点から、人材を本当に育成したいのであれば、人材の採用について再考・再検討することで、自社の方向性がよりクリアになっていくと思っています。
「キラキラワード」が採用のアンマッチを生み出す
たとえば、上記のような「キラキラワード」を多用して採用をしていないでしょうか?
こういった自社にとっていいところだけを切り取ったことを、あたかも自社のすべてであるかのように発信して採用活動している中小企業は少なくありません。人材不足のなか、大企業や外資系に行こうとする人材を自社に取り込もうと、こういったブランディングを打ち出しているのです。しかし、実際入社してみると必ずしもそうではないことが多々あります。
上記が、キラキラワードに対する実情です。
服装が自由とはいえ、客先に行くときに非常識な服装では行けないのが実際のところです。また、自分らしく働けるといっても、入社したての若手が自分らしさを把握できるものでしょうか。入社したての若手社員にリモート勤務を許可するのは現実的ではないでしょう。そして、20〜30代が活躍する職場ではその上の世代はどうしているの? という疑問も生まれるでしょう。さらに、さまざまな福利厚生が提示されてもしっかり有給休暇を取れる中小企業でなければ絵に描いた餅になりかねません。
こういった表面的なキラキラワードを使った採用では、入社後に現実とのギャップがより強く感じられることになり、育成にたどり着くことなく辞めてしまう原因になるのです。
また、中小企業各社が、こういったワードを使った採用を競って行うことで、アピール合戦に陥っているのではないかと危惧もしています。中小企業の採用においては、福利厚生や雇用条件で大企業にはかないません。
中小企業の採用は「だけど」構文がカギ
「○○だから入社したい」と思われるのではなく、「○○だけど入社したい」と思わせるようなアピールを行なった採用が必要です。
「給料がいいから」「オフィスがキレイだから」「自分の好きな職種につけるから」といった前提条件があって「入社したい」と思わせるのではなく、自社の「だけど」構文をつくるのが肝要だと考えます。
たとえば「残業はちょっと多めだけど」「創業して年数はまだ浅いけど」「社員数が少なくて兼務業務が多いけど」「リモート勤務はなくて毎日出社だけど」といった、自社の弱さをアピールし、キラキラではないリアルな泥臭さを前面に打ち出してアピールしていくべきだと考えています。その上で自社の魅力となるキーワードを提示するのです。
また、中小企業の新卒採用人数は決して多くはありません。前述しましたが、今年の新卒者数は120万人ですが、その全員に自社のことを好きになってもらう必要はないわけです。
5人採用したいと考えるのであれば、5人に刺さるようなキーワードで共感を得られればいいのです。弱みを知ったうえで入社した人材は、ギャップを感じることもなく早期離職することもなく、育成も可能となることでしょう。つまり、採用の入り口というところから人材育成は始まっているのです。
まとめ
まとめると、採用において中小企業は“謙虚”であることが重要だということです。まず、自社を見る目線が謙虚であるべきです。そして、すべての人材に好かれる必要はないという謙虚な姿勢も必要です。ただしそこに“媚び”がある必要はありません。
これらのことを考慮していただきながら、自社の今の採用コンテンツを見直してみたり、現在の新入社員の人たちが自社のどういうところに惹かれて入社したのかといったことを確認したりすることが、新たな視点として人材育成に役立つことでしょう。
時代の変化に合わせた人材育成のためには、採用から見直しを図る必要がありそうです。ウェビナー後半部では、中島伸喜氏によって「幹部が知るべき人材育成の本質」について解説されました。次回はそちらについて掲載していきます。
*Gugu / PIXTA(ピクスタ)
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