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育成

人材が育たない?課題解決の本質は「課題把握」にあり

2023.11.15

「採用した人材の育成が進行する前に早期離職してしまう、どこをゴールに据えて人材育成を図るべきか?」

そういった人材育成についての課題を抱え、大いに悩んでいる中小企業の経営者・幹部は少なくないことでしょう。

そこで『経営ノウハウの泉』では中小企業経営者向けウェビナーを開催。多くの中小企業経営者の課題解決にコミットし価値を創造してきた野本理恵氏と、中小企業の戦略改革・実行職人である中島伸喜氏が登場し、人材育成にまつわる課題解決をテーマにそれぞれの視点から解説しました。

ここではその模様の後半、中島伸喜氏による「幹部が知るべき人材育成の本質」についてと、ウェビナーに寄せられた質問に対する野本氏、中島氏の回答を掲載します。

【登壇者】

中島伸喜氏
実行支援コンサルタント
新卒で佐川急便セールスドライバーに。1年半で500万円の元手をつくり、20代で2度起業。35歳で島根へIターン。
地域メディアを複数立ち上げ後独立。元外交官。得意分野:売上がアップするチーム改革、人材確保に向けた風土改革、VUCA時代の幹部育成、経営方針作成支援等。中小企業の売上、人材強化、採用をマーケティング視点で支援中。

*VUCA…不確定要素が多く、将来の予測が難しいこと

人材育成の課題

私が活動している島根県や鳥取県で、中小企業の経営者や幹部に「売上強化・社員強化・採用強化の内、どれが最優先ですか?」と経営課題を尋ねることがあります。

すると、8割は“社員強化”という回答です。地方の中小企業に限らない話ですが、特に地方では人材の採用が難しい部分があるため、今いる社員を強化したいと考える経営者や幹部が多いということを示しています。

そして社員の強化を考えている企業に、私は2つの問いかけをします。

「どのレベルの習熟度を目指すのか」、「現状の課題を把握できているか」ということです。この2つの課題を考えることで、人材育成の方針が見えてくるのです。

習熟度の階層

上の図は、人材の習熟度の階層を示しています。

左に行くほど習熟度は浅く、右に行くほど深くなります。また左に行くほど意識、右に行くほど感覚、という意味合いを持ちます。

習熟度は図のように階段のようになっていて、はじめは「知る」ことから始まります。教えてもらうことで知識やスキルを伸ばす。そこから「理解」が生まれ、「できる」ようになり、お金をもらえる「プロレベル」に達し、「習慣」から「文化」になり、「感覚」へ至ります。右に行けば行くほど、俗にいう「余人を持って代えがたい」というほど感覚的なスキルをもつ人材となります。

たとえマニュアルがあったとしても、その人材と同等の仕事はできない、そういう習熟度です。そして、幹部社員こそ右側の習熟度に至っていてほしいと私は考えます。

幹部候補が育たない悪循環

多大なコストをかけ、社員教育や研修を行っているのに結果が伴わない、幹部候補が育たないという企業の場合、一定のパターンがあります。

パターン1:「知る」「できる」の段階を繰り返してしまう

教育を受けた社員は「知る」の段階を経て、優秀なら「理解する」「できる」といった段階まで進むのですが、実際の現場では次第にうまくいかなくなってしまうこともあります。そこで会社は再び「知る」の段階へ戻って社員教育を行うという、この「知る」から「できる」の階層を繰り返すことによってコストや時間はかかるものの習熟度は上がらない、という悪循環に陥ってしまうのです。

パターン2:わかった気になった社員が教える

さらに厳しい言い方になりますが、研修を受けたり本を読んだりして「知る」「理解する」という段階に至った社員が、わかった気になって会社で教えてしまう、そういうパターンもよくありません。たとえば社内のデジタル化などが典型的で、わかった気になっている社員に任せてうまくいかない、ということはよくあります。知っただけ、理解しただけではできるようになりません。そして「できる」レベルの人と「プロレベル」の人にも大きな差があります。さらにいうなら「プロレベル」の人と「感覚」的に仕事をこなす人も非常に大きな乖離があります。

たとえば100人規模の企業であれば、そのうち5%から10%は幹部として活躍してもらう必要がありますが、その人たちが左側ばかりに固執したような研修を受けていると、人材の成長が見込めない、10年後に後任を任せられる人材がいない、という事態になってしまうのです。

習熟度に応じて求められること

習熟度に応じてどういったことが求められるかをまとめたのが上の図です。

この中の「可燃性の人」というのは、目標や役職を与えられて「頑張るぞ」となる人で、「自燃性の人」は、そういった外部環境を問わずどんな状況でも、たとえばほかの人ならやる気をなくすような状況下でも自ら燃えて努力ができる人、という意味合いです。

つまり企業の幹部には、右側の能力が求められることになるわけですが、では実際にどうやってその課題を解決していけばいいのでしょうか。

課題解決の前に課題把握の強化を図る

企業内の課題が長期にわたって解決しない場合、それは課題の解決の前に現状の課題を把握できているかどうか? という問いかけが必要です。

課題を把握できていないために的外れの解決手段を執っているケースが多いのです。たとえば、以下の例題があります。

例題1を解決するには、すぐさま警察へ連絡すれば済む話です。ご老人は平謝りで道路から去るでしょう。しかし根本的な問題は解決しません。バイパスを歩いていたご老人は自動車免許を持ったことがない、道路交通法を知らない人かもしれません。またご老人が参照していた地図や道路標識がわかりにくかったことが理由かもしれません。つまり、単純に何かを改善すればすぐさま解決できる問題ではない、というのが答えです。

例題2を解決する場合、子どもに「脚力を付ければいい」「腕を速く振ればいい」とだけアドバイスするでしょうか? 「速く走りたい」と言うその子はどのレベルまで速くなりたいのでしょうか? 運動会で一番か、それとも将来オリンピックに出たいのか、サッカー選手になりたいのか、それともマラソンで好成績を残したいのか……ただ「速く走りたい」という課題を与えられても、そこには問題が多数あります。課題を明確にして、間違えようがないところまで具体化して解決方法を導く、ということが最も重要になってくるのです。

つまり、人材研修をする場合の結論は、知識や経験を増やしていくことも重要ですが、課題を見つけられる人を育成することが大切ということです。

そして、何が課題であって、あなたにはこの責任を任せたい、目標はこういった数字で期日はいつまでに、という明確な指示ができる幹部がいれば理想的です。

自分が向かい合っている課題の根本的な部分を把握し、それを解決するためにできることを感覚でつかむ、それを行うためには、冒頭で話したような「知る」「理解する」といったレベルの習熟度だけでなく、「プロレベル」以上の習熟度を身につける必要があるのです。

質疑応答

ウェビナーに寄せられた質問と、それに対する野本氏、中島氏の回答は以下のとおりです。

Q:個人商店に近い業態ですが、自社で後継者をつくれるか、それとも魂を継承してくれるような外部人材や組織を頼ったほうがいいのかを考えています。

A:社長の魅力、マンパワーで会社を牽引しているという意味で「個人商店」とされていると思うのですが、そういう企業でも、外部人材やM&Aで会社を引き継いでもらうことは可能だと思います。ただ一歩踏み込んで話すと、「任せる人材がいない」という経営者は、実際は任せる気がそもそもないことが多いです。そういう経営者が長く経営していると、どうしても任せられない社員が残ってしまうことになってしまうのです。だから経営者が気持ちを切り替えて、後継者になりうる人を採用していかなければならないと思います。(野本氏)

A:自分の部下に後継者になる人材がいない、と感じているケースだと思うのですが、この場合、私や野本さんのような外部の専門家を交えて厳しめに人材育成をすることが考えられます。また何人かの候補人材を厳しい環境において、イレギュラーな事態にも対応できるような人材への成長を促すことで解決するかもしれません。自分の部下に、自分と同じ能力や同じキャラを求めすぎるのもよくないでしょう。(中島氏)

Q:チームメンバーのモチベーション向上や目標達成に向けた自発的なアクションを促すための目標設定はどうしたらよいでしょうか?

A:そもそも目標は達成することが究極の目的ではなく、目標を立てることによってこのままの状態では目標を達成できないよね、と自覚して行動が変わることを促すものです。だから、何か目標を立てたとき、メンバーが「どうせ達成できない」と思うことは想定内なんです。そこでどう行動していくかを上司や幹部がフォローしていくことで、モチベーションは上がっていくのだと思います。達成するしないで評価する会社の社員さんのモチベーションはたいてい上がらないものです。(野本氏)
A:人は何か指示があったほうが動きやすいものです。目標とは所詮その程度と捉えるべきです。その目標を達成すること自体はそれほど重要ではなく、達成しようといろいろアクションすることが重要であり、たとえ目標を達成できなくてもそこには反省すべき点、改善できる点といった発見が生まれます。目標は必ず達成しなければならない、という概念こそがメンバーのモチベーションを下げると捉えてください。(中島氏)

Q:現場の人間ですが、幹部になるための心構えを経営者が求める期待を知りたいです。

A:私は、いい社長いい幹部というのはチームをその気にさせられる人だと思っています。そういう能力を身につけることが重要だと思います。(中島氏)

Q:採用において、内定承諾までに数回接点があると思いますが、「○○だけど○○」はどのタイミングで訴求するのがよいのでしょうか? 最初はメリットを押し出したほうがよいのではと思うのですが……

A:これは勇気を出して最初から訴求すべきでしょう。「○○だけど」構文は、最初から出していったほうが、求職者にとっても企業にとっても互いのギャップを早くから感じられることになり、両者のメリットとなると思います。最初から訴求して、それで人が集まらないのであれば、その構文を練り直すべきでしょう。(野本氏)A:採用は企業と求職者をマッチングすることが目的であって、すべての求職者に自社を好いてもらうことが目標ではありません。大衆受けを狙うのではなく、自分たちの会社のいいところ悪いところを晒しても入社したいという人材を見つけるべきです。(中島氏)

Q:自社の弱みについてどのように認識したらいいでしょうか。経営者や幹部目線で考えるのか、現場の社員目線で弱みをアピールするのか、採用を踏まえて弱みを認識するプロセスはどのようにすべきでしょうか?

A:現場の社員が、現状認識として自分の会社がどういう状況であるかを話し合ってみるのがいいと思います。社員同士が飲みにいけば、会社の愚痴が多少は出るものです。それを挙げてまとめていけば、それが自社の弱みになるでしょう。(中島氏)

***

人材育成が課題の企業においては採用方法から設計し直す必要があること。また、目標設定が重要でありながら、その目標を達成することが最重要ではない、ということなど、幹部の方にとって示唆に富んだ内容だったのではないでしょうか。ぜひ自社の目標設定とともに問題把握に努め、人材育成の糧にしていただければと思います。

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