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女性3人がPCをのぞき込んでいる様子

あなたの会社は大丈夫?長期インターンシップの受け入れ時に注意したい労働法上のポイントを解説

2024.06.25

2022年4月18日、経団連と大学関係団体等の代表者によって構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」(以下「産学協議会」)により、2021年度報告書「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」が公表された。それを受けて同年6月13日、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意により「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(以下「3省合意」)が改正。インターンシップで得た学生の情報を広報活動や採用活動に使用できるようになり、インターンシップへの注目が集まっています。

もっとも、インターンシップ、特に長期インターンシップを実施するにあたっては、労働法との関係で注意が必要な点があります。そこで本記事では、長期インターンシップを実施するにあたっての留意点を解説します。

長期インターンシップとは

「インターンシップ」とは

「インターンシップ」は、法的に定義づけられた概念ではありません。ただし産学協議会の報告書では、「学生が、その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(会社の実務を体験すること)を行う活動(但し、学生の学修段階に応じて具体的内容は異なる)」としています。
【参考】産学協働による自律的なキャリア形成の推進/経団連

【こちらもおすすめ】今注目はインターンシップ! 中小企業が新卒採用で活用する「始めの一歩」

「長期インターンシップ」と「短期インターンシップ」

一言でインターンシップといっても、「長期インターンシップ」と「短期インターンシップ」とがあります。どの程度の期間が長期インターンシップであるか、明確な基準はありません。1か月以上とする例もあれば、3か月以上を長期と呼んでいる例も見られます。短いところでは、5日以上の場合でも長期としていることもあります。

いずれにしても法的な概念ではなく、そこまで厳格に捉える必要はありませんが、少なくとも1日で終了する「1dayインターンシップ」は、これに当たらないでしょう。

「長期インターンシップ」と「アルバイト」

長期インターンシップと混同しやすいものとして、「アルバイト」があります。アルバイトもまた法的な概念ではなく、捉え方はさまざまです。一般的には「比較的短い期間に短時間の労働を行うものがアルバイト」というイメージなのではないでしょうか。

両者の違いとして、アルバイトは一時的かつ短時間ではあるものの、目的が「労働」です。他方で長期インターンシップは、大学生・大学院生の教育の目的である場合や、就職活動(会社にとっては採用活動)としての目的である場合など、さまざまな目的のものとで行われます。特に、就職活動が目的の場合には実務についてもらうこともあり、実際にはアルバイトと近接するケースが多いです。

長期インターンシップと労働法の関係

目的の違いはあれど実際の働き方をみると、長期インターンシップはアルバイトと近接し、「労働者性」が問題になりかねません。労働基準法9条では、労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されており、これを「使用従属性」といいます。使用従属性がある場合には、労働基準法だけでなく、労働契約法や労働安全衛生法、労災保険法、最低賃金法などの基本的な労働関係法規の適用を受けることになります。

この点、厚労省の解釈通達によれば、「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されない場合」には、「労働者」に該当しないとしています。一方で、実態に照らして「直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合」には、「労働者」に該当することになります(平成9年9月18日基発636号)。

そして、同通達において参考とすべきとされている商船大学などの実習生における労働者性の解釈通達においては、実習生は「実習が大学などの規程に従い行われている」「現場実習が一般労働者とは明確に区別された場所で行われ、あるいは見学により行われている」などの場合には、労働者ではないとしています(昭和24年4月13日基収886号)。

したがって、基本的に長期インターンシップの学生は労働基準法上の「労働者」とはならないものと思われますが、その就業体験が一般の労働者と同じ様に行われ、その業務の成果が当該会社に帰属するなど「見学や体験的なもの」とは言えないような場合には、「労働者」に該当する可能性があります。

【参考】労働基準法/e-Gov
【参考】インターンシップの導入と運用のための手引き/文部科学省
【参考】大学等の授業科目として行う企業内実習等の実施に係る/文部科学省

長期インターシップの制度設計上の注意点

インターンシップの契約上のポイント

長期インターンシップを実施する場合には、契約書を締結しておくことが、権利関係の明確化のために重要です。特に、以下の点については明確化しておきましょう。

  • インターンシップの期間
  • インターンシップの内容
  • インターシップの時間帯、曜日
  • インターンシップ中の報酬(交通費含む)
  • インターンシップ中及びインターンシップ後の秘密保持

報酬に関する注意点

上記のうち特に重要になるのは、報酬の点です。すでに述べたとおり、インターンシップも単なる「見学や体験的なもの」ではなく、実際の業務を行い、それが当該会社に帰属し業務に用いられるのであれば、「労働者」として扱う必要が生じます。

長期インターンシップは実際の業務を経験する場合が多く、「労働者」とされる可能性が高いといえるでしょう。その場合には、インターンシップ生に対しても最低賃金法の適用があるため、最低賃金の支払いが必要です。また、労働基準法の定める賃金払いの原則に従い、毎月払いの原則などが適用されることになります。

したがって、長期インターンシップを行う場合はアルバイトに近いものと考え、アルバイト契約に準ずる労働契約書ないしは労働条件通知書を作成しておくとよいでしょう。なお、インターンシップ生が「労働者」に該当する場合には、労働基準法上の労働条件明示も求められます。

インターンシップ中の事故

労働者性が肯定されるようなインターンシップ中の事故によって、インターンシップ生が負傷した場合などには、労災保険法が適用されます。他方で、労働者性が認められない場合には、労災保険法の適用はありません。ただし、学校の正課または課外活動としての実習である場合には、学生教育研究災害傷害保険の適用対象になります。この点は任意加入の保険なので、学校側に加入の有無を確認しておくとよいでしょう。

ハラスメント

厚生労働省が労働施策総合推進法に基づいて策定した、いわゆる「パワハラ防止指針」では、「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容」として、自社の従業員がインターンシップを行っている者に対する言動にも注意を払い、配慮するよう努めることが望ましいとしています。

「望ましい取組」であって法的な義務ではありませんが、自らの事業場においてインターンシップを受け入れる以上は、安全配慮義務を負う可能性があるでしょう。当然ながら、インターンシップ生からの会社に対する評価にも大きく影響します。インターンシップ生を受け入れるにあたり、インターシップ生に対してハラスメント行為を行わないこと、その他インターンシップの実施にあたって事故などを起こさないよう、指導・研修を実施しておくとよいでしょう。
【参考】事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針/厚生労働省

【こちらもおすすめ】ハラスメントを見落とした企業はどうなる?中小企業も例外なし【弁護士が解説】

まとめ

一言で「インターンシップ」と言っても長期と短期がありますが、一般に長期インターンシップによる方が、採用後の定着や活躍の度合いが高いとされています。就活ルールの改正も相まって、長期インターンシップへの注目が集まっているのが現状です。

長期インターシップの場合、常に労働関係法令の適用があるわけではありません。制度設計次第になりますが、長期インターンシップにおいて体験的な業務にとどまらず、実際の業務を行わせるような場合には、労働者性が肯定されることに注意して制度設計しましょう。

*metamorworks, takayuki, create jobs 51, metamorworks / shutterstock

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