大企業の経験豊富な人材が出向する「越境学習」とは?中小企業が導入するメリットや最新事例も紹介
近年、越境学習に興味を寄せる中小企業経営者が増えています。越境学習とは、従業員が所属する組織の枠を越えて、異なる環境に身を置き新たな知識やノウハウを学ぶ取り組みで、主に大企業で働いている経験豊富な人材が、一定期間中小企業に出向く試みを指します。中小企業にとって、会社の成長につなげる方法として注目されています。本記事では、この越境学習について中小企業の視点から解説します。
目次
大企業の人材を活用する「越境学習」とは
越境学習の形式にはさまざまな種類があります。以下はその一例です。
種類 | 例 |
ワーケーション(休暇型) | 農村地域に滞在して地元の農業プロジェクトに参加する |
社外留学(業務型) | 自動車メーカーのエンジニアがIT企業に出向する |
越境学習は、双方にとって有益な交流ができる取り組みです。人材を受ける中小企業側のメリットは後述します。人材を出向させる大企業側のメリットとしては、普段とは異なる環境で仕事ができるため、新しいスキルや広い視野を得られる点が挙げられるでしょう。
中小企業にとっての越境学習のメリット
ここからは、中小企業にとって越境学習にどのようなメリットがあるのか、実際に詳しく見ていきましょう。
新たな知見やノウハウの習得につながる
中小企業にとって、大企業の最新の知見やノウハウを学べるのは、非常に貴重な機会です。経営戦略、マーケティング、技術開発などの分野で専門知識を得ることで、新しいビジネスモデルの構築や業務の効率化が進み、中小企業にとってイノベーションにつながるでしょう。また、違う業界の視点を取り入れることで、自社の問題解決に役立つ新しいアプローチを見つけられるかもしれません。
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大企業とのコネクションができる
大企業とのつながりを持てることも、越境学習のメリットです。これをきっかけに、新たなビジネスチャンスが広がる可能性が高まるでしょう。さらに、業界のトレンドや最新の経営手法を学ぶことで、中小企業にとって非常に価値のある知識が得られます。大企業の人材と直接話ができるため信頼関係を築きやすく、将来的にはビジネスパートナーになれるかもしれません。
短期集中で優秀な人材を活用できる
中小企業にとって、優秀な人材を短期間で活用できることは大きなメリットです。特に期間限定のプロジェクトなどでは、即戦力の人材が必要になります。しかし、社内だけでそのような人材を確保するのは難しいでしょうし、コンサルタントを活用する際には費用が高額になることも多いです。 越境学習では、大企業で経験を積んだ人材を一時的に借りることができるわけです。その人の持つスキルや知識を存分に活かせば、短期間でも大きな成果を上げられるかもしれません。
長期的な人材育成ももちろん大事です。しかし、時と場合によっては、こうした戦略的な人材活用も必要でしょう。越境学習は、そのニーズに応えられる仕組みです。
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越境学習の最新事例
では、実際に越境学習を行った企業にはどのような事例があるのでしょうか。
【参考】出向状況/令和5年度大企業と連携した中小企業・スタートアップの成長促進に向けた人材交流支援事業
三菱重工業からUSPジャパンに出向した事例
三菱重工業の生産計画・管理者が、USPジャパンにサステナビリティ支援および地域振興支援のコンサルタントとして出向しました。USPジャパンは、社会課題解決に取り組む事業変革を推進しており、この取り組みを加速させるために、大きな社会インパクトを視野に入れた業務遂行のスキルを持つ人材を求めています。
キヤノンからTDSEに出向した事例
キヤノンのエンジニアが、TDSEにデータ活用AIシステム事業のコンサルタントおよびプリセールスとして出向しました。TDSEは、異なる視点を持つ人材によるダイバーシティの促進や事業間シナジーを求めており、出向者には既存の画像分析スキルを活かしてプロジェクトを推進することが期待されています。
中小企業にとっての越境学習の注意点
大企業と中小企業のさまざまプロセスの違いについては、注意が必要です。まず、大企業では一般的に、物事が決まるまでに中小企業よりも時間がかかることが多いです。これは組織が大きく、組織内のステークホルダーへの根回しや稟議などに時間がかかるためです。一方、中小企業はスピード感を重視することが多く、そのギャップに戸惑う可能性があります。
また、大企業では豊富なリソースを背景とした施策を打つことが多く、越境学習によって出向する人材も豊富なリソースに慣れている可能性が高いです。中小企業では、施策を打つのに必要なリソースに制限がある場合が一般的で出向者が制約の違いに慣れるのに時間を要する場合があります。それをサポートするのが、経営者や経営層の役目です。中小企業の文化や制約をしっかり理解してもらい、柔軟に対応できるよう導くことが重要です。
越境学習受け入れの適切な時期と条件
越境学習を導入するのに適したタイミングは、自社が成長の岐路に立ったときです。新しい市場に挑戦したり、新製品を開発したりするときには、大企業のノウハウが非常に参考になるでしょう。また、社内で人材育成が必要になったときも、越境学習を導入するよいタイミングといえます。
ただし、いくつか条件があります。受け入れ側の企業にはそれなりの体制が必要です。人材を受け入れるための環境を整えたり、学んだことを活かせる土壌をつくったりしないといけません。また、越境学習の目的をきちんと決めておくことも重要です。さらに、受け入れた人材とのコミュニケーションプランを事前に考えておく必要があります。これにより、スムーズに適応し、最大限の成果を上げることが可能になります。
越境学習の事業参加の流れ
越境学習の事業参加の流れについて、東京都の取り組みを例にして解説します。しっかり準備して、有意義な越境学習の機会にしていきましょう。
【参考】中小企業・スタートアップの方/令和6年度 ⼤企業と連携した中⼩企業・スタートアップの成⻑促進に向けた⼈材交流⽀援事業
1. 事業説明会
事業説明会では、事業趣旨・概要説明、在籍型出向および副業の仕組み、事業スキーム、参加要件、参加方法などについて伝えます。参加は必須ではありませんが、参加を推奨しています。
2. 申し込み
公式サイトの申し込みフォームから応募します。「本事業に参加する目的と期待する成果」「出向や副業受入による自社の事業・組織成長の進め方に対するビジョンや計画等」などについて、きちんと記入して提出してください。
3. 選考
応募企業を「応募資格に適合しているか」「本事業に参加する目的や期待する成果が具体的であるか」などの観点から選考を行い、マッチングを決定します。
4. 結果通知
マッチングの結果が、すべての応募企業に通知されます。その後、契約手続きや事前研修が行われます。
まとめ
中小企業にとって、越境学習は大きなチャンスです。大企業の知恵や経験を吸収できるだけでなく、ビジネスの可能性も広がります。 新しい知識や技術が身につくのはもちろん、大企業の方々とつながりができたり、優秀な人材を短期間で活用できたりと、多数のメリットがあるのです。 組織文化の違いがあったり、目的をハッキリさせる必要があったりと、注意点もありますが、うまく活用すれば中小企業の成長に大きく役立つでしょう。ぜひ前向きに検討してみてください。
*Gutesa, JLco Julia Amaral, Tirachard Kumtanom, Thx4Stock team, 5 second Studio, mapo_japan / shutterstock
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