「フリーランス新法」で何が変わる?経営者は知っておくべき、新たな取引規制と働き方改革
2023年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」(以下、フリーランス新法)が成立しました。同法は、個人として業務を受けるフリーランスと発注事業者の“取引の適正化”、“フリーランスの就業環境の整備”を図ることを目的としています。
そこで本記事では、2024年11月1日から施行されるフリーランス新法について解説していきます。
目次
フリーランス新法、成立の背景
フリーランスと発注事業者間の取引トラブルに関しては、既に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年3月)を策定し、フリーランスと発注事業者との取引の適正化を図ってきました。しかし、ガイドラインはあくまで現行法制度上の解釈を前提にしたものであることから、下請法が適用されないケースや、労働者性が認められない場合には十分な法的保護がないという課題などが残されていました。これらの問題を解決するためにフリーランス新法が成立しました。
【参考】フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン/内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省
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フリーランス新法の適用範囲
フリーランス新法は、概括的にいうと発注事業者(「業務委託事業者」または「特定業務委託事業者」)から受注する「特定受託事業者(フリーランス)」に対して「業務委託」を行う場合に適用されます。発注者の従業員の有無や「業務委託」の期間に応じて規制内容が過重されていく規制構造になっています。
発注事業者である「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」とは
フリーランス新法では、「業務委託事業者」を、“特定受託事業者(フリーランス)に業務委託をする事業者”(第2条第5項)と定義しています。また、「特定業務委託事業者」は、業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人か、自身以外に他に従業員、役員がいる法人がこれに該当します(第2条第6項)。
受注事業者である「特定受託事業者(フリーランス)」「特定受託業務従事者」とは
フリーランス新法によって守られるのは、「特定受託事業者(フリーランス)」と「特定受託業務従事者」です。「特定受託事業者(フリーランス)」とは、“業務委託の相手方である事業者”のうち、従業員を使用しない個人か、一人法人がこれに該当します(第2条第1項)。
「業務委託」とは
最後にフリーランス新法の対象となる「業務委託」は、事業者がその事業のために、物品の製造・加工、情報成果物の作成、または役務提供の委託を指します(第2条第3項)。下請法と異なり、上記類型の業務の委託を“事業のため”に行っていればよいため、下請け構造ではない外部への発注であっても「業務委託」に該当することになります。
【参考】特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料/内閣官房新しい資本主義実現本部事務局・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省
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取引適正化に関する規制
フリーランス新法では、フリーランスと発注事業者が適正な取引を行えるよう、取引条件の明示や報酬の支払など守るべきことを定めています。
取引条件の明示義務(第3条)
フリーランスに対し「業務委託」をした場合、直ちに、業務委託日、業務委託の内容、報酬支払期日などの取引条件を書面または電磁的方法により明示しなければなりません(第3条第1項。詳細は公取委規則第1条1項)。
また、下請法と異なり書面での交付は必須とされておらず、電磁的方法(メール、SMS、SNSのメッセンジャー機能など、“受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信により送信する方法”(公取委規則第2条1項1号))が許容されています。電磁的方法による明示を行った場合でも、書面の交付を求められた場合には、原則、遅滞なく書面交付をする必要があります。
期日における報酬支払義務(第4条)
60日の報酬支払期日
「特定業務委託事業者」は、成果物や業務の提供を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬支払期日を定める必要があります(第4条第1項)。支払期日が定められていない場合は、受領した日、受領日から起算して60日を超えた報酬支払期日が定められている場合は、受領した日から起算して60日を経過した日の前日が、報酬支払日として設定されたものとみなされます(第4条第2項)。
再委託における30日の報酬支払期日
フリーランス新法では、下請法にない特殊なルールとして、再委託の場合は30日以内の報酬支払期日の規定があります。
すなわち、「特定業務委託事業者」が、他の事業者(元委託者)から発注を受けており、これをフリーランスに再委託した場合です。再委託であること、元委託者の商号など、元委託業務の対価の支払期日を明示した場合には、「元委託支払期日」から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定められます(第4条第3項)。この場合の「元委託支払期日」とは、実際に元委託者から報酬が払われた日ではありません。
報酬の支払期日が定められていない場合には「元委託支払期日」が、30日を超える支払期日が定められている場合は「元委託支払期日」から起算して30日を経過する日が、「報酬支払期日」として設定されたものとみなされます(第4条第4項)。
遵守行為(禁止行為)(第5条)
フリーランスとの業務委託の期間が“1カ月以上”である場合、以下の行為を行ってはならないとされています(施行令第1条)。
業務委託の期間が1カ月以上というのは、相当に短い期間であるので、多くの場合、これに該当すると考えてよいでしょう。
【参考】ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法/厚生労働省
フリーランスの就業環境の整備に関する規制
フリーランス新法は、発注事業者が守るべき義務を規定し、フリーランスの働く環境を整えることを目指しています。
募集情報の的確表示義務(第12条)
「特定業務委託事業者」は、新聞、雑誌、メール、SNSのメッセージ機能などによりフリーランスの募集を行うときは、以下に定める情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず(第12条第1項)、その情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません(第12条第2項)。
・業務の内容
・業務に従事する場所・期間・時間に関する事項
・報酬に関する事項
・契約の解除・不更新に関する事項
・フリーランスの募集を行う者に関する事項
育児介護等の業務の両立に対する配慮義務(第13条)
「特定業務委託事業者」は、継続的業務委託の相手であるフリーランスから申出があった場合、申出に応じて育児や介護などの業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
フリーランス新法の条文上は“必要な配慮”と定められているのみで、具体的にどのような配慮が考えられるかについては、「指針」に示されており、具体的には、打合せ時間の調整、納期の変更、オンラインでの業務への切替などが挙げられています。必要な配慮を実施できない場合には、その理由を説明することになっています。つまり、必要な配慮を行うことで業務委託の目的をほとんど達成できなくなるなどのやむを得ない場合には、配慮を行わないことも許容されています。
ハラスメントの防止措置義務(第14条)
「特定業務委託事業者」は、ハラスメント行為により「特定受託業務従事者」の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備など、必要な措置を講じなければなりません。また、「特定業務委託事業者」は、「特定受託業務従事者」がハラスメントに関する相談を行ったことなどを理由として不利益な取扱いをしてはなりません(第14条2項)。
ここで対象となるハラスメント行為とは、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産などに関するハラスメント(いわゆるマタニティハラスメント)およびパワーハラスメントの3つとされています。以下の3つが必要な措置として挙げられています。
・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速 かつ適切な対応
中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)
「特定業務委託事業者」は、継続的業務委託(期間・6カ月以上の業務委託)を中途解除することや、更新しない場合は少なくとも30日前までにその旨を書面などで予告をしなければなりません。ただし、災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合や、フリーランスの責めに帰すべき事由が ある場合には、予告は不要です(厚労規則第4条)。
また「特定業務委託事業者」は、予告の日から契約満了までの間にフリーランスが契約の中途解除や不更新の理由開示を請求した場合、これを開示する必要があります(第16条第2項)。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合などは、開示不要になります(厚労規則第6条)。
【参考】ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法/厚生労働省
フリーランス新法、違反の制裁
公正取引委員会などの所管省庁は、申出に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、指導・助言以外に勧告も行います。「業務委託事業者」が勧告に従わない場合には、是正命令が発せられ、これに違反した場合には、50万円以下の罰則が科せられる可能性もありますので注意しましょう。
まとめ
フリーランス新法の対象範囲は相当に広く、人を雇用している企業が、(人を雇用していない)個人に業務を委託する場合に適用されます。資本金要件もないため、これまで下請法で保護されてきた中小・小規模企業も法律の規制を受ける側になるので注意しましょう。最終的には刑事罰も予定されている法律ですので、現在フリーランスを活用していたり、人手不足でフリーランス活用を考えていたりする中小・小規模企業も、令和6年11月1日の施行に向けた対応を急いだほうがよいでしょう。
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