2022年度は、中小企業にとって対応必須となる法改正がいくつか行なわれます。中小企業の経営者および人事・総務担当者にとっては対応に追われる年度となるかもしれません。また、法改正が行なわれることは耳にしていても、具体的にどのような対応をいつまでに実行すべきなのか正確に把握できていない経営者の方もいるかもしれません。
そこで経営ノウハウの泉では『中小企業経営者向けオンラインセミナー』を開催。あすそら社会保険労務士事務所代表・大野知美氏を講師に迎え、2022年度に予定されている経営・人事・労務関連の法改正の概要とポイントを解説いただきました。
ここでは、オンラインセミナーで解説された内容を4回に分けて連載していきます。当記事では、第2回として「改正育児・介護休業法」について掲載します。
第1回:2022年度に会社対応が必要な法改正の概要
第2回:改正育児・介護休業法のポイント
第3回:改正パワハラ防止法のポイント
第4回:年金制度改正法と改正健康保険法・厚生年金保険法のポイント
登壇者プロフィール
大野知美(おおの・ともみ)
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント
あすそら社会保険労務士事務所 代表
東京都社会保険労務士会 働き方改革支援部会メンバー
帝京大学 公衆衛生学研究科 非常勤講師大手印刷会社、IT企業等での勤務を経て開業。顧問先企業の人事労務相談、就業規則作成の他、人材採用の支援や社内研修、各所でのセミナー講師等を行っている。大・中・小規模、それぞれの企業での会社員経験を活かし、当事者目線に立った支援をモットーとしている。また、誰もがいきいきと能力を最大限発揮して働ける職場環境の実現のため、働き方改革や女性活躍推進、健康経営推進の支援にも携わっている。
2022年4月1日施行の改正育児・介護休業法で対応すべきことは?
すでに2022年4月1日より施行されている「改正育児・介護休業法」については、すでに対応済みだと思います。ここでは2022年10月の施行についてもまとめて解説していきます。
対応すべきこと1:雇用環境の整備
2022年4月1日に施行された育児・介護休業法の改正内容の1つが、「育児休業と出生時育児休業(産後パパ育休)の申出が円滑に行なわれるため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければならない」です。“以下”に該当するのは、上図の①~⑤にあたります。
いくつかピックアップしてご紹介します。①研修の実施については、特に管理職に対する研修がポイントとなるでしょう(研修は全社的に行なう必要がある)。厚生労働省が提供している『イクメンプロジェクト』で公開されている研修用資料を活用するのがおすすめです。
③取得事例の収集・提供については、これまで自社で育児休業を取得した事例を取材・収集し、メールやイントラネットなどを使って社内に広く紹介しましょう。④方針の周知は、社長からメッセージを発信するとよいでしょう。いずれも厚生労働省のWebサイトから様式をダウンロードして利用することが可能です。
対応すべきこと2:個別の制度周知・休業取得意向確認
次の改正内容は「本人または配偶者の妊娠・出産等を申出た労働者に対して、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業取得の意向確認の措置を、個別に行なわなければならない」という義務です。確認すべき事項は、以下の図に含まれる表のとおりです。
これらを妊娠・出産等を申し出た従業員全員に行なう必要があります。この制度の周知や意向確認も、ゼロから様式を作成して実施するのは非常に労力がかかるものです。厚生労働省のWebサイトから様式をダウンロードして利用することで手間を軽減できます。
なお、周知については従業員に書面で提供しても、業務に忙殺されて目を通してもらえないことが考えられます。そういう場合、厚生労働省が作成した動画があるので、それらを従業員に提示する方法もおすすめです。
対応すべきこと3:育児・介護休業規定の見直し
続いては「期間を定めて雇用される労働者(有期雇用労働者)の育児休業と介護休業の取得要件が緩和された」について解説します。この改正に対しては、育児・介護休業規定の見直しが必要になります。こちらも厚生労働省のWebサイトに規定例が公開されていますので、ダウンロードのうえ自社にあった規定に調整することをおすすめします。
2022年10月1日施行の改正育児・介護休業法で対応すべきことは?
育児・介護休業法は、2022年10月1日の改正も控えています。ここまで解説した2022年4月1日施行の改正対応に加えてさらなる対応が必要です。
対応すべきこと:育児・介護休業規定の見直し
2022年10月の改正では新しくできる「産後パパ育休」の対応が必要です(父親・母親いずれも含む)。正式名称は「出生時育児休業」で、子の出生後8週間以内に4週間までの育児休業が取得できるというものです。従来の育児休業制度とは異なり、2回に分けて取得することが可能です。また、労使合意は必要ですが、休業中の就業も可能です。さらに、子が1歳の時点で保育園に入園できない事情がある場合には再取得も可能となり、育休開始日も柔軟化されます。
これらの見直しにより、夫と妻で交代して育休を取ることが可能になります。男性の育休取得を容易にすることで、今まで女性任せになっていた育児を、夫婦で取り組むスタイルに変えていきたい政府の狙いが現れています。また、長期の育休により女性のキャリアへのマイナス影響を小さくすることも改正の目的の1つだと言えるでしょう。
企業はこの法改正に向け、今ある育児・介護休業規定を広い範囲で修正する必要があります。複雑な規定改定となる可能性が高いため、できる限り先駆けて規定を見直しておきましょう。労使協定についても見直す必要があります。法的な抜け漏れのないよう注意しましょう。
想定される課題と解決法
改正育児・介護休業法について想定される課題として「男性の育休取得が進まない」ということがあります。
その理由の1つとして「収入減」が挙げられることがありますが、それだけを考えるのは不十分でしょう。トップや上司が男性の育児休業に対して理解を示しているかも重要です。取得に対する理解あるメッセージを発信することが求められます。また、職場での「お互い様」の風土醸成、仕事の属人化を減らすことも育休取得増進のきっかけになることでしょう。
これ以外にも、改正育児・介護休業法については質問があるかと思います。今回のオンラインセミナーで参加者から寄せられた質問、およびそれに対する回答を紹介します。
寄せられた質問と回答
Q:改正育児・介護休業法によって、「パパ・ママ育休プラス制度」から育休延長に乗り換えることが可能なのでしょうか?
A:通常の1歳までの育休と同様に、保育園に入れないというような事情があれば、延長することは可能です。2022年10月1日以降であれば、通常の育休と同じく父と母が交代で育休をとることも可能です。
Q:すでに施行されている改正育児・介護休業法ですが、これに対応できていない場合、具体的にどのような罰則があるのでしょうか?
A:「助言」や「指導」が入ることがあります。その場合、対応すれば問題はありませんが、対応しない場合には企業名の公表が行なわれることとなります。企業名が拡散されることで企業イメージが損なわれ、求職活動にも影響が出かねませんので注意したいところです。
Q:2022年10月からの産後パパ育休について、育児休業給付金のような給付は出るのでしょうか?
A:通常の育児休業と同様、産後パパ育休についても給付金(180日までは1日あたり賃金日額の67%)が給付されます。ただし産後パパ育休中に就業する場合は、就業日数が一定の率を超えると給付の対象とならないケースが出てきます。詳しくは厚生労働省の情報を確認していただければと思います。
Q:改正育児・介護休業法については、就業規則に書く必要はありますか? メールや概要の周知で終えてもいいですか?
A:就業規則に記載する必要があります。本則の中に育児・介護休業について記載があれば、それを修正する必要があり、別規定で記載があればそちらも修正する必要があります。
Q:小規模の建設会社なのですが、育児休業の取得対象にあたる男性社員がいます。育児休業を取らせてあげたいのですが、彼がいなくなると仕事がまわらなくなるのは明確です。人材も集まらず、彼に育休の期間を短く考えてもらえるよう説得するしかないのでしょうか?
A:法的な考え方からいえば、本人が申請をすればその希望のとおり認めなければなりません。当人の育休により従来の人員で仕事がまわらない場合、短期の人員を雇用したほうがいいでしょう。
2022年4月・2022年10月と立て続けに改正のある育児・介護休業法。経営者には、従業員が育休や介護休を取りやすい環境を整えることが求めれます。次回は「パワハラ防止法」についての解説です。
*sun_po / PIXTA(ピクスタ)
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