管理職になりたくない従業員が増加中!産業医が語る、昇進拒否の背景と企業が取るべき対応策
近年、「管理職になりたくない」「昇進したくない」という働く方からの声を、産業医面談でもよく聞くようになりました。そもそも企業では、しかるべき経験とスキルをもつ人材を管理職として育成・登用したいというニーズがあります。また、女性管理職の比率を上げたいという動きもあります。
今回は、企業側は管理職になってほしいが本人はなりたくないというすれ違いがどのような理由で起きてしまっているのか、どのようにすれば状況を解決できる手があるのかについて、産業医の目線から解説します。
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「人的資本経営」の考え方が浸透しつつあります。これは“人材の価値を最大限に引き出すことが企業価値の向上につながる”というものです。
一方、現場では管理職を担える人材不足や人手不足が課題となっています。実際に管理職への昇進を打診しても、「昇進するぐらいだったら辞めて個人事業主としてやっていきます」「もっと柔軟に働ける知り合いの会社に転職します」といわれることもあるようです。
産業医面談で話をする方は、長時間労働や体調不良などの理由があることが多いため、バイアスが入っている可能性も否定できませんが、「管理職になりたくない」理由を聞くと、下記のようなパターンがありました。
- 家庭における養育者や介護者など、ほかの役割との両立が難しい
- 残業代が出なくなるなど、責任が増える割には経済的に報われない
- 手本となるロールモデルがいない
- 体調不良や治療中の病気があり、ハードな働き方をする体力がない
- 自己肯定感が低く、管理職としてやっていく自信がない
まず、昇進に対して積極的じゃない要因があるのか確認することから始めるのが大切だと思います。
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管理職の裁量と両立の困難さ
本来、管理職のほうが裁量度が大きくなるので、プライベートなどさまざまな事柄との両立がしやすくなるはずですが、実際はそうでもないことが多いようです。管理職になると働き方がハードになるという現実を改善し、「管理職になると、責任は増えるがやるべき仕事をやっていれば柔軟に働きやすくなる」という状態を示すことが大切なのではないでしょうか。
まず、管理職と養育や介護を両立するためには、家庭における役割分担を整理する必要が出てきます。もともと女性に家事負担が集中しているなか、男性の長時間労働が改善されないために、男性の家事参画が進まないという事情も見られます。自分の都合だけでなく、家族の体調や事情で仕事に影響が出ることもあるため、責任感が強く“やるべき仕事は、できるだけ完璧にやらなければ”という方ほど、管理職の役割を引き受けることに躊躇しがちです。
また、自分の努力だけではコンディションが安定しないような体調不良や治療中の病気がある方は、“大事な仕事のときに、体調が悪くて対応できなくなったらどうしよう”という不安から、昇進を断る方もいらっしゃいます。
対策例として、これらの理由で昇進を躊躇している方には、在宅勤務やフレックス勤務がしやすくなるような制度設計をすることが有効なのではないでしょうか。働く時間ではなく、成果で評価することが、スキルがあるけど両立が困難な方へのモチベーションにつながるでしょう。
【参考】令和4年度 新しいライフスタイル、新しい働き方を踏まえた男女共同参画推進に関する調査報告書/内閣府
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管理職と労働基準法の誤解
管理職かつ管理監督者という立場であると、36協定が適用されないため、部下の長時間労働に対処するために管理監督者が仕事を引き取るとう事態も発生してしまいます。さらに、「管理職なので残業代が出ないんです」という話も聞くことがあります。
ここで注意が必要なのが、管理職と労働基準法上の管理監督者は同じではないということです。管理職であっても、十分な権限がなく相応の待遇でない場合は、労働基準法上の管理監督者にはあたりませんので、時間外手当を支払うことが必要です。さらに、管理監督者であっても、深夜割増賃金は支払われることが法的に義務付けられています。
労務管理がグレーで管理職が割に合わない立場になっているとしたら、まずは、会社が法令を遵守することが必要です。
【参考】労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために/厚生労働省
メンタル不調が隠れていないか
以前はモチベーションが高かった方が、仕事に対する意欲を失ったり元気がなかったりした場合、メンタル不調の可能性を考慮する必要があります。
対策としては、産業保健職による面談を通じて状況を把握し、必要に応じて医療機関への受診を勧めることが有効でしょう。
また、休職歴があると、「また休んで周りに迷惑をかけるのが心配」と考えて消極的になってしまう方がいらっしゃいます。休職歴があっても復職して実績をあげれば昇進できる前例示せば、他の体調不良を抱える方たちに安心感を与えることができるでしょう。
まとめ
管理職になりたくないという従業員がいる場合、「組織のなかにどんな要因があって管理職になりたがらないのだろう」という仮説を立ててみてください。何人かに話を聞くと一定の傾向が見えてくることもありますし、待遇を変えるなどルールの変更で解決できることもあるかもしれません。特に、労務管理や法令遵守がきちんとなされていない場合は、会社にとっての大きなリスクになるので、急いで是正が必要です。
裁量度が大きい働き方ができさまざまな事情との両立がしやすくなる、仕事のやりがいが増えるなど、管理職になることでモチベーションが上がるような働き方を実現できるよう経営者側のサポートが求められています。
*PeopleImages.com – Yuri A,takasu,Keisuke_N / shutterstock
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