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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 中堅・リーダー社員をネクストステージに引き上げるための2つのモノサシ
中堅社員 モチベーション

中堅・リーダー社員をネクストステージに引き上げるための2つのモノサシ

~中堅ハウスメーカーのとある管理職の胸の内~

部下である入社10年目のAさん。これまではどこか「一皮むけない」印象だったが、仕事の任せ方の変化や本人への問いかけを通じて、最近はAさん自身にも「自分は職場の中核社員なんだ」という意識が芽生えたようだ。他部署への働きかけなど、目に見えて動き方が変化してきた。

〇前回記事を読む:中堅・リーダー社員のモチベーションを上向きにするための3つのヒント

本人のモチベーションが上がっているこのチャンスに、今後に向けての大きなキャリアの分岐を迫ってみてはどうだろうか。

ただ、「お前はマネジャーになりたいのか?」「それともプロとして腕を磨きたいのか?」などとダイレクトに聞いてしまうと逆に、Aさんを悩ませてしまうのではないか。せっかくのモチベーションを削いでしまうのは避けたい。何とかうまく本人の意思を引き出す方法はないものか……。

前回の「中堅・リーダー社員のモチベーションを上向きにするための3つのヒント」では、中堅・リーダー社員層のやる気をいかに引き出すかについて解説しました。

中堅社員は「新人以上・管理職未満」という人員ボリュームゾーンです。中堅社員のやる気が全体的に底上げされることは、組織の活性化や会社の業績へ大きく影響を与えます。

さて、その中堅社員の中から「特に優秀だ」「ゆくゆくは会社を牽引していく存在になってほしい」と思う層が出てくることでしょう。

前回は「全体の底上げ」でしたが、今回は「特に目をつけている中堅社員」に絞って、将来に向けてのキャリアを固めてもらうための働きかけについて紹介します。

職場単位での中堅社員のキャリア支援とは

「働き盛りの10年目社員」を想定すると、本人も「このままの状態で、今後10年間をやり過ごそう」とは思ってはいないでしょう。

しかし、今後のキャリアを固めようと思っていても、不透明な社会情勢や会社内のロールモデル不足などの事情があり、本人のなかでもモヤモヤしている状態かもしれません。そして、働き盛りゆえに目の前の忙しい仕事に忙殺されて、キャリアパスの検討を先送りしている可能性があります。

大手企業では「次世代リーダー育成」研修や、「抜擢・選抜人事」の制度など、ソフト・ハード含めて、キャリア支援のための人事施策を会社として整えています。

ですが、そのような全社施策がない場合、自分の職場の範囲で出来ることを通じて、中堅社員のキャリア支援をする必要があります。

中堅社員のキャリア支援のための2つのモノサシ

日本企業でも“管理職=マネジメント”という時代は終わりました。

管理職のなかでも「マネジメント職コース」「専門職コース」という複線型人事制度を引いている会社が増えています。

ただ、中堅社員がコース分岐の直前階層に到達したときになって突如「どっちのコースを選ぶ!?」とドライに決断を迫っても、本人に心の準備ができていないこともあります。できれば、分岐に差し掛かる数年前くらいから本人に意向を考えてもらい、その後は実際の仕事を通じてコース選択までに決心を固めてほしいものです。

そんな際に、ライトに本人に意向をヒアリングし、意向を固めるきっかけを作るための、効果的な2つのモノサシがあります。

(1)時間軸というモノサシ

「キャリアを描く」というテーマに対して、「未来」というこの先の時間軸で物事を考えるのは自然です。

「5年後くらいにはトップクライアントの担当になりたいな」や「マイホームも欲しいよな」と、まだ見ぬ未来に思いを馳せます。しかし、まだ歩んだことのない未来について実感を伴って描くのは意外と大変なものです。とかく中堅社員の年代だと、仕事・プライベートともに不確定要素が見えきれてないはずです。

また、いきなり未来に思いを馳せると「自分は何をやりたいのか?」というWILLの観点が強くなりがちです。これまで与えられたMUST業務を必死で頑張って来た中堅社員にとって、WILLを問われて戸惑う人も多いでしょう。

そんな時は「現在」を起点として、「これまで(過去)」を振り返ってもらうことが効果的です。「これまで(過去)」を材料として「これから(未来)」を描くのです。

具体的には、過去の実績を振り返りながら、「できたこと」というCANをまずは確認します。ある意味、自分のこれまでのキャリアの棚卸しです。CANを振り返ることで、本人にとっても「ああ、10年でここまで出来るようになったな」という成長実感や自信を持つことができます。

そのCANの経験のなかから「どの仕事で一番成長を感じた?」や「最も燃えた仕事はどれ?」などと、WILLを引き出していきます。

「チームで目標達成した〇〇部での仕事」などの組織で成果を上げた経験が挙がった場合は、さりげなくマネジメント意向を確認すると良いでしょう。

逆に「△△の開発を一人でやりきった仕事」など職人的な独力成果にやりがいを感じている場合は、「うちの会社でその分野のプロのイメージが持てる?」などと、専門職の意向を確認してみてください。

実際の自分の経験に基づくだけで、地に足がついた状態で「自分は何がしたいのだろう」と、未来を描きやすくなるはずです。

(2)成長ステップというモノサシ

どの会社であっても、社員のポジション・立ち位置を示す「等級制度」があると思います。おそらくは評価面談の際などに活用し、「次の等級に昇格するには、このくらいのスキルが必要だ」などのすり合わせを行っていることでしょう。

自社の等級制度を中堅社員の今後のキャリアを考える際に使用してもいいのですが、やや目線が短期レンジになるので、使いにくい場合があります。また、どちらかというと「望ましい働き方」や「どのような役割(立場)で会社に貢献するのか」という中長期レンジでものを考える際に、実際の等級制度は生々しくなりすぎて、不向きと言えます。

そんな時は、等級ではなく、概念的に企業人としての成長を示すようなステップを使用すると良いでしょう。

例えば、新入社員時代の「見習い」というステップに始まり、中堅社員である現在は「職場の主力選手」というステップに該当するでしょう。

そのような「何で会社に貢献するのか」という概念をベースに、今後の意向を問うのは本人にも考えやすいはずです。このような成長ステップのフレームは、HR系企業のホームページなどによく掲載されていますので是非探してみてください。

汎用性があるフレームを使うことで、本人の視野を「自社内で」から「企業人として」に広げることができるため、活用をおすすめします。


まとめ

今回は、中堅社員がネクストステージへ進むための、意向固め支援について紹介しました。

現在も現場の主力選手として、仕事に取り組んでいるのが中堅社員です。ただし、今は「キャリアがあやふやながらも、目の前の仕事を必死にこなす」状態かもしれません。

自ら今後進む道が見え始めることで、同じ仕事であっても「管理職になるための訓練として行う」や「プロへの試練として腕を高める場として行う」と、取り組むスタンスに変化がみられるはずです。

『三人のレンガ職人』というイソップ童話を聞いたことがある方も多いかと思います。

中世のヨーロッパで旅人が3人のレンガ職人に出会い、「何をしているんですか?」と同じ問いを投げかけます。1人目は「親方の命令でレンガを積んでいるんだ」と答え、2人目は「賃金をもらうために、レンガを積んでいるんだ」と答えました。けれども3人目は「完成まで100年以上かかる教会の大聖堂をつくってるんだ。多くの信者の役に立つこんな偉大な仕事をしているんだ」と答えた、というエピソードです。

目の前にある仕事は一緒です。しかし志が違ったり、目的が見えている場合は、おそらく動き方も成果も格段に変わるでしょう。

あまり「キャリアを固めさせよう」と堅苦しく考えずに、はじめは中堅社員が「キャリアを考え始める」きっかけの場作りと捉えてください。

そして、場を作った以降も「君の意向を踏まえると、来期はこんな仕事に挑戦してみる?」など、一緒に伴走しながらキャリア形成を支援していってください。

*ふじよ / PIXTA(ピクスタ)