企業の存続にかかわる?中小企業こそ「働き方改革」を進めるべき理由と残業削減以外の施策を解説
2017年3月28日に働き方改革実行計画が策定されてから4年が経ち、『働き方改革』という言葉はすっかり浸透しました。いまや『働き方改革』を進めているか否かが人材の獲得力を左右するようになっています。
「働き方改革は大企業のもので、中小企業には難しい」という考えも耳にしますが、この考え方は中小企業にとってリスクが高いと筆者は考えます。
なぜなら、これから深刻になる働き手不足のなかで、中小企業こそ『働き方改革』に取り組まないと、優秀な人材を獲得することがさらに難しくなり、ゆくゆくの企業の存続にもかかわるためです。
そこで今回は、中小企業こそ『働き方改革』に取り組むべき理由を解説していきます。また、『働き方改革』は残業を減らすといった”長時間労働の是正”の側面が強調されがちですが、中小企業が取り入れやすいその他の施策も紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次
働き方改革が必要となった社会背景
まず、どうして働き方改革が必要になったのかを見てみましょう。『働き方改革』が必要となった社会背景としては、大きく次の点が挙げられます。
(1)少子高齢化による生産年齢人口の減少
(2)イノベーションの欠如による生産性向上の低迷
(3)人生100年時代の到来による就労観の変化
それぞれについて詳しく見てみましょう。
(1)少子高齢化による生産年齢人口の減少
日本の人口は減少局面を迎えており、さらに少子高齢化も急速に進んでいます。
現在の推計では、2060年には、働くことのできる人口である生産年齢人口は、人口全体の約50%まで圧縮されると推計されています。
(2)イノベーションの欠如による生産性向上の低迷
日本の労働生産性は、欧米諸国に比べ低い状況にあります。『働き方改革』によって生産性は伸びつつあるものの、依然として欧米諸国と比べると低い状況にあります。
かつては、「労働時間を削減し、労働生産性の“分母”を減らすことで生産性を高める」との理解が多く見受けられました。しかし、政府側の意図は、労働生産性の“分母”ではなく、“分子”を増大させる方法です。イノベーションを創出し、新たな付加価値を獲得することで、労働生産性の向上をはかります。
(3)人生100年時代の到来による就労観の変化
少子高齢化とも関係しますが、日本人の平均寿命はどんどん伸びており、2007年に生まれた人の50%は107歳まで生きるといわれています。そのため、65歳(又は70歳)まで働いた後、さらに約35年(又は30年)の人生を送るためには、働くなどの社会的な接触がなければ難しいとされています。
こうした背景から、“一社専属で終身雇用”されるという働き方では、長く働くことが難しいという理由から、“一社専属で終身雇用”されない働き方を希望する人が増えてきています。
上記のような3つの社会背景から、“男性正社員”を中心とした雇用慣行を改革し、女性、高年齢者、外国人や、他育児・介護等の様々なバックグラウンド、価値観を持つ人材の労働参加を促し、多様な人材が活躍できるようにすることが働き方改革の狙いです。
中小企業にこそ働き方改革に取り組むべき理由
『働き方改革』が必要となった上記の社会背景は、中小企業においても当てはまること理解できるかと思います。上記のような人口減少を踏まえると、中小企業にとって大きな経営課題である“優秀人材の確保・定着”は、今後まさに中小企業の存続にかかわる課題となります。今の経営者は逃げ切れるかもしれませんが、後継者の時代には深刻な問題です。
特に昨今では、大企業でも“新卒一括採用”の考え方の見直し、中途採用に積極的になっていることから、人材獲得競争はますます激化することが見込まれます。そうすると、これまで中小企業が中心であった中途採用市場に大企業も参入することとなり、中小企業にとっては、優秀な人材の獲得だけでなく、そもそも人材を獲得できなくなる恐れがあります。
したがって、『働き方改革』を進め、多様な人材を確保することができるようにすることは、中小企業にとって大きなメリットがあるといえます。中小企業こそが率先して『働き方改革』を進める必要があります。
中小企業が取り入れやすい働き方改革
上記で述べたとおり、『働き方改革』のポイントは“多様で柔軟な働き方を認めていき、これまで労働市場に参加していなかった多様な人材が活躍できる環境を作る”ということであり、残業削減はその一つの施策に過ぎません。
その他に多様な働き方を進めるための施策として、例えば次のようなものが考えられます。
一見面倒な働き方改革ですが、重石の多い大企業に比べれば、中小企業での取り組みはハードルが低いということも。この機会をチャンスと捉えて、できる施策からはじめてみてはいかがでしょうか?
(1)テレワークの推進
コロナ禍の感染拡大防止の観点から、テレワークは急速に広がりましたが、テレワークはコロナ禍の前から柔軟な働き方として推進されてきたものです。
テレワークは、家事、育児・介護との両立、ワークライフバランスの確保を図ることができ、育児・介護等によって離職を余儀なくされる人材や、ワークライフバランスを重視したいという人材の獲得が期待できます。
【もっと詳しく】テレワークを導入する企業側のメリットとは?
(2)副業・兼業の推進
自社の人材が副業・兼業を行うことで、従業員は自社では獲得できない知識・経験を得ることができます。これが自社にフィードバックされることで、新規事業や新規開発等の新たな付加価値の創出が期待されます。
また、自社で副業・兼業制度を構築しておくことで、従業員が自社以外での仕事をしたいと考えた場合でも、その従業員は会社を辞めることなく副業・兼業でこれを行うことができ、離職防止につながります。
外部の即戦力となる人材を副業の形で受け入れることも優秀な人材の獲得が可能となります。
【もっと詳しく】企業が知るべき「副業」のメリットとリスク対策
(3)多様な正社員制度の導入
これまでは、“正社員”というと“無期雇用=異動あり、転勤あり、残業あり”といった考え方が前提でした。しかし、それでは、専門的スキルを活かしたい人材や、育児・介護等の理由から転勤や残業が困難な人材を獲得することは難しいです。
そこで、無期雇用でありつつも、職務内容を限定し異動がない“職務限定正社員”、転勤がない“勤務地限定正社員”、残業がない又は制限されている“時間限定正社員”といった多様な正社員制度を構築することで、上記のような人材を獲得することができます。
(4)非正規社員の処遇改善
この点はいわゆる“同一労働同一賃金”とも関係しますが、非正規社員の処遇を改善することも人材確保につながります。さまざまな事情から、高いスキルを持ちながらもフルタイム正社員で働くことが難しく、パート、アルバイト、契約社員等のような非正規用を自ら選択する人も多いとされています。
しかし、「非正規雇用だから」という理由のみから労働条件が低い場合には、そうした人材の確保が難しいといえます。そのため、こうした非正規社員の処遇を改善することは、優秀な人材の確保につながります。
【もっと詳しく】同一労働同一賃金とは?短時間・有期雇用・派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止
自社に合った働き方改革を進める
上記では、残業削減以外の多様な働き方を進めていくための施策の例をご紹介いたしましたが、「働き方改革はこうである」と硬く考える必要はありません。
働き方改革の目的である多様な人材が活躍できる環境を構築し、優秀な人材を獲得できるように自社に合った働き方改革を進めていきましょう。
働き方改革は経営者が主導する
働き方改革実行計画では、「働き方改革は、日本の企業文化、日本人の ライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である」とされています。個々の施策も大切ですが、何よりも大切なのは、多様な人材が活躍しにくい“男性正社員“中心の組織風土を改革することです。
こうした組織風土の変革を行うためには経営者のリーダーシップが必要になりますので、経営者が率先して働き方改革を主導していきましょう。
* bee、jessie / PIXTA(ピクスタ)