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労働実務事例

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事業主責任の事故が発生しました。第三者行為災害になるか

「労働新聞」「安全スタッフ」(2011年1月~12月掲載文)
法改正等で現在の正確な内容と異なる場合があります。

[ 質問 ]

 労災保険では、労災や通災が発生した場合に、その災害の発生について責任者(第三者)がいると、それに対して求償します。しかし、責任があっても求償しない場合があるようですが、どのようなケースでしょうか。求償するのは第三者が相手ですが、事業主は第三者に該当するような気もしますが、求償は行われません。法律的に考えると必ずしも納得いきませんが、どうでしょうか。

【神奈川・H社】

[ お答え ]

 求償しない場合
 労災保険法第12条の4第1項をみると、政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受ける者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する、と規定されています。
 では、その事務はどのようにして行われているかといいますと、「第三者行為災害事務手引」(平8・10・28基発第643号)に書かれています。そして、ご質問の「求償しない場合」についても、そのなかに書かれています。では、それはどのような場合かといいますと次の場合です。
(1)同一事業主に雇用され同一の作業場所で作業を行う同僚労働者の加害行為による災害
 この場合には、政府は、同僚労働者とその事業主の双方に対して求償できるが、それに応ずれば、事業主は労災保険に加入している利益がなくなる等のことがあるので、求償することは差し控える。
(2)同一事業主に雇用される事業場を異にする労働者の加害行為による災害
 労働保険徴収法の規定に基づき、保険関係の一括扱いが認められている場合には、(1)と同様の理由で求償することは差し控えられる。
(3)同一の作業場で作業を行う事業主を異にする労働者の加害行為による災害(元請と下請の関係または下請相互の関係にある場合も含む)
 同一の作業場であれば、常に立場が逆転する可能性があり、相互に損害賠償責任を負う危険性を共有していると考えられるので、求償することは差し控えられる。
(4)直系血族または同居の親族等の加害行為による災害
 絶対的扶養義務(民法第877条)を負う直系血族および兄弟姉妹の場合には、求償権の行使は差し控えられる。
(5)労働者派遣法に基づく派遣労働者と派遣先事業場に所属する労働者間の災害
(3)の場合と同様の考え方により、求償は差し控えられる。
(6)求償を受ける者が無資力の場合求償しても無駄であるから行われない。
(7)示談成立後に労災保険給付を行った場合
 被害者の損害賠償請求権が、示談で失われていれば、求償権もないので、求償が行われることもない。
事業主は第三者か
 ところで、問題は第三者です。事業主は第三者に入るのではないでしょうか。というのは、第三者とは「保険者(政府)及び被害労働者以外の者」(昭30・11・12基災発第301号)であるという、旧労働省の通達があるからです。被災労働者を使用する事業主は、政府でないことははっきりしています。もちろん被災労働者でもありません。実は、第三者については最高裁判所の判決もあります。それによると、第三者とは「被災労働者との間に労災保険関係のない者」(最判昭41・6・7)といっています。被災労働者との間に労災保険関係のあるのは政府であって、事業主ではありません。そうすると、事業主が第三者になるとすれば、もし、政府から求償されると労災保険料を負担しているのが馬鹿らしくなってきます。では、どう考えたらよいでしょうか。
 それには、どうしても事業主と政府との間に労災保険関係が成立していると考えるしかありません。実は、戦前の労働者災害扶助責任保険法はそうでした。保険給付を受けるのは、災害補償を行った事業主でした。だから、事業主は第三者に該当することはなかったのです。そのため、戦後最初に考えられた労災保険法は、戦前と同じで、労基法第8章に規定する災害補償を実施した事業主に支給するものでした。それを進駐軍が猛反対して、現在のように労働者が受給するものになったのです。
 その結果、事業主は保険料を負担することにより、労働基準法の規定する休業最初の3日分の休業補償を負担すれば、他の補償は免除されることになったのです。すなわち、事業主も労災保険による利益を享受できるので、労災保険関係の当事者であると考えて、第三者には該当しないとして扱ってもよいのではないでしょうか。



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