登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 社員のセクハラが発覚したら…会社の責任は?過去事例・対応の注意点【弁護士が解説】
セクハラ

社員のセクハラが発覚したら…会社の責任は?過去事例・対応の注意点【弁護士が解説】

2022.05.12

社員から、「上司からセクハラをされた」と、会社に問題提起されることはよくあります。当事務所でも、そのような事案を何件も対応してきました。

会社としても、セクハラ事案が出てきた場合には、大変悩ましいところがあります。本当にセクハラと言える行為なら、行ったものに対する処分が必要となります。しかし、果たしてこれが本当に“セクハラ”なのか、悩ましいような事案もあるからです。セクハラの申立があったからと言って、安易に“加害者”を処分したら、そのものが冤罪事件だということで、会社を訴えてくることもあり得ます。セクハラの場合には、その意味で慎重な対応が必要とされます。

「セクハラ」って、何ですか?

それでは、一体何が「セクハラ」と言えるのでしょうか? 私が会社勤めをしていた20年以上も前ですと、かなり露骨なセクハラがありました。それこそ、会社の上司が自分の権限を利用して、入社したての女子社員を無理やりホテルに誘うといった案件です。これが“セクハラ”にあたると判断することは、特に問題ないでしょう。

一方で、当時からどこまでをセクハラと考えるべきかは、必ずしもはっきりしていませんでした。

「対価型」と「環境型」

一般的には、セクハラは“対価型”と“環境型”に分けられるといわれています。対価型は、仕事で有利に扱う、不利な扱いをしないといったことの“対価”として、性的なハラスメントを行うことです。これは比較的分かり易いセクハラです。

一方、環境型のセクハラは、職場においてPCの待ち受け画面を裸の女性にしておくような行為です。やたらと部下に対して、ボディータッチをするなどもこれにあたります。まさに、セクハラによって、職場環境が悪化するような場合を広く指します。

セクハラが発生した場合の「会社の責任」

セクハラを行うのは、上司などの個人です。会社が業務命令でセクハラを命じるなどということは、常識的に考えられません。しかし、このような社員のセクハラ行為によって、会社の法的責任が問われることになります。

まず、社員個人のセクハラという不法行為について、会社は使用者責任を問われます。さらに、会社は従業員が快適安全に仕事を行えるように、職場環境を整える義務を負っています。そのような安全配慮義務に違反したものとして、会社は社員のセクハラに対して、責任を問われることになります。この意味でも、会社はセクハラを軽く考えることはできないのです。

【こちらの記事も】パワハラが発覚したとき、会社の法的責任を回避するには?【事例・弁護士が解説】

対価型セクハラの実例

対価型のセクハラは、事実さえ認められれば、加害者をセクハラで処分することは問題ありません。ただ、被害者と加害者の言い分に食い違いが出ると、なかなか判断に難しいところがあります。私の事務所でも、後輩の女性を送っていくと言って無理やり同行し、途中でキスをしたという事案を担当したことがあります。会社は、その女性の主張に基づいて、加害者を解雇しました。ところが、解雇された加害者が、自分は無実だと、解雇無効の労働審判を起こしました。結論として、無理やりキスした事実を認めるだけの証拠はないということで、解雇は無効とされています。

一方、裁判例では、このような事案で“加害者側の責任が認められたもの”も多数あります。令和になってからの事件でも、加害者が複数回にわたり嫌がる被害者を抱きしめてキスをしたり、ラブホテルで性交したといった事案で、企業の責任も問われ数百万円の損害賠償が認められています。この事案の場合は、被害者がセクハラによってうつ病になったということもあり、厳しい判断となりました。

環境型セクハラの実例

環境型セクハラの場合は、なかなか訴訟まで行く事案は多くありません。実際問題として、職場で性的で卑猥な話をしていたとしても、それだけをもって、話していた人や会社を訴えようとまでする人は少ないでしょう。ただ、このような職場環境について、社員から問題提起されたにもかかわらず会社が放置していたとすれば、労働組合などを介して会社の責任を追及してくることが考えられます。

また、個人に性的な嫌がらせをしていた社員を会社が降格したことに対して、加害者側が訴訟で争った事案もありました。こちらは最高裁判所まで争われましたが、加害者側の行為が悪質だと認定されて、会社側が勝訴しています。

通常セクハラ行為の事実認定は難しいケースが多いです。しかし、この事案ではかなり露骨なセクハラといえる言動が繰り返しあったという証言が周りの社員などから取れ、認定できたのだろうと推測されます。

企業がとるべき対応と注意点

企業としては、単に責任を問われるのを避けるというだけでなく、良好で安全な職場を作るためにも、セクハラに対しては厳しく対応していく必要があります。事件が起こってから対応するのではなく、セクハラについてのガイドラインを作成したり、セミナーを行ってそれを周知したりすべきです。

それでもセクハラの問題が生じたときには、事実関係を慎重に調べないといけません。セクハラは確かに深刻な問題ですが、十分な証拠無しに“加害者”を処分すれば、会社自身が無実の労働者の権利を侵害したと言われる恐れもあるからです。

最後に

セクハラの問題は、パワハラと並んで、これからますます重大な問題とされていくはずです。予防についても、事件が起きた後の処理についても、社労士や弁護士などの専門家の助けを借りた方が良い場合が多いと言えます。特に、セクハラを理由に社員を処分するときには、第3者の意見も聞いて、慎重に対応することが望ましいでしょう。

【こちらの記事も】2022年4月に中小企業に完全義務化!「パワハラ防止」で押さえておくべき対策まとめ

* sayu、星野スウ / PIXTA(ピクスタ)