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整理解雇とは?

中小企業は整理解雇できるの?整理解雇の4要件と代替手段を弁護士が解説

2022.01.19

どこの企業にも成果を出さない社員はいてほしくないものですが、業績が思わしくない場合であれば、なおさらです。成果を出さない社員に人件費をかけるくらいなら、辞めてもらって、資金を他に回したいというのが本音ではないでしょうか?

弁護士である筆者のところにも、上記のような経緯で「整理解雇をしたい」と中小企業の経営者の方からご相談をいただくことがあります。しかし、そもそも中小企業で整理解雇は現実的な手段なのでしょうか?

そこで本記事では、弁護士の筆者が中小企業における整理解雇の考え方を解説します。代わりとなる手段についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

整理解雇とは?

整理解雇とは、業績不振に陥った企業が人員整理のために行う解雇のことをいいます。先に結論を言うと、中小企業にとって整理解雇は現実的な手段ではありません。もっと言うと、中小企業は整理解雇をしないほうがよいでしょう。

「整理解雇をしてはいけないだなんて、本当?」「会社の業績が思わしくなく、やむを得ない対応なのに!」などご不満の声が挙がりそうです。

たしかに、会社の生き残りをかけて社員の人員整理をする必要はあるでしょう。私が言いたいのは、いわゆる法律上・判例上で定義されている“整理解雇”は、少なくとも中小企業は行わない方がよいということです。

この“整理解雇”というのは、一定の要件を満たした場合に、法律上認められる強制的な“解雇”のことです。この“整理解雇”が認められるのは、整理解雇の4要件を満たすことが必要と言われており、法的に非常に難しいのです。

【こちらの記事も!】そもそも解雇とは?

整理解雇の4要件とは?

“整理解雇”には、判例などにより、以下の4つの要件が定められています。整理解雇を行う際は、それをすべて満たすことが求められますが、非常にハードルが高いのです。

・人員整理の必要性があるか
・解雇を避けるために、どのような努力をしてきたか
・解雇する人を合理的な基準で選んだのか
・解雇手続きの妥当性

1つ目は、人員整理の必要性があることです。これ自体、裁判所は簡単には認めてくれません。その難しさから、「裁判所は、破産までして初めて人員整理の必要があると認めてくれるのではないか?」などという人もいるほどです。

2つ目は、解雇を避けるために、どのような努力をしてきたかという点です。こちらも、生半可な事業努力では、なかなか認めてもらえません。どんな努力をしても、充分ではないと言われてしまうように筆者は感じてしまいます。

そして3つ目は、解雇する人を合理的な基準で選んだのかという点です。「勤務態度が悪いから」などという理由では、裁判所は容易には認めてくれないのです。

そして最後の基準は、解雇手続きの妥当性です。実質的な要件を充足していたとしても、形式的に十分な手続きを取っていないと、整理解雇として認めてもらえないというわけです。労働組合の同意か社員の過半数の同意その他、大変面倒な手続きが必要です。

上記から「うちみたいな中小企業では、とても4要件を満たすことは難しそう……」と思った方がいれば、その通りです。基本的に、中小企業が軽い気持ちで行えるものではないと考えた方がよいでしょう。

整理解雇というのは、大企業が相当の人数の社員を一括解雇するときに、大法律事務所などをコンサルタントに入れて、十分に準備をしたうえで行うものなのです。

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中小企業にとって整理解雇は現実的ではない

整理解雇の裁判例

整理解雇4要件について解説しましたが、“整理解雇”の有効かどうかは、実際、多くの裁判で争われています。

たとえば、日本航空が会社再建中に、客室乗務員84名を整理解雇した事件は有名です。第一審は整理解雇を無効と判断しましたが、第二審の高等裁判所では、整理解雇は有効とされました。

再建途中の企業が、大法律事務所の助力を得て準備した整理解雇であっても、これだけ揉めるわけです。

この事案では、最終的に整理解雇は有効と認められていますが、裁判で長い間争われています。

整理解雇は現実的ではない理由

上記で挙げた事例をみると、“整理解雇”は本来避けられたような多くの紛争を、自分で呼び込んでしまうようなものだともいえます。

前述した“整理解雇4原則”は非常に有名です。“整理解雇”となると、社員や労働組合はインターネットなどで調べて、この4原則について知ることになるでしょう。そして、厳密に一つ一つの要件が満たされているかチェックするわけです。

そもそも整理解雇4要件は、大企業が法律事務所の力を借りて実施しても、何らかの問題点が見つかるものです。中小企業がこれらの4要件を満たそうと努力するだけでも、相当の時間と労力が必要になるうえ、問題点が見つかってしまえば、裁判で争われる可能性があるのです。普通の中小企業だと、労力がかかる紛争になる事態は避けたいというのが本音でしょう。

これらのことをふまえると、中小企業にとって“整理解雇”は現実的な手段ではないということを、理解してもらえると思います。

では、どうすればよいか?

整理解雇ができないとしても、業績がよくない中、余剰人員を抱えたままの経営は厳しいものがあるでしょう。中小企業が社員を解雇して人件費を削減したい場合にはどうしたらよいでしょうか?

まず、経営者としてはなるべく解雇は避ける方法を検討すべきでしょう。そのため、大企業では人員配置の見直しや新規事業の開始など、さまざまな手段で解雇を避けるようにしています。中小企業でも、解雇を避けるためにできることは実施するべきです。しかしながら、もともと中小企業では、取ることのできる手段が限られています。

そこで、整理解雇の代わりとしての2つの手段をご紹介しましょう。

退職勧奨

中小企業でもできることとして、社員に自ら辞めてもらうように働きかける方法があります。つまり、“退職勧奨”をまず一番に考えることが大切です。

もちろん、あまりに高圧的な退職勧奨の場合には、後から問題になる可能性は残りますから注意が必要です。それでも、整理解雇に比べれば、退職勧奨の方が後から問題となる可能性ははるかに小さいと言えます。

普通解雇

どうしても社員を解雇せざるを得ないのならば、“整理解雇”ではなく、通常の解雇(普通解雇)とした方がよいと考えます。

実際、多くの中小企業では「整理解雇をしたい」と言いながらも、実際にはパフォーマンスの悪い社員に辞めてもらいたいという事案がほとんどだという印象です。そうであれば、通常解雇で終わらせた方がよいと筆者は考えます。

たしかに、普通解雇は簡単には認められません。労働審判などになれば、6か月以上の金銭の支払いがを命じられることもあるでしょう。それでも、整理解雇として要件の充足などを確認するよりも、会社としてはよほど労力が少なくすむといえるのです。

普通解雇とは?

最後に

本記事では、中小企業における整理解雇の考え方と代わりとなる手段を解説しました。

もちろん、現実に社員の整理が問題になったときには、その都度専門家に聞くことが大切です。その中で、ケースごとに一番よい解決策が見つかることは期待できます。

しかし一般論としては、“整理解雇”というのは、大企業のための制度なんだと割り切って、“中小企業では退職勧奨と通常解雇を用いるべき”と覚えておいてもらえればと思います。

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* タカス、Greyscale、Violin、【IWJ】Image Works Japan / PIXTA(ピクスタ)