登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > トップの意識変革が求められる。中小企業経営者が知るべきハラスメント対策
経営陣

トップの意識変革が求められる。中小企業経営者が知るべきハラスメント対策

2022.07.17

労働施策総合推進法(通称、パワハラ防止法)により中小企業においてもパワーハラスメント対策が義務化され、どの企業でも規程類の見直しや社内窓口の設置などの動きをとる必要が出てきました。パワハラの他にも、セクハラ、マタハラ、カスハラなどなど、さまざまな種類の言葉が登場し、「こんなにあらゆる言動がハラスメントと言われてしまうと、コミュニケーション取るのも何だかやりづらくなるよ」と窮屈な思いを抱く経営者の皆さんの心の声も聞こえてきます。

しかし、ハラスメント対策に取り組むことは、自社の組織風土・企業文化、あるいはコミュニケーションのあり方を捉え直す機会にもなります。「法律で決められているから」と義務感だけで捉えず、社員同士の関係性や顧客との関わり方など、自社の組織運営のあり方を描き直す機会と意味づけて、人事や管理職と共に組織全体で考えていきましょう。

企業がとるべきハラスメント対策

そもそもハラスメントとは、“悩ますこと、困らせること”を意味する英単語です。言葉や行動が意図せぬ形で受け取られてしまったり、信頼関係が無い中で捉え違いや誤解が生じ対立構造が起きてしまったりと、小さな言動が大きなひずみへと発展してしまうことが多くあります。問題として顕在化する前に、まずは個々が“なにがハラスメントにあたるのか”認識を深め、“どのような言動がどのような受け止め方として伝わるのか”コミュニケーションのあり方を少し意識してみることからはじめましょう。

企業としては、取り組むべきハラスメント対策が大きく3つあります。

・相談窓口の設置
・社内周知
・規程・マニュアルの整備

国はパワハラ防止法でパワーハラスメントを防止する措置を事業主に義務づけています。中小企業においては2022年4月から義務化されました。会社が社員の人間性を尊重する良好な職場環境を用意するためには、最低でも法が定める基準をクリアする程度のハラスメント対策をとる必要があります。それをクリアできないのであれば、助言・指導・勧告・企業名公表という行政指導を受けることになるわけです。

【参考】「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」 / 厚生労働省

ハラスメントには状況によってさまざまな種類・類型があります。

例えばパワハラにおいては、

①身体的な攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害

セクハラに関しては、

①対価型セクシュアルハラスメント
②環境型セクシュアルハラスメント

マタハラにおいては、

①制度等への利用への嫌がらせ型(出産・育児・介護に関連する制度利用を阻害する嫌がらせ)
②状態への嫌がらせ型(出産・育児による就労環境を害する嫌がらせ)

これらの種類・類型を踏まえ、自社の職場であればどのような言動がハラスメントにあたるのか、人事や管理職を交えた話し合いのもとで認識を合わせていくことが重要です。そのような“話し合いの場を設ける”ということ自体が、企業としてハラスメントに向き合っていく意志表示にもなるでしょう。

【参考】あかるい職場応援団「ハラスメントの類型と種類」 / 厚生労働省

【こちらの記事も】ちゃん付けはセクハラ?問題になりやすい「セクハラ発言一覧」と今すぐ取り組むべき対策

社員に示すべきメッセージとは

経営者が社員に対してまず示すべきことは、「これから中長期でどのような組織でありたいか」という方針です。そのための過程として「ハラスメント対策に取り組みながらより良い職場環境をつくっていく」というメッセージを伝えましょう。その際、単なるスローガンに終わらないように、具体的な段取りをあわせて伝えていくことが重要です。現状の組織風土を踏まえ、ハラスメント対策の必要性を認識しているのであれば、人事・管理職と共にハラスメントマニュアル策定や研修実施等の対策を協議していくことも具体的に示しましょう。その後のハラスメント対策が形骸化しないよう、まずは一歩目をトップダウンで進めることが重要です。

ハラスメント対策としてトップメッセージを示すタイミングは3度あると言えます。初回は、ハラスメント対策を検討する前。2回目は、対策を導入する時。そして3回目は、定期的なメッセージです。

注意せねばならないのは、ハラスメントそのものに関するメッセージを伝え続けることで、組織の中に“ハラスメント”という視点のみを植え付けてしまうことです。「ハラスメントハラスメント(ハラハラ)」という言葉もあるように、ハラスメント対策という視点が強すぎると、何かの言動に対してすぐに「それはハラスメントだ」という指摘が生じ、窮屈で居心地の悪い職場になってしまいます。ハラスメント対策はあくまでも手段でありプロセスです。

繰り返しになりますが、経営者が示すべきは「そのプロセスを通じてどのような組織を目指すのか」という方向性です。定期的なメッセージとして示す内容には、中長期ビジョンや年度目標など、組織として掲げている方向性を盛り込みながら、そのために日常の職場でどのような点を意識してほしいのか、採用や育成面ではどのようなことに力を入れていくのか、視野を広げて伝えていくようにしましょう。

今の時代、『Chatwork』や『Slack』などデジタルコミュニケーションツールを通じて文字情報として日常的に高頻度でメッセージを伝えることができるようになりました。『Zoom』等を使って動画・音声情報をリアルタイムに表現し、アーカイブとして残すこともできるようになっています。社内広報活動としてデジタルツールを活用し、定期的に発信をしていきましょう。

また、経営者自身の『Facebook』や『Twitter』などのSNSで「社外に対してどのようなメッセージを発信しているか」という点もリアルタイムで社内に伝わっています。「職場では社員に対していつも厳しい言動ばかりなのに、社外ではずいぶん穏やかな一面しか示していないんだな」「Facebookではあんなこと言っているけれども、社内ではそんな話、聴いたことがないな」等、”社外で示す理想と日々の現実とのギャップ”がシビアに伝わってゆくこともあります。経営者は、社外に示すSNS等でのメッセージも常に社員にも見られていると理解し、そこに齟齬があったり、誤解が生じたりしないように、言葉の使い方に意識を傾ける必要があるのです。

【こちらの記事も】あの人がどうして?誰でもなり得る「心が壊れる前兆」と経営者として取り組むべきこと

経営者として意識すべきこと

管理職への接し方も意識する必要があるでしょう。社内でパワハラがあった場合、経営者だけではなく管理職も責任を問われる可能性があります。「部下に少しでも厳しいことを伝えたら、いつパワハラと言われるか分からないから指導するのが恐い」「管理職になると業務過多に加えてハラスメントに関する責任も負わないといけないから、自分は管理職にはなりたくない」といった声が組織で多く挙がるようになったという話も耳にします。組織全体へのメッセージを示すだけではなく、管理職に対するフォローアップとして、社内勉強会・研修の場を設け、管理職自身が抱く不安や懸念を対話しながら吐き出していく機会をつくることも重要です。管理職自身が恐れを持たずに自信をもってキャリアを歩んでいく姿が、次世代の社員にとっても希望を示してくれるはずです。

 

本来、ハラスメント対策の意図するところは、“心理的安全性が高い、恐れのない職場をつくる”ということです。安心安全な空気感のもと、一人ひとりが失敗を恐れずにチャレンジし、経験からの学びを分かち合える風土は、企業の持続的な成長をもたらします。

「Well-being」という言葉も注目されていますが、個人の心身の健康は、職場のエンゲージメント向上につながり、組織の健全性は地域社会の「Well-being」にもつながります。ハラスメント対策などの人事施策を通して、自社がどのような組織の状態を目指したいのか、経営者自身が考え未来像を描いていくことが重要です。

【こちらの記事も】中小企業のハラスメント対策、具体的に何をすればいい?

【参考】「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」 / 厚生労働省
あかるい職場応援団「ハラスメントの類型と種類」 / 厚生労働省

*jessie、Ushico、ふじよ、kikuo、風見鶏 / PIXTA(ピクスタ)