
会社設立時の役員構成の決め方は?弁護士・中小企業診断士が解説【経営の基礎】
株式会社は、会社の意思決定を行い業務を行うため、取締役・取締役会・代表取締役などの役員構成を決めなければなりません。これは会社の実情に応じて適切なものにすることが重要です。
起業に興味があり会社設立を検討しているプレ経営者や、個人事業主として起業し今後会社組織として発展させていきたいと考えている経営者の中には、そもそも法律上どのような役員構成が可能なのか、また、自社の事業を行っていく上でどのような役員構成とするのがよいのか、よくわからないという方もいるかもしれません。
そこで今回は、これから株式会社を設立しようと考えている方に向けて、比較的小規模な株式会社(厳密な想定はしていませんが、さしあたり従業員数が、製造業・その他で20人以下、商業・サービス業で5人以下をイメージすると理解しやすいです)を念頭に、まず法律上可能な役員構成について説明します。その上で次に、実際に事業を行っていくにあたって、どのような役員構成にすべきかについて、弁護士兼中小企業診断士の筆者が日頃接している小規模な会社なども参考に検討したいと思います。なお、引用する条文は、いずれも会社法です。
【参考】会社法(平成十七年法律第八十六号)/ e-Gov
役員構成の基本的なルール
すべての株式会社は株主総会と取締役を置かなければなりません。
株主総会は、会社への出資者である株主が直接参加し、決議により会社の意思決定を行うための機関です。平たく言えば、株主は会社へ出資した“会社の所有者”です。株主を構成員とする株主総会は、出資割合に応じた多数決によって、会社に関する基本的事項(例えば取締役の選任と解任)などを決定します。
取締役は、株主総会で決議する事項を除いた会社の業務上の意思決定や具体的な業務の執行を行います。平たく言えば、取締役は会社の所有者である株主より会社の運営や管理を任された者であり、日々の会社経営を行う役割を有しています。
つまり株主総会と取締役との関係は、会社経営に関する委任者と受任者の関係と言えます。
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執行役員と取締役の違い
中小企業においてもたまに経営幹部に“執行役員”という肩書きを付与しているケースが見られます。しかし、執行役員は法律上の制度ではなく(指名委員会等設置会社における執行役と異なる点に注意)、取締役の数を減らして意思決定のスピードを図るための実務上の工夫として用いられるものであり、法律上の“役員”には含まれません。
小規模な株式会社が実現可能な役員構成
株主総会と取締役がそれぞれどの程度の権限を持つかは、会社が取締役全員で構成される取締役会を設置している会社(取締役会設置会社)か否かによって異なります。取締役設置会社とそうではない場合に分けて、会社法をベースに実現可能な役員構成を見ていきましょう。
取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社の場合、比較的小規模な株式会社が現実的に採用する可能性がある役員構成は、取締役会(3人以上。代表取締役の選任が必要)+監査役です(株主総会は必ず設置するので省略)。
取締役会設置会社は、株主総会は法令・定款所定の基本的事項に限り決議し、それ以外の事項はすべての取締役(3人以上。331条5項)をメンバーとする取締役会で決定します(362条2項1号・4項)。ただ、取締役会は会議体なので、自ら業務を執行したり会社を代表したりすることはできません。これらは、代表取締役(47条1項、349条1項)や委任を受けた取締役(業務執行取締役)がおこないます。その代わり取締役会は代表取締役などの職務の執行を監督します(362条2項2号)。
取締役会設置会社ではない場合
比較的小規模な株式会社が現実的に採用する可能性がある役員構成は以下の通りです(株主総会は必ず設置するので省略)。
1:取締役(1人以上。代表取締役の選任も可)
2:取締役(1人以上。代表取締役の選任も可)+監査役
取締役会を設置しない会社では、株主総会において会社の組織・運営・管理その他一切の事項について決議し、取締役は株主総会の意思決定に基づいて業務を執行し会社を代表します。取締役の最少員数は1人であり(326条1項)、この場合、その者が包括的な業務執行権と会社代表権を有します(348条1項、349条1項)。取締役を2人以上とするときには、各取締役とも包括的な権限を有しますが(349条2項)、取締役の過半数をもって意思決定をします(348条2項)。この際、取締役の会議によって決定する必要はありません。
取締役以外の機関として、取締役の職務の執行を監査する監査役(381条)、取締役と共同して計算書類等を作成する役割を担う会計参与(333条)があります。会計参与は、主に中小企業における制度の利用が期待されていますが、実例は少ないです。なお、ほかにも監査役会、会計監査人、取締役会設置会社における指名委員会等及び執行役、監査等委員会などの機関がありますが、本稿の対象である比較的小規模な株式会社で採用されることはないため、割愛します。
また、取締役会を設置しない会社においても、取締役の員数にかかわらず代表取締役を置くことは可能です(349条3項)。
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役員構成はどう判断すべきか
では、比較的小規模な会社において、会社設立時にどのような役員構成を選ぶのがよいのでしょうか? 一般論としては、各会社は法律の枠内で会社の資産・事業の規模や公開性、適切な人材を得られるか否かなどの事情を勘案して、最もふさわしいと思われる機関設計を工夫します。ただ、実際には、自ら出資をして会社を設立する株主は、取締役として能動的に経営に参加することを望むケースが多いです。そのため、筆者が日頃接している比較的小規模な株式会社においては、以下のように取締役会を置かないシンプルな役員構成としている会社が意外と多いです。
(ア)100%出資者である取締役が1名で、その者が代表取締役を兼任
(イ)取締役2名、うち1名(100%出資者)が代表取締役、ほかに監査役1名
一方で、設立時に取締役会設置会社とすることにも十分合理性があります。(ア)(イ)のような役員構成の場合、複数の出資者(株主)がいるときには、会社の業務執行において多額の出資者である大株主の意向が全面的に反映され、少数株主の意向が反映されず利益が害されるおそれがあります。そこで小規模な株式会社であっても多数の出資者(株主)がいるケースでは、少数株主の利益にも配慮した役員構成とすることが望ましいと言えます。また、家族や親族が株主であり経営もする、いわゆるファミリービジネスの株式会社においても、取締役会設置会社として、家族、親族から取締役などの役員を輩出することが多く行われます。
役員構成を考える際は、前提として株主構成から考える必要があり、かつ、会社経営の適正を確保するため少数株主にも配慮する必要があると言えるでしょう。
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【参考】会社法(平成十七年法律第八十六号)/ e-Gov
*Luce、Graphs、マハロ、metamorworks / PIXTA(ピクスタ)