登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 経営・財務 > 世代交代したら変えていい?経営理念改定のポイントや注意点を事例を交えて解説
世代交代

世代交代したら変えていい?経営理念改定のポイントや注意点を事例を交えて解説

2022.10.18

「後継社長が事業承継後に意識的に実施した取り組み」のアンケート調査(『2021年度版中小企業白書』中小企業庁)によると、33.5%の経営者が”経営理念の再構築”と回答しています。この調査結果のように、後継社長として会社をうまく主導していくために経営理念の変更を検討するケースは多いといえるでしょう。しかし、安易に変更してしまうとむしろマイナスの影響が出かねません。そこで今回は、後継社長として経営理念を変える際の考え方や注意点、ポイントをみていきます。

そもそも経営理念とは?経営理念の重要性

経営理念とは、ある会社における創業以来の価値観や信念が結集されたものであり、最終的に目指すべき理想像を明文化したものです。会社によっては“ミッション”“バリュー”“フィロソフィー”“社是”というような呼び名で同様の考え方を示している場合があります。

経営理念を定めることで「何のために経営をするのか」「自社の存在意義は何か」という軸ができ、経営者として重要な意思決定を行う際の判断基準となります。逆に、経営理念が設定されていない(明文化されていない)場合は、特に事業継承で社長が交代するとなると、「会社の方向性がわからない」といった不満が従業員から出やすくなることが考えられます。事業承継によるそのような事態を防ぐためにも、経営理念を明文化しておくことをおすすめします。

経営理念やそれ基づいた行動指針を作成することで、従業員も主体的な判断や行動をしやすくなることでしょう。さらに、経営理念が深く浸透していけば、その価値観に共感する優秀な人材の定着や採用にもつながっていくことが期待できます。

【こちらの記事も】業績改善や採用活動にも効果が!? 中小企業がコーポレートブランド確立に取り組むメリット

経営理念は変えていい?変えるべきタイミングは?

経営理念は普遍的なものであり、頻繁に変更するものではありません。しかしながら、「経営理念そのものが時代にそぐわなくなってきた」「事業承継を機に新しい経営理念を確立したい」というような目的や意義がある場合には、変更しても問題ないといえるでしょう。

例えば「北洋銀行」では、2020年3月に30年ぶりに経営理念を改定し“お客さま本位”という言葉を組み入れました。経営理念改定の過程では、転換期に差し掛かっている中で「どういう銀行にしていきたいか」「仕事のやりがいを得るためにはどうすべきか」ということを全職員に問い、経営陣と各職層のメンバーが議論を重ねながら検討していきました。そして導き出されたキーワードが“お客さま本位”という言葉であり、既存の経営理念に加える形で改定をしました。

先代の経営理念を変える際の注意点・ポイント

経営理念は会社として最終的に目指すべき理想像が明文化されたものであり、それを変えるということは会社の存在意義そのものを見直すということを意味します。ここでは、経営理念を変える際の注意点やポイントをみていきます。

目的を明確にする

経営理念を変更する目的や理由が明確でないと、会社としての一貫性が損なわれかねません。安易に変更してしまうと「経営戦略との整合性が取れない」「従業員に求める行動とズレがでて現場が混乱する」ということが起こってしまうでしょう。そこでまずは「なぜ経営理念を変更するのか?」「変更する相応の理由があるのか?」を明確にしましょう。

変えるもの・変えないものを見極める

経営理念を変更するといっても全てを刷新する必要はありません。むしろ、それまで会社が大事にしてきた考え方や方針をすべて変更する方が難しいのではないでしょうか。先の「北洋銀行」の例では、経営理念の骨格は変えずに“お客さま本位”というキーワードを追加しています。このように、これまでの経営理念の根底にある考え方を改めて確認した上で、変えるもの・変えないものを見極めることが重要です。

従業員に意見を聞く

経営理念変更の最終的な決定を下すのは経営者でしょう。しかし、その経営理念を土台に将来に渡り業務遂行していくのは、経営者のみならず現場の従業員も同じです。そこで、従業員の意見を聞いてみることも重要です。従業員の意見も取り入れることで、経営理念の変更も受け入れられやすくなることでしょう。

【こちらの記事も】人事、労務、財務…とすべての対応が必要。少数・マイクロ法人の経営でぶつかったお悩みまとめ

世代交代で経営理念の変更を試みた企業の事例

事業承継を機に経営理念の変更を試みた、ある会社の話をします。先代の急逝に伴い、息子である後継者が事業承継した社員数150名ほどの製造業です。実はこの後継者は先代との折り合いが悪かったこともあり、家業を引き継ぐ意思はなく他の会社で働いていました。しかし、親族や幹部社員の後押しがあり先代の急逝後に家業に戻ってきたという経緯があります。

先代との関係性が良好でなかったことも影響してか、先代のやり方をことごとく変えていく中で経営理念の変更にも着手しました。経営理念を刷新するのかと思われましたが、この後継社長は会社が歩んできた歴史や先代の取り組み、そしてその背景にある経営理念の考え方を時間をかけて調べていきました。そして、最終的に下した決断は「経営理念の文言自体は変えず、後継者として新しい解釈を加える」ということでした。後継者として目指していきたい方向性と経営理念には大きなズレはない一方で、外部環境の変化に対応していくために”後継者としての考え方を追加する”という決断を下したのです。

この事例では経営理念自体の変更はしなかったわけですが、仮に変更していたとしても従業員に受け入れられたのではと思います。なぜなら、後継者として安易に経営理念を変更するのではなく、その背景にある考え方を会社の歴史や先代の取り組みを紐解いていきながら、しっかりと調べ上げて最終的な判断をしたからです。

変更した経営理念の浸透に向けたファーストアクション

経営理念を変更した後は、それを組織の末端まで浸透させていく必要があります。そのためにまず何から取り組めばよいのでしょうか。

経営理念を変更した目的や意義について説明する

「なぜ経営理念を変更する必要があるのか」「新しい経営理念に基づいてどのような会社にしていきたいか」等、後継者としての考え方や思いを経営者自ら説明しましょう。この時に、経営理念を実現するための通過点となる達成すべき経営目標を合わせて説明すると従業員の理解も深まるでしょう。

経営理念に基づきどのような行動を求めるのか明確にする

経営理念は抽象的な概念である場合が多く、そのまま伝えたとしても従業員はなんとなく理解しただけで終わってしまうかもしれません。そのため、重要なことは“いかに従業員の行動まで落とし込めるか”です。抽象的な経営理念から、現場の従業員に対してどのような行動を期待するかといった具体的なことまで、会社の業務や取り組み姿勢等と関連させながら説明しましょう。また、経営理念を人事評価制度と連動させられるとさらなる浸透が見込めるでしょう。

経営理念に常に触れている状態をつくる

従業員が経営理念を常に意識しておけるよう、発信にも力をいれるべきです。まずは、ポスターなどを作成し社内掲示したり、ホームページや社員が使う社内ツールに掲示するといったことから取り組みましょう。さらに、朝礼や月次定例などで唱和する時間を設ける、勉強会を開催するなども有効と考えられます。

経営理念を変えた後に重要なこと

組織の末端まで経営理念が浸透し、従業員が自然と経営理念に基づいた考え方や行動を取れるようになることが理想でしょう。しかし、多くの会社で経営理念の浸透に苦慮しているように、その実現は簡単なものではありません。

経営理念を変えてからがスタートとして、会社一丸となって取り組んでいくことが大切です。例えば、日常的に経営理念を確認する場を設けることや、重要な意思決定を行う際に経営理念とどう関連するのか説明すること等、経営理念を浸透させていく方法は様々あるでしょう。経営理念の浸透は一朝一夕にはいかないことを十分に理解し、後継社長が取り組みを主導していくことが重要といえます。

 

今回は、経営理念を変えるときの注意点やポイントについてみてきました。事業承継等に伴い、経営理念の刷新や改定を検討している場合はぜひ参考にしていただきたいです。

【こちらの記事も】変化を恐れる古参社員とどう付き合い、後継社長としてどう振る舞うか?【後継社長の悩み】

【参考】 『2021年版 中小企業白書(HTML版)』第3章 第1節 / 中小企業庁
新経営理念の策定および新中期経営計画「『共創の深化』~ お客さま・地域から最も信頼されるパートナーを目指して ~」について 』 / 株式会社北洋銀行

*Luce、tiquitaca、mits、takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)

【コスト削減に役立つ】10分でできる「オフィス見直し診断」はこちら